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ピッコマで0円で読める『ジャンル、変えさせて頂きます!』がとにかくめちゃくちゃ面白い!
まあ、タイトルですべていい尽くしているわけですが。
ウェブトゥーン(縦読みマンガ)のサイト「ピッコマ」で100話以上にわたって連載され、先日みごとに完結した作品『ジャンル、変えさせて頂きます!』が面白いのです!!!
ピッコマには大量のウェブトゥーンが掲載されていて、「待てば無料」のシステムを良いことにぼくもいろいろ読んでみたのですが、この作品はちょっと頭ひとつ、ふたつ抜けて面白い。
なぜ、「まあ、なかなか面白いよね」くらいに収まる作品が多いピッコマのなかで、これだけがそこまで抜きん出て出来が良いのか、その秘密は良くわかりませんが、とにかくぼくはすっかり魅了されてしまったので、この記事では、この、世間ではいまひとつ熱く語られていない感のある作品を伝導する宣教師となってその魅力をお伝えしたいと思います!
よろしくお願いします。
何がそんなに面白いのかというと――
さっそく、このマンガの何がそんなに面白いのか説明しますね! ――えーと、何だろう?
いや、待って! 呆れないで! ほんとうに面白いんですよ。連載の終盤ではわざわざおカネを払って最新話を追いかけていたくらい面白い作品なんだけれど、それでは、その魅力がどこにあるのかというと、じつはいまひとつはっきりしないんですよね。
もちろん、絵は非常に美麗だし、サスペンスフルなストーリーはとても惹きつけられるのだけれど、それだけなら他にもそういう作品はある。でも、このマンガだけはなにか格別に大好きなんですよね。
いったいどこに秘密があるんだろう? まず、『ジャンル、変えさせて頂きます!』の特徴として、主人公が「わりとふつうの女性」であることが挙げられます。
聖女とか悪役令嬢とか乙女ゲームの主人公とかじゃないんですよ。かなりの美人であることはまちがいないけれど、比較的ふつうの感性を持った成人した女性。
そう、この点がいちばん好きなのかもしれない。ものすごい美少女とかを主役にしたマンガやウェブトゥーンはいっぱいあるけれど、「ちょっと綺麗なふつうのお姉さん」が主人公の異世界ファンタジーって意外に少なくないですか?
また、この人があくまで一般人の感性を持っているんですよ。その彼女が陰謀渦巻く貴族社会のなかでどう振る舞うか?がストーリーの中核になっています。
あらすじはこうだ!
ここでちょっと手抜きしてこの作品のあらすじを引用しておきましょう。
「え?ここって”あの小説”の中!?」 ある日目を覚ますと、そこは大好きだった小説「冬の森の主」の世界! よりにもよって幼い主人公ルカをイジメる悪女の叔母に憑依していた…夢も希望もない復讐劇の主人公であるルカを不憫に思い、かつて小説で読んだ”叔父が迎えに来る日”まで懸命に育てることを決意!…のはずが「お…お母さん!」 突然、叔母から母親にーっ!?「親子の仲を引き裂くわけにはいきません。あなたも共にヴィンターバルト家へ参りましょう」 ちょっとちょっと…復讐劇から逃れられると思ってたのにどうなってるのーっ!!
まあ、こういう話であるわけなのですが、これだけを読んでもありきたりの「フィクションの登場人物に憑依もの」でしかないと思われる方はいらっしゃるかもしれません。
そうなんだよねー、あらすじだけを見るとそこまでの傑作とも思えないんだけれど、じっさい読んでみると、もう! もうね、なんか登場人物を大好きになってしまうんですよ! 何なの? 魔法? 魔法なのかな。
ページをめくる手を止められない(ページないけど)
まあ、優れた作品はどれも魔法めいたテクニックで読者を魅了するものではありますが、このマンガの場合、ほんとうにどこに秘密があるのか良くわからない。
初めは「絵は綺麗だけれどそれなりかな……?」などと思っていたんですよ。それが、いつのまにやら主人公のユディットやら、彼女の甥である『冬の森の主』の主人公ことルカやら、かれらの親戚でありその国で最高の大貴族にして優秀な軍人でもあるリューディガーやらを大好きになっていたんです。
やっぱり魔法? 黒魔術? 催眠術とかかもしれない。
しかし、いま序盤の三話くらいを読み返してみたのですが、この時点で色々と伏線が敷かれていますねえ。あと、絵柄が後半ほど美しくない。作家の進歩が良くわかります。
まあ、そういうわけで、あらすじだけを取ってみたら「よくある、それなりに面白いウェブトゥーン作品」にしか過ぎないようにも感じられるのですが、じっさい読んでみると、波乱万丈、ページをめくる手を止められない(いや、ウェブトゥーンだからページという概念はないんだけれど、比喩よ、比喩)名作なんです、これが。特に終盤の畳みかけるような展開は素晴らしいです。
テーマはこうなっています
物語はあたりまえの市井から始まって、やがて王侯貴族の世界に入っていくのですが、そこからの展開にはかなりオリジナリティがあります。
庶民たちが望んでも得られない富貴と名誉を独占しているかれらは、しかし、だれもがそれぞれの「愛」と「孤独」を抱えているのですね。
そう、この作品のテーマになっているものはそこなのだと思う。どんなに富や権力に恵まれていたところで、「ほんとうに欲しいもの」を得られなければしあわせにはなれないということが、『ジャンル、変えさせて頂きます!』ではくりかえしくりかえし描かれます。
そして、ルカやリューディガーを初めとして、ほとんどすべての人たちが何らかの形で求めるものを得られていないのです。
かれらはその国のトップに立つ王族や大貴族であるにもかかわらず、「ほんとうに欲しいもの」だけは手に入れることができていません。
それは「愛する人の心」であったり「自由な人生」であったりしますが、その不足しているものを手に入れるため、さまざまな行動に打って出るのです。
そのアクションが複雑に連鎖して物語を構成し――そして、主人公ユディットはそのただなかに巻き込まれていきます。
ああ可哀想なユディット。がんばってね。
このくらいにしておいてやる
さらにそこに「なぜかユディットが知っている『冬の森の主』のストーリーと現実がズレていく」という謎が絡んでいくのですが、それより何より豪華絢爛な貴族社会のなかで、あくまでふつうの一般市民の感覚を失わないユディットがぼくは好きです。
彼女のいってしまえば凡人としての視点があるからこそ、とんでもなく華美な(だが、どこかさみしさやむなしさを抱え込んだ)上流階級の生活が胸に迫ってくるのでしょう。
他にも語りたいところはあるんだけれど、とりあえず、このくらいにしておいてやろう(エラソーに)。
ピッコマでは「待てば0円」のシステムでかなり終盤に近いところまで読めるので、良ければ読んでみてください。最近の少女マンガというか女性向けマンガのなかではベストに近いオススメなんです。
果たしてユディットは悲劇に終わった『冬の森の主』の筋書きを変更し、みごと「ジャンルを変えさせて頂く」ことができるのか? 女性にはとくにオススメですが、たぶん男性でも楽しめると思うので、そちらの貴方もぜひどうぞ。
いっそありえないくらい豪奢で華美な、しかしどこかに癒やせない哀しみをひそめた冬の森の世界があなたを待っています。オススメだよ!
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