ペスカトーレ〜僕の同居人#8〜
奴との同居生活が始まってから、
(ほぼ)毎日の散歩が定着化しつつある。
こんなに歩いているにも関わらず不思議と体重は変わらない。
そんな中、僕らの深夜の散歩に新たな目標ができた。
ライトアップされた東京タワーを拝もうというものだ。
毎度、東京タワーに到着した頃には僅差で消灯されてしまう。
単純に早く家を出ればいいだけの話なのだが、
依然、目標は達成されずにいる。
「ペスカトーレは食べられる?」
「なにそれ?」
とある日の夜。
珍しく僕らは晩飯を家で作ろうという話になった。
ところがこれが難しい。
ちょっと遅めの晩飯が”ペスカトーレ”に決まり、
夜のスーパーへ食材を買いに行くことに。
トマト缶と魚介があればペスカトーレは完成する。
だが、デブ2人はプラスアルファを求めてしまう。
「たこ入れていい?」
「俺は好きじゃないなぁ。パクチー入れようよ」
「パクチー大嫌い。それより大葉は?」
「大葉は要らない。ほうれん草にしよう」
「ほうれん草かぁ・・・」
「クリーム系にする?」
「クリーム系のパスタは好きじゃないなぁ」
「あ、生麺にする?」
「いや、こっちの乾麺!」
と、まあ僕らの好みは一ミリも合うことなく、
買い物は思いの外、長引いたのだ。
いつもは外食で各々が好きな物を注文していたので、
何か食べるだけでこんなに揉めたのは初めてだ。
そもそも。
僕らは、趣味も好みもセンスすら全く真逆な人間なのだ。
僕はお酒を飲むが、
奴はとてつもない下戸。
奴は甘い物が大好きだが、
僕は食べられない。
奴はアイドルが好きだ。
僕は名前すら知らない。
奴はオシャレが好きでよく服を買う。
僕は無頓着で数年に一度しか買わない。
奴は帽子を毎日被る。
僕は世界一帽子が似合わない。
僕はバスケ部、
奴は帰宅部の上スポーツに興味ない。
映画はヒューマンドラマが好きだ、
奴はホラーとサスペンスが好きだ。
奴が聞く音楽は僕は聞かない。
好きなおにぎりの具も違ければ、
好きな女性のタイプも好きな芸能人も全く違う。
奴と僕との共通点は、
せっかいちであることと二足歩行だけだ。
こんな意見の真逆な二人が一緒に晩飯を作ろうとしても、
うまくいくはずがないのだ。
そういった中、
お互いの固持と譲歩が繰り返しなされ、
議論を重ねた末、決まった折衷案こそ
この”ペスカトーレ”なのだ。
なんとか食材も購入し、帰宅。
デブ二人分のパスタを茹で、
僕らは、というか、ほぼ僕がペスカトーレを作り上げた。
完成したパスタは一般男性4人前の爆盛りになったが、
これまた美味い!
手前味噌だが、
下手なお店で食べるよりも美味しくできた自信がある。
色々と揉めはしたが、
お互いが歩み寄って初めて一緒に完成させたペスカトーレに満足した僕らは
また夜の街へと歩き出す。
ただ僕らの体重はというと、
不思議と変わらない。
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