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チェンバロ名盤紹介(10):ランドフスカのスカルラッティ

スカルラッティのソナタでは、最初の数小節が、スカーフをかぶり扇をひらめかせる踊り子の登場を思わせることが非常に多い。彼女は自己紹介し、そして退場していく。踊りが始まるのは、彼女が再び戻ってきてからである。

『ランドフスカ音楽論集』 (1981)
Wanda Landowska – Scarlatti: Sonates (EMI, 1993)

正直、ランドフスカのバッハやクープランは今では考古学的な興味の対象でしかありませんが、彼女のファンタジー溢れるスカルラッティの演奏は未だ色褪せてはいません。

ランドフスカは速いソナタでは非常に快活なテンポを取ります。そしてモダンチェンバロのパレットを乱用はしません。繰り返しごとに忙しなく音色を変えるようなことはせず、舞踏の陶酔の源泉である単調さを守ります。当たり前ですが、彼女はモダンチェンバロの使い方を正しく心得ていて、多彩な音色をもってスカルラッティのソナタの「ストーリー」を鮮やかに描き出しています。

1940年3月にパリで録音された《ソナタ ニ長調 K. 490 (L. 206) 》では、2:00 あたりのところで対空砲の爆音が聞こえます。

ランドフスカがパリを逃れたのはようやく6月10日のことで、スペイン国境近くのバニュルス=シュル=メールに疎開した後、スーツケース2つだけでニューヨークに渡ることになりました。

置いていかざるを得なかったプレイエルのチェンバロは、ナチスドイツに鹵獲されてしまいますが、戦後アメリカ軍がバイエルンで発見し、その後アメリカ議会図書館の所蔵となって、今もしばしばコンサートで使用されています。

Paris,14 June 1940.

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