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余命3年〜僕の同居人#7〜

奴との同居生活中、
僕は睡眠時に口テープが義務付けられた。  

僕のいびきがうるさいという苦情は、
次第に正式な嘆願へと変わり、


いよいよ、
ルールという形で突きつけられた。


当然のように、 

「会社から持ってきたから」 


と、ただの紙テープを押し付けられた。


僕はそれを口に貼って寝る生活が始まったのだ。

たいてい朝には丸まってどこかに消滅するか、
口の中だ。 

確かに僕のいびきはうるさい。  

らしい。

たまに無呼吸にもなる。 

 
らしい。


それでも僕のいびきの方が騒がしいというのは釈然としない。
 


そんなことより、
よっぽど奴の方が深刻な問題を抱えている。


と言うのも、
奴はかなりのショートスリーパーだ。


睡眠時間は平均3時間。

ロバと同じ。


それも3時間ぐっすり寝るわけではない。
そのうち熟睡しているのは10分くらいだ。

眠りが浅いせいか、
こっちの音や会話をぼんやり聞こえるそうだ。
奴は伊集院光さんのラジオを聴きながら寝ているのだが、
ほとんど内容を覚えてるという。
 


だから、余計僕のいびきが気になるのかもしれない。


そんなもんだから、
奴は睡眠導入剤が無いと寝れない体になっている。
酷い時は、ホントかどうか知らないが
象も意識を飛ばすという睡眠薬を使うらしい。
※合法の睡眠薬


そのくせ、
寝れる時はゆっくり寝ればいいのに


「朝活がしたい」


と、謎の目標を掲げ、

宣言通り早朝に起き上がっては、
わざわざ椅子に座ってニ度寝をかます。

そんな無意味な朝のルーティーンで
更に自分を追い込んでいる。


そもそも、深夜までネットや海外ドラマに夢中で就寝時間が5時ってのも異常だ。


そんな不健康な毎日を過ごしているわけだが、健康のために唯一めげずに散歩はこなす。   


そうそう。


完全に散歩が習慣化されてきている中で、
変な目標も立てられた。  

ライトアップされた状態の東京タワーを真下から見る、という目標だ。


毎回到着する頃には
消灯時間の12時を過ぎてしまう。

単純に早目に家を出れば良いことなのだが、
今のところ達成されていない。



そんなある日。


奴との同居生活が始まって以来、
僕に初めての休みがやってきた。
珍しく奴と昼間に外出しようということになった。


「表参道で服を買いたい」


と、奴が言うので仕方なく表参道へ行くことになった。 

僕らは表参道、原宿近辺を歩いた。


奴は

「この店がいい!」

と、直感で10メートルおきにお店に入っては、


「やっぱ違う!」


と、滞在時間およそ20秒でお店を後にする。 

それを何店舗も繰り返した。

入口にあるアルコール消毒液でただ手の除菌をして回っただけである。 


僕は人の買い物に付き合うことがなによりも退屈だ。
ただでさえ自分の買い物も億劫なのに、
奴の買い物に連れ回されヘトヘトになった。


ようやく、
好みの店に辿り着いた。


分かりやすく奴のテンションが上がる。


よく見たら雑貨屋だ。    


「服は??」


散々店を回った意味も虚しく、
雑貨屋で買い物を始めた。

結局、小物類をいくつか購入して
奴は今日の買い物を満足に終えたのだ。


まあいい。


それから、
明治通りを進み渋谷に向かった。


僕らは一服できる店を探した。
このご時世タバコを吸える所なんて、
公衆電話を探すことより難しい。

暫く考え、  

「シーシャが吸える店ならタバコは吸える」 

と、閃いた。 

お目当ての店はすぐ近くにあったので入店し、
シーシャをチェイサー代わりに僕らは喫煙にありつけた。


カロリーを相当消費したデブ2人は、
小腹が空いたのでエネルギーチャージのためすた丼に向かった。

特にやることがなかったので、


「この後、占い行かない?」


と、唐突に提案してみた。    



「いいよ」


断られると思いきや、
意外にも快諾してくれた。

どうやら奴は海外での旅先でよく占いに行くらしい。

占いに興味があったのには驚いたが、
それ以上にその占い結果はとんでもなかった。  


奴はどの国の占い師に聞いても、   


32歳で大病を患う
もしくは、
はっきりと死を宣告されたのだ。


占いでピンポイントではっきり死ぬと言われることなんてないと思ってたが、
奴は何人もの占い師に余命を宣告されたようだ。


そうゆうわけで奴は日本の占い師に賭けた。


余命が伸びることを。

僕らはすた丼を食べてすぐに近場の占いに向かった。 


雑居ビルの2階にある占の館に到着して
お互いなんとなくで占い師を選んだ。

そして僕らは別れて占ってもらうことに。

各々カーテンで仕切られ、
客と占い師はコロナ対策によりビニール越しで対面した。


僕は仕事を中心にタロットカードとオーラでおよそ30分程みてもらった。

とても感じの良い女性の方でかなり的確なアドバイスも頂き、話も弾んだ。

結果的に割と良いことを言われたので、
僕は満足してお店を後にした。  


お互いの結果報告は我慢して、
喫煙所に向かった。

喫煙所に着くや否や、
僕は奴の占い結果を聞いた。 


「どうだった?余命は?」

奴は重い口を開いた。


「おばちゃん、なにか言いたそうだったけど口籠った」


奴は占い師に気を遣われたようだ。

完全にダメな未来を見た占い師が、
何も言えなくなってしまったのだ。


そして占い師の最後のアドバイスは、
 

「病院で検査してもらった方が良い」


完全に詰んだ。

医者に言われるやつだよ。


どうやら奴は病気で32歳で死ぬらしい。



流石に奴はかなり落ち込んでいる。
そりゃ落ち込むだろう。


小中高とずっと皆勤賞で、
丈夫が唯一の取り柄だった奴は、
病死することが決まったのだから。



ただ、



僕は死因を知っている。
それだけは占い師よりはっきりと。



睡眠不足



「あと、結婚は無理って」


それも知っている。

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