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篝の短編小説

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2021年6月の記事一覧

【短編小説】英雄殺しの村

 ──この辺に『英雄殺しの村』があるらしい。
 だが、皮肉にもその村は魔王によって脅かされようとしていた。村から見える山には邪悪な魔王がいるという話を村でそう聞いたのは、去年の冬。僕は、過去にこの村に現れた英雄が携えていた伝説の宝剣を持って、魔王を殺した。
 山からは村の全貌が見えるいい景色だったことを今でも覚えている。確かに魔王がいた時は禍々しかったが、瘴気がなくなると空気が澄んでいたのだ。再び

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【短編小説】The Final Train

 ある日の深夜。
 終電逃した男が一人、無人駅の改札前のベンチに佇んでいた。彼はまた今日も残業だった。
 業績を上げねば休みさえもらえない、大変息苦しい企業で毎日彼は真面目に働いていた。
 つい数日前に、なんの音沙汰もなしに同僚が会社を辞めた。引き継ぎもせずに辞めてしまったので、男はなにもわからないまま仕事を丸投げされて、それを文句一つ言わずにこなしていたのだ。
 男の努力は、ただただ報われなかっ

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【短編小説】防人ノ変

 今日は生憎の雨であった。
 平安京の羅城門(注釈:平安京の正門)の角にはいくつか蜘蛛の巣が張られて、神々しかったかつての紅の彩は失われている。
 そしてなにより、晴天の羅城門とは打って変わり、雨天の羅城門はより鬱蒼とした雰囲気を無造作に撒き散らしている。
 この平安京も、華々しい貴族が台頭した時代があったものだ。だが、彼らは今や紛争を幾度となく起こすようになってしまった。
 それを武力で解決する

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