『二十四人の哲学者の書』日本語訳
Liber XXIV philosophorum
Congregatis viginti quattuor philosophis, solum eis in quaestione remansit: quid est Deus? Qui communi consilio datis indutiis et tempore iterum conveniendi statuto, singuli de Deo proprias proponerent propositiones sub definitione, ut ex propriis definitionibus excerptum certum aliquid de Deo communi assensu statuerent.
二十四人の哲学者たちの集いにおいて、残された問いは神とは何かというものだった。彼らは協議の結果、再び集まる日を約し、神の定義について各々が提案することにした。それらの定義に共通して同意されるものによって、神について疑いの余地のない何かを確立するためである。
I. Deus est monas monadem gignens, in se unum reflectens ardorem.
1. 神はモナドを創造するモナドである、単独で自らに情熱を向けて。
II. Deus est sphaera infinita cuius centrum est ubique, circumferentia nusquam.
2. 神は無限の球体であり、その中心はどこにでもあり、表面はどこにもない。
III. Deus est totus in quolibet sui.
3. 神はその全てにおいて完全なものである。
IV. Deus est mens orationem generans, continuationem perseverans.
4. 神は祈りを生み出し、維持し続ける心である。
V. Deus est quo nihil melius excogitari potest.
5. 神はそれ以上良いものを想像できないものである。
VI. Deus est cuius comparatione substantia est accidens, et accidens nihil.
6. 神はその構成において本質が非本質であり、非本質がないものである。
VII. Deus est principium sine principio, processus sine variatione, finis sine fine.
7. 神は始まりのない始まり、変化のない過程、終わりのない終わり。
VIII. Deus est amor qui plus habitus magis latet.
8. 神は持つほどに秘められる愛である。
IX. Deus est cui soli praesens est quidquid cuius temporis est.
9. 神はいかなる時も単独で存在するものである。
X. Deus est cuius posse non numeratur, cuius esse non clauditur, cuius bonitas non terminatur.
10. 神はその力を測ることができず、その存在を限定することができず、その善が尽きることのないものである。
XI. Deus est super ens, necesse, solus sibi abundanter, sufficienter.
11. 神は存在や必要を超越し、単独で豊かに充足しているものである。
XII. Deus est cuius voluntas deificae et potentiae et sapientiae adaequatur.
12. 神はその意志が聖なる力と知恵に等しいものである。
XIII. Deus est sempiternitas agens in se, sine divisione et habitu.
13. 神は永遠に自ら行為し、区分も性質も持たないものである。
XIV. Deus est oppositio nihil mediatione entis.
14. 神は虚無の敵、存在の調停者。
XV. Deus est vita cuius via in formam est veritas, in unitatem bonitas.
15. 神は生命であり、その形成へ向かう道は真理、統一に向かうは善。
XVI. Deus est quod solum voces non significant propter excellentiam, nec mentes intelligunt propter dissimilitudinem.
16. 神は、その卓越性により言葉で示すことができず、その不同性により心で理解することもできないものである。
XVII. Deus est intellectus sui solum, praedicationem non recipiens.
17. 神は独りで知り、説教を受けないものである。
XVIII. Deus est sphaera cuius tot sunt circumferentiae quot puncta.
18. 神は点と同じだけの表面を有する球である。
XIX. Deus est semper movens immobilis.
19. 神は常に動きながら不動のものである。
XX. Deus est qui solus suo intellectu vivit.
20. 神は自らの知性のみで生きるものである。
XXI. Deus est tenebra in anima post omnem lucem relicta.
21. 神は全ての光を捨て去った後の魂の闇である。
XXII. Deus est ex quo est quidquid est non partitione, per quem est non variatione, in quo est quod est non commixtione.
22. 神はいかなる分割にも、変化にも、混合にもよらないものである。
XXIII. Deus est qui sola ignorantia mente cognoscitur.
23. 神は無知によってのみ知り得るものである。
XXIV. Deus est lux quae fractione non clarescit, transit, sed sola deiformitas in re.
24. 神は光であり、それは反射によらず、実体の神性を通してのみ輝く。
『二十四人の哲学者の書』Liber XXIV philosophorum
神の定義を集めたこの文書は、ヘルメス・トリスメギストスの作として中世ヨーロッパに広く流布し、22の写本が現存します。失われたアリストテレスの『哲学について』の影響が示唆されており、4世紀のマリウス・ヴィクトリヌスを著者とする説もありますが、12世紀頃の著作と考えるのが無難でしょう。最古の写本は13世紀のものですが、12世紀にもアラン・ド・リール(c.1128-1202/3)による引用があります。なお『二十四人の哲学者の書』という題は元々は付いておらず、マイスター・エックハルト(c.1260-1328)による使用が初出。
短いプロローグに続いて、脈絡もなく雑多な24の神の定義が並びますが、この玉石混交な体が、むしろ24人が知恵を出し合ったというのに相応しいように思われます。
これらの定義の中でも何と言っても有名なのは、第2定義「神は無限の球体であり、その中心はどこにでもあり、表面はどこにもない」でしょう。その引用例は枚挙に暇がありません。しかし今では殆ど言及されることのない他の定義も個性豊かで興味深いものです。
まず第1定義からして、いきなり飛ばしています「神はモナドを創造するモナドである、単独で自らに情熱を向けて」。モナドは別にライプニッツの専売特許ではないのです。
個人的には第21定義「神は全ての光を捨て去った後の心の闇である」が好きですね。光でなく闇が残るあたりが。
それぞれの定義には注釈があり、プロローグと注釈は最古の写本(Laon, Bibliothèque Municipale, 412)にも付いているのですが、それでもこれらは後に追加されたもののように思われます。最初から注釈付けるつもりで編纂したのなら、こんなでたらめな順番にしないと思いますよ。注釈にも2つのバージョンがあり、プロローグや注釈のない写本もあります。今回は注釈に関しては翻訳を見送りました。
Wikisource
https://la.wikisource.org/wiki/Liber_viginti_quattor_philosophorum
BnF Catalogue général
https://catalogue.bnf.fr/ark:/12148/cb16070822z.public
Bibliotheca Philosophica Virtualis
https://www.bphv.eu/content/liber-viginti-quattuor-philosophorum
The Matheson Trust
https://www.themathesontrust.org/library/book-of-xxiv-philosophers-minor
Markus Vinzent's Blog
http://markusvinzent.blogspot.com/2015/02/liber-xxiv-philosophorum-book-of-24.html