
"権利擁護のはず"成年後見制度の光と影
成年後見制度が日本に導入されてから20年以上が経過しました。この制度は、高齢者や障害を持つ人々の財産と権利を保護するために制度設計されたもの。特に権利擁護の手段として、介護業界においても政府から積極利用が促されています。しかしながら近年、その制度の在り方に対して厳しい批判の声が上がっていることは知っておくべき事柄です。
特に、専門職による財産管理の不正、本人の意思が尊重されない制度運用、そして裁判所の監督が機能していない現状に対し、多くの懸念が指摘されています。成年後見制度は本当に弱者を守る制度なのか、それとも別の意図によって運用されているのか。私たちが制度の被害者にならぬためにも、この制度の光と影にしっかりと目を当てていく必要があるのです。
成年後見制度の変遷と現在の課題
成年後見制度は、2000年に旧禁治産者制度から改正されました。それまでの制度は、家族が本人を保護する形を取っていましたが、新制度では専門職の後見人が管理を行うことが一般的になりました。これは、家族による財産の使い込みを防ぐという目的があったと言われています。
しかし、その結果として生まれたのは「本人と家族の切り離し」です。裁判所によって選ばれた後見人が、本人の財産を管理し、必要な支出も後見人の判断に委ねられるようになったのです。このことにより、家族が本人のためにお金を使うことが難しくなり、また後見人による財産の使い込みや横領といった新たな問題が発生しているのです。
後見人による不正行為の実態
実際に、後見人による不正行為は後を絶ちません。弁護士や司法書士などの専門職が、成年被後見人の資産を流用し、自身の借金返済や遊興費に使うといった事件がいくつも報告されています。さらに、家庭裁判所の監督が十分に機能しておらず、不正が発覚するまでに長い時間がかかることも問題となっています。
このような背景は大きな懸念点です。その結果、国連の障害者権利委員会は日本の成年後見制度が障害者の意思決定権を著しく制限しているとして、制度の抜本的な見直しを勧告しました。成年後見制度が本来持つべき理念と、実際の運用の間には大きな乖離があるのが実情です。
例えば、年の実働1時間で概ね24万から72万円の報酬を得る成年後見人の実態があります。手数料として流動資産が1千万円以下の本人からは、月2万円。流動資産が5千万円以上の本人から月6万円を取得します。果たしてこの制度が、本人の権利や生活を守ることに繋がるのかといった問題を浮き彫りにするものです。
制度の必要性とその限界
一方で、成年後見制度が必要不可欠であるという意見もあります。判断能力が低下した高齢者や知的障害を持つ方が、悪徳業者に騙されて財産を失うことを防ぐためには、専門職による適切な管理が求められます。また、家族間での財産トラブルを防ぐためにも、第三者が関与することも重要だと考えられます。
もし家族が後見人となった場合、親族同士の紛争が激化する可能性もあるでしょう。そのため、成年後見制度が一概に完全な悪であるとは言い切れません。だとすれば、本人や家族そして専門職が包括的に絡み、お互いを監視し合えるようなジンテーゼとしての制度が必要であるように思えます。この場合、会社法でいうところの取締役同士や監査役のように互いが監視し合い、公正さを担保する存在でなければならないのだと考えます。
成年後見制度の最大の問題点とは
しかしながら、現状の成年後見制度には、本人の意思が反映されにくいという決定的な問題が存在します。この制度の目的は「本人の財産と権利の保護」にあるはずですが、実際には「本人の財産管理を後見人が完全に掌握する」形となっており、本人の生活や希望が無視されることも少なくありません。
例えば、本人が長年愛した温泉旅行に行きたいと願っても、後見人が「不要な支出」と判断すれば、それは実現されません。また、家族が被後見人のために何かをしたくても、後見人の許可がなければほぼ何もできないという状況が生じています。そうすると自己決定や自己実現といった介護福祉的なニーズが満たされないということになります。
任意後見制度という代替手段
こうした問題を解決する手段として、任意後見制度も存在します。任意後見制度では、本人が判断能力を持っているうちに、信頼できる人を後見人として指定し、どこまでの権限を持たせるかを決めることができます。これにより、不必要な財産管理の強制を避けることができ、本人の意思をより尊重した支援が可能になります。
今のところの制度においては、成年後見制度の有効な代替手段として、任意後見制度を積極的に活用すること。この制度は本人や家族にとってより良い選択肢となるものであると考えます。しかし、この場合においても第三者が不正な支出などに目を光らせるというのも重要になります。
制度変更の論点
また、成年後見制度そのものを見直す必要もあります。まず、家族が後見人になれるケースを増やし、家庭裁判所が厳格に監督しつつも柔軟な運用を可能にする仕組みを構築すべき段階でもあります。さらに、後見人の財産管理を透明化するための仕組みを導入し、例えばデジタル技術を活用してリアルタイムで監査を行うことができれば、不正のリスクをある程度に減らすことができるものと考えます。
私たちが出来る議論
私たちは、成年後見制度を決して他人事として捉えるのではなく、いつか自分や家族にも関わる問題として認識するべきです。高齢化が進む社会において、この制度が適切に機能しない限り、今後多くの人々が不利益を被ることになります。つまり、制度の在り方について議論を深め、改善を求める声を上げることが、より公正で本人の尊厳を守る社会を実現するための第一歩なのではないでしょうか。