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"あなたがそれを選ぶわけ"予想通りに不合理

人間の判断に欠かせない価値判断の能力ですが、日常生活の中であらゆる判断を行っています。イギリスの神経科学者であるバーバラ・サハキアン教授の研究によると、人は1日に最大3万5000回もの判断に迫られて生活しているということです。

そのような一つ一つの判断に対して、全て熟考を重ねるということは考えられず、少なからず直感を働かせています。そしてこのような決断方法は、行動経済学においても重要な意味を持っています。例えば買い物したいときの選択肢があったとして、価格と機能、機能と重量などといった二つを判断基準にする場合に、どのような判断が下されるでしょうか。

ここでは、アメリカにおける著名な行動経済学者のダン・アリエリーが示す相対性の理論を用いて考察することにします。例えば私のカメラ趣味から言うとすれば、キヤノンのミラーレス一眼を購入しようとしているという状況を考えてみます。そこで下記のような製品を比べて購入を悩んでいるとすれば、一体人は何を購入してしまうでしょうか。

これらの製品はミラーレス一眼という部類のカメラです。同時に難しい性能の話ながら、フルサイズセンサー搭載の機種なのですが、防塵防滴機能やカードスロット数、画素数など多くの機能に差異がある訳です。この場合に、私の判断としては、総合的な性能と価格差で判断すると思います。そうするとどちらを買おうか悩みに悩んだ挙句、「結局は買わない」という判断を下してしまうこともあり得るわけです。

そんな時に、例えばカメラを作る側であるならば、比較的安いR6mk2のシリーズを多く買わせようと意図する場合。「おとりA」のように性能はR6mk2と同じくらいであるが、値段は割と高めの製品を作ることによってR6mk2の方に比重が高まり、お買い得感が高まってR6mk2を買ってしまうことになりがちです。

同時にR5mk2のような高級ラインをより買わせようとするならば、価格は同じくらいであるが、性能が少しだけ劣っている「おとりB」のような製品を売り出すわけです。そうすることでR5mk2の方に比重が高まり、お買い得感により購入の意欲が高まるということです。

このように購入しようという選択肢が二つ存在し、その均衡が保たれている場合。おとり製品やおとりプランといった呼び水がある事で、人は購入しやすくなるということなのです。たとえば、おとり製品として前年モデル、型落ちモデルを同時に販売するという戦略が考えられます。

このように自己選択というのは、一つの自己実現ではあるのですが、この選択に対する価値観ですら明確な基準を持つことができていないことになります。つまり、自分だけの力で選べている訳では無いという事実に気が付くことになる訳です。それが行動経済学を学ぶ理由でもあります。

そういえば、音を聴くだけでその音の高低が分かるという絶対音感というものがあります。それに対して、相対音感というものは養えばだれもが培うことが出来る能力です。音の高低を相対的に把握する事が出来れば、作曲や演奏を行うにも、それで多くの問題は起きません。

この場合、物を見る際の評価基準といった価値観も同様の物であることを理解する必要がある訳です。人間は絶対的な価値観で物事を判断し、または選択する事が往々にして出来ない存在なのです。そうすると自然と相対的に物事を判断してしまっているということを理解しておくことが必要です。

ちなみに、人生の重要な選択。たとえば、進路決定や結婚相手などを選ぶ際にもこのような人間の不合理な判断基準が存在しているのです。

これを応用すれば、介護に適用していく事さえも可能になります。どっちにしますか?というよりもどれにしますか?のほうがいい事もあるという事ですね。ちなみに、お風呂に入ることを拒む利用者が居たとします。支援する立場としては、1日2日程度ならばその意思を尊重するにしても、「垢に食い倒されることは無いから、自己尊重の為にも、1年でも10年でもお好きにどうぞ」といい続ける訳には行きませんよね。

こういう場合には、例えば「シャワーにしますか?熱めのお風呂が良いですか?ぬるめのお風呂が良いですか?どれにしましょう」と、"この3つから"選んでもらうというのも、以上の理論を用いた行動経済学から導き出される声かけの方法の一つになります。実は二つでもいいのですけれど。

また別のパターンを考えてみます。

「帰ったらソファーで一旦横になろう」そう思って疲れて帰ってきたあなたに家族が声をかけるとします。「まずは手を洗ったあとで、ご飯にしますか?お風呂にしますか?」そうすると、何かを選べるだけで嬉しい気分になるに違いありません。そして、必然的にこのようなお願い事を聞いてしまう可能性は上がるでしょう。小さなお願いごとは関連した大きなお願いごとを聞く可能性が上がるというフットインザドアという行動経済学の理論も使っています。

このように行動経済学を応用して、自己選択を尊重するような日常生活の支援に当たって行けると、成功例を導き出し易くなります。そしてそんな成功例を皆で共有していく事で、お互いにとってより良い介護が出来るようになるのではないかと考えているところです。

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