浜松のうなぎが高いのは
うなぎを焼く。奥にしまってあるツボのふたをあけて、タレをじゃぼんとつけて、そっとひとぬり、ふたぬり。
お待ちどう、今日のうな重です。
愛情というのは、うなぎのたれに似ている。毎日毎日継ぎ足して、人様の家のものを盗んだり、借りたり、することはできない。
うまみだけじゃない。苦味も、えぐみも、辛味もある。塩味がやたらきついのは一子相伝ゆえ、ご愛嬌。
うなぎやは一生かけて、そのタレを毎日毎日継ぎ足して使っていく。
瓶の底が見えては一休みして継ぎ足し、瓶にヒビが入ればこれまた一休みして直し
「うなぎって高いわねえ」
きみはそう言ったけれど、うなぎが高いのには歴然とした理由がある。これほどに、愛情が求められる料理があるだろうか。これほどにきみを回想させる料理が他にあるだろうか。
浜松。このまちでは今日もうなぎやたちがあくせくと、愛情の味を磨いている。
浜松。このまちにくる旅人たちは、自分の愛情を確かめたくなる。