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【入社半年振り返り】新人UXデザイナーが挑む:顧客と共に進めるデザインスプリントの現場

はじめに

こんにちは。KDDIアジャイル開発センター(KAG)のサービスデザイナー・よねみちです。

本記事では、現在担当しているお客さまとのデザインスプリントについて、自身のKAG入社から半年の軌跡を踏まえつつ紹介していきます。

記事の趣旨

  • KAGのデザインスプリントのリアルなプロセスを紹介します。

  • クライアントワーク/デザインスプリント未経験の新人デザイナーが自信を持ってプロジェクトをリードするまでの立ち上がりを振り返ります。

KAGのデザインスプリントに興味のある方は後半までスキップを!🛫


自己紹介

2023年9月にKAGにjoinした(ギリギリ)20代のサービスデザイナーです。主にUXデザインの領域を得意としています。
HCD-net認定スペシャリストの資格を保有しています。

本記事のようなDX等をテーマにしたデザインスプリントの他に、生成AIを活用したサービスのUXデザインや研修プログラムの講師などを担当しています。

こちらは生成AIプロジェクトについて振り返った記事です。

これまでのキャリア

元々はエンジニア出身です。
新卒で大手自動車メーカーの開発部門に入社し、ナビやメーターなどで構成される車両電子システムのアーキテクチャ設計を行なっていました。
その後、システムで実現する「体験価値」を創りたい思いがふつふつと湧いてきて、UXデザイナーにシフト。
最後の2~3年はアーキテクトと兼任しながら、先行開発PoCや量産をスコープにナビ機能やMaaSのUXデザインを担当していました。

KAGでチャレンジしたいと思っていたこと

「経験とスキルの幅を広げたい」という思いや、PoCで経験したアジャイル開発の躍動感に惹かれたことが転職の動機でした。具体的には以下のようなチャレンジを考えていました。
自動車以外の業界を経験する、自社開発以外にも携わる、アジャイルでやる、デザインの領域を広げる(ビジネス、戦略、UI等)、組織開発やコミュニティ、外部発信にも貢献したい…

そこで、会社立ち上げ期かつアジャイル開発大得意のKAGなら、デザインの断面からいろんなことにチャレンジできそうだなあと思い、入社を決めました。
振り返ってみると、挙げた要素のほとんどに関われており、感謝の限りです

入社時のスキル/経験のイメージ

  • UXデザイン/人間中心デザインの全体像や各種手法は理解している

  • 社内のプロダクトオーナーやエンジニアを巻き込みながら、インタビュー実施やジャーニーマップ設計などのコンセプトデザインを経験

  • 身内でふんわりとやるワークショップはリード経験あり

  • UI設計はFigmaを独学でかじった程度

  • クライアントワーク未経験

  • デザインスプリント未経験 (そもそもデザインスプリントという単語を知らなかった)

怒涛の半年でして、もはや忘れかけてます...

KAG入社 - オンボーデングの軌跡

入社直後:ワークショップに参加し、共通言語を構築

入社し、会社紹介や環境構築などを終えた後にまず行ったことは自分とKAGデザイナーチームとの共通言語の構築、および差分抽出でした。
「デザイン」という単語が意味する範囲が人や文脈によって大きく変わることは想像しやすいかと思いますが(アートワークや設計など幅広いですよね)、同様に細かいプロセスや成果物についても自分の定義とKAGの定義の差分がわからない状況から新入社員生活が始まります。

そこで、既存メンバーが設計したデザインワークショップに巻き込んでもらい、ワークショップ参加を通じてお互いがイメージする言葉の定義やデザインプロセスをすり合わせました。
これにより、会話が通じるようになるだけでなく、自分の(特に不足している)スキルが客観的にわかるようになる効果が得られました。

また、ワークショップでは必然的に長い時間のコミュニケーションをとりますので、気軽に話しやすい仲間が増えて強い安心感を覚えた記憶があります。

デザインワークショップの様子

デザインスプリントを学ぶ

共通言語を構築しスキルを客観視した結果、「デザインスプリント」に対する理解・スキルが不足していることがわかりましたのでキャッチアップを開始しました。

なお、デザインスプリントとは、Googleのベンチャーキャピタル部門である当時のGoogle Ventures社で開発された課題解決手法です。
オリジナル版では以下の5つのステップをそれぞれ1日間かけて行う、合計5日間のプロセスです。

