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6月上旬。 奴は日本に帰国した。 "奴"とは、 付き合いの長い地元の友人である。 奴が大学卒業後、 仕事のためバングラデシュに移住し、 日本には年1で帰国する。 その度、僕らは会って近況を報告しあう。 ただ、 今回は違う。 奴が住むバングラ(デシュ)では、 コロナの蔓延が凄まじいく、 一日で感染者が数千人という増え方で急増してるらしいのだ。 その影響により、 奴に会社から日本への帰国命令が出て、 暫くバングラには戻れないという。 そう。 無期限の日本滞在が決ま
コロナの影響で奴はバングラデシュから帰国した。 それから僕と奴との同居生活が始まったのだ。 同居と言っても、 僕の家は至って普通のマンションの1Kの部屋だ。 決してデブ2人が長時間共にして良い空間ではないことだけは分かって欲しい。 簡単な話、常に密だ。 このご時世あまり大きな声では言えないが。 ただ家で一緒に居る時間は殆どない。 お互い別々の時間に仕事が終わり、 別々に帰宅する。 晩飯も各々済ませて帰る。 それから、 晴れていれば深夜1時くらいまで散歩。 雨な
奴との同居生活中、 僕は睡眠時に口テープが義務付けられた。 僕のいびきがうるさいという苦情は、 次第に正式な嘆願へと変わり、 いよいよ、 ルールという形で突きつけられた。 当然のように、 「会社から持ってきたから」 と、ただの紙テープを押し付けられた。 僕はそれを口に貼って寝る生活が始まったのだ。 たいてい朝には丸まってどこかに消滅するか、 口の中だ。 確かに僕のいびきはうるさい。 らしい。 たまに無呼吸にもなる。 らしい。 それで
燃えるゴミの日のことだ。 「しっかり分別して下さい」 その注意書きと、 ご丁寧に缶コーヒーがしっかり透けて見えるゴミ袋の写真付きの紙が家に届いた。 どうやら可燃ゴミの袋に缶コーヒーが紛れ込んでいたようだ。 それを管理人が発見し、 僕らが出したゴミだと特定したようだ。 問題は缶コーヒーのことではない。 その注意書きの宛名だ。 僕と同居人の名前の連名になっているのだ。 まず犯人は奴である。 それは間違いなく。 ただ、 「共犯だ」 そう言われたような気がし
(これは8月中旬の話) 「最後にやり残したことをやろう」 仕事終わりに僕らは話し合った。 別に奴が死ぬわけではない。 余命はわずかだが。 (#7に詳細) ただ、本当に奴が死んだと思ったことがあった。 考えたら常に奴は死と隣り合わせの日々を送ってきたかもしれない。 数年前にバングラデシュのとある街で爆破テロが起きた。 その時テレビを見ていた僕に、 20代男性で同じ地元の日本人がテロに巻き込まれて亡くなった という訃報が速報で流れこんだ。 即座に奴の顔が