東電福島第一原発事故処理を元役人がニュース記事から解説 〜除染費用の原資〜
私は霞ヶ関の会計検査院という役所で、国民負担の目線から東京電力や経産省の検査を行っていました。検査の過程で福島第一原発の原子炉建屋にも入りました。そんな私から見た東電のあり方について述べたいと思います。
さて、1週間前のニュースですが、私が携わっていた仕事の話が出てきます。原発問題にご興味のある方は、フラットな目線で読んでいただくと勉強になるかもしれません。
ニュース記事はこちら。
福島第一原発事故から10年が経とうとしているところで、区切りの記事になっています。
記事では、21.5兆円の賠償・廃炉費用のうち、除染費用である4兆円にフォーカスしているので、前提知識がないと、やや分かりにくいですね。全体像については、会計検査院の検査報告に分かりやすく記載してあります。
こちらは、当初見積りの11兆円から倍の21.5兆円になった経緯について、項目ごと・最終負担者ごとに整理した表になっています。これを見せた時の新聞記者のウケが凄く良かったのを覚えています。ちなみにこのパートは私が書いたものではありませんが、私は主に東電の経営改革について数十ページ書いています。
この表から分かるとおり、賠償・除染・中間貯蔵に係る費用13.5兆円は国債の発行により国が一旦肩代わりしています。そして、賠償については、各原子力事業者が分担することとし、毎年の利益から負担金として国が徴収しています。また、除染については東電のみが負担することとし、原資は国が保有している東電株の売却益を充てることとされています。ちなみに、廃炉費用については、国は肩代わりしておらず、東電が自前で資金を用意しなければなりません。
さて、除染に話を戻して、この4兆円分の国債については、記事にあるとおり、東電の株価が高くならなければ償還することができず、将来的に増税するなどして国民負担が増えることになります。
これを踏まえて、東電の株価について掘り下げたのが今回のニュース記事というわけです。で、私たちがやった仕事が次のとおり引用されています。
会計検査院によりますと、4兆円の利益を出すためには1株平均300円、1兆円で取得した株式を平均1500円、5兆円で売却することが必要ですが、東京電力の株価は今月も300円台で推移し、実現のめどはたっていません。
株価はどうなるか
アナリストは厳しい見方です。記事には明確に書いていませんが、廃炉は計画どおりに進まず、経産省の役人とて廃炉費用が8兆円に収まらないことは心では分かっているのではないでしょうか。
電力需要は右肩下がりで、なおかつ規制業種のためトップラインを伸ばせない中、経営を効率化することで利益を捻出しなければなりません。事故後に導入したトヨタ式カイゼンが浸透して久しく、カラカラの雑巾を絞るような状況になりつつあります。虎の子の柏崎刈羽原発の再稼働についても、まだまだ不透明です。
市場の評価は、これらの事象を織り込んで今の株価水準になっているのでしょう。
実は東電株の売却益が原資ではない?
ちょっと何言っているか分からないかもしれませんが、21.5兆円を試算をした当時から経産省は別のスキームも想定していました。これは新々・総特にも微妙な表現で書かれていますし(引用は割愛)、その部分を作成した経産省の幹部(現東電HD執行役)ともディスカッションしました。
ご存知の方もいると思いますが、東電と中部電力とで合弁で設立した火力事業+海外発電事業の子会社JERAを上場させ、ちょっと言葉は悪いですが、IPOブーストで吊り上げた株価でJERA株を売却し、その売却益を原資にしようと考えています。その当時のニュース記事がこちら。
しかし、そのJERAも最近はなかなか厳しいという記事がこちら(頼みの綱「JERA」の経営を直撃したLNGの弱点)。
この記事では、JERAの上場について書かれています。
株価引き上げができなければ、多額の国民負担が発生する可能性がある。この批判を避けるためにもJERAの上場は東電HDが是が非でも成し遂げたいところだ。
東電には稼いでもらうしかない
原発事故を起こした張本人である東電を憎んでいる人も多いと思います。ただ、国民負担を抑えるためには、東電に稼いでもらうしかありません。東電を即刻解体せよ、なんて原理主義的な人もいますが、廃炉だって誰かがやらなければならないわけで、それをやらせるなら東電をおいてほかにはいないはずです。
おわりに
原発には賛否両論ありますが、目の前にある事故処理については冷静に考える必要があると思います。本稿が少しでも参考になれば幸いです。
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