デザインスプリントのプロセス

一度のデザインスプリントの中で課題の定義からアイデアの発散、収束、試作、検証までノンストップで行うことで、短期間に仮説検証サイクルを回すことが特徴です。

学習のプロセスとしては、①本で正確な知識を収集、②研修プログラムの見直しでスキル継承、③研修プログラムの講師として実践の3ステップで行いました。

①本で正確な知識を収集
以下の二冊を何度も読み返しながら、前提となる知識を学習しました。
特に、前者の「最速仕事術」はデザインスプリントを開発したJake Knapp氏の著書であり、いわば原典のため必修です。事例をもとに具体的なワークの手順や考え方が解説されています。
また、後者のJasper Wu氏の本にはリモートワークの場合や日程変更版などカスタマイズ例が豊富に載っておりおすすめです。

②研修プログラムの見直しでスキル継承
KAGがKDDIに提供しているデザインスプリントの研修プログラム講師にアサインいただき、前任者とのプログラム見直しを通じてスキルの継承や不明点の解消を図りました。(前任であり先輩デザイナーの飛岡さん、いつでも快く壁打ちに付き合っていただいてありがとうございました!)

このプログラムは「原典」に忠実に5日分を進める内容となっており、デザインスプリントの「守・破・離」のうち「守」を学習するのにぴったりな内容でした。

以下の"KDU"のカリキュラムの一部に、KAGが担当しているデザインスプリントが含まれています。

③講師として研修プログラムを実践
②の続きです。業界のプロ/専門家として他者に「教える」ためには様々な質疑応答や土壇場のトラブルにも耐えられるだけの正確な理解が必要になります。そのプレッシャーの中で受講生の期待に応えられるように準備し担当した結果、深い理解や実践知が定着しました。

例えば、デザインスプリントではいくつか聞きなれない用語が登場します。スプリントで解いていく仮説を指す「スプリントクエスチョン」や、アイデア発想しやすくするために課題を言い換える「How Might We?」ワークなどです。こうした用語やワークをどのくらい細かくどう解説すればデザイン思考初心者の受講生(あるいはプロジェクトの顧客)に伝わるのか肌感覚を学ぶことができました。
また、プログラム中で、受講生の欠席が偶然重なりワークが成立しなくなるなどのトラブルに見舞われましたが、周囲のメンバーに協力いただきつつ対応しきったことがその後の自信に繋がりました。

いわゆるアクティブラーニングの最たる例「他の人に教える」です。

キャッチアップ完了

ここまでで入社からおよそ3ヶ月。デザインスプリントのスキルを定着させることができました。
また、ワークショップをリードする立ち居振る舞いについても研修プログラム講師や、同時期に並行実施していたワークショップ練習会で習得しました。

ほぼ同じタイミングでお客様とのデザインスプリントの提案が進み、初のクライアントワークが始まりました。
なお、メンバー構成としては私がリーダーを担いつつ、新卒1年目のむぎちゃんとタッグを組んで2名で担当しました。


デザインスプリントの現場

ここからはお客様と進めているデザインスプリントのプロセスを紹介していきます。

プロジェクト提案

営業チームのアプローチの結果、デザインワークに興味を持っていただけたお客様に対して、デザイナーが早期から提案活動に参画していきます。営業メンバーと共にお客様にお会いし、抱えている課題感やKAGへの期待、興味を持っていただけたポイントなどを把握していきます。
その後、持ち帰って具体的なワーク内容を構想し、提案プランを作ってお客様に当てにいきます。

このプロセスを踏むことで、「もっとこういった提案にしておけばお客様の課題解決に向いてるのに…」や「プロジェクトが始まってみたら思ってた内容と違った!」という不幸な事態を回避しています。
今回の場合、例えば、業務改善系のプロジェクトだったため、様々な見えづらい制約が存在しアイデアや課題の良し悪しを現場レベルだけで判断しきれないリスクがあると想定されました。
そこで、スプリント内で行う数回のワークショップにはマネージャーレベルの「プロジェクト判断者」に参加いただけるように直接交渉し、結果としてワークショップ内で下す判断が手戻りしない体制を組めました。

また、提案前の相談フェーズからお客様とお会いできることで、「デザイナー」という言葉が一人歩きすることによる変な期待を持たれずに済む効果もあるように思います。
(「デザイナー」という言葉の解釈が広いため、受け手が想像する人物像に幅が出るイメージがあります)

As-Is 分析

無事にお客様と契約を結び、プロジェクトをキックオフしたらはじめに現状把握から入っていきます。
今回のプロジェクトに関しては社内で使う業務用アプリのアイデア創出&検討がテーマでしたので、エスノグラフィ(行動観察)を取り入れた業務現場ヒアリングを設計しました。
なお、サービス創出がテーマの場合には想定ユーザーへの探索インタビューを企画するなど、テーマと課題に応じて設計していきます。

実際の業務の様子を後ろから覗き込みながら作成した行動観察シート。
合計15枚程度になりました。

結果、業務への理解度が上がりお客様メンバーと同じ目線で議論ができるようになりました。また、「ノートPCでサブモニターを使わずに作業しており、コピペのたびにアプリ画面を切り替える手間が発生している」などのヒアリングだけでは気付けない潜在課題も把握できました。

余談ですが、デュアルモニターの快適さを(プロジェクトとは関係なく)熱心にお伝えしたところ、無事にお客様の職場環境に導入できたようで「めっちゃ楽になった!」とコメントいただきました。よかった。

ワークショップの設計

お客様の課題感や期待されているアウトプット、プロジェクトの期間などに応じてデザインスプリントの具体的なワーク内容はカスタムして提供しています。
今回の場合は3ヶ月程度のプロジェクト期間があり、プロトタイプ制作がゴールイメージにあったため、5ステップで構成されるデザインスプリントのうち前半3ステップはワークショップで集中実施し、後半2ステップは時間をかけてレビュー中心に進める形式としました。
また、前半のワークショップの中でも、「業務が属人化しており、現場のプロセスが担当者以外は詳しくわからない」という課題感が強くあったため、現状理解のフェーズには大きく時間を割くようにしました。

デザインスプリントの5ステップと今回の実施形式

ワークショップで行う一つ一つの作業も、課題に応じてカスタム/開発して臨みます。
例えば、「原典」のデザインスプリントでは現状理解のフェーズでユーザー体験を簡潔に書き表した「マップ」を作成し、アイデア創出のターゲットを定めます。このマップはある程度ユーザー体験や業務プロセスに共通理解がある場合にはシンプルに全体像を可視化できて有効です。しかし、今回のケースでは解像度が荒すぎると考えました。

"SPRINT最速仕事術", ジェイク・ナップ他, P.101より抜粋。

そこで、実際の業務を解像度高く可視化し、業務に潜む「ムリ・ムダ・ムラ」を見つけられるようにバリューストリームマップ(VSM)というフレームワークに差し替えました。

VSMの参考にした記事:https://note.com/dora_e_m/n/n82d6324cd2c2
やや複雑なプロセスだったためポイントを絞って簡略化しています。

VSMのイメージを貼っておきます。

弊社note記事を投稿するまでのVSM

これは「note記事を投稿する」弊社のワークフローをテーマにしてワークショップ本番前にお試しした結果です。簡潔に言えば「ネタを考えて記事を書く。上長に見せてOKもらったら投稿する」というだけなのですが、こまかーく作業レベルで書き出すとこれだけ出てきます。
その結果、「このプロセスが一番時間かかるね」「ここで手戻り多いよね」などの具体的なプロセス課題が見えてきます。
なお、VSMを今回初めて実施したのですが、見えてきたTipsはまた別記事で紹介したいと思います。

ワークショップ実行

そんなこんなでワークを設計したらあとは実行するだけです。

ポイントは役割分担についてお客様と認識合わせして挑むことだと感じました。
ワークショップには大きく2種類あると考えており、デザインスプリントは図の右側です。デザイナーと参加者(お客様)はそれぞれ進行役、専門家として対等な関係です。我々デザイナーはとにかく意見を引き出し、整理し、議論を導きますが、結論を出せるのは専門家たる参加者がいて意見を出してこそという意識です。
この役割分担をお伝えした上でワークショップに臨むことで、お客様に「自分たちがアイデアを出さないといけない」という健全なプレッシャーが生まれ、議論が活性化します。また、ワークショップ終了時に「自分たちで創ったアイデアだ」という実感を持っていただきやすくなります。この実感が後々の熱量を高く保てる要因の一つだと感じています。

一方、いわゆる「〇〇制作ワークショップ」「デザイン思考学習ワークショップ」などは図の左側です。デザイナーと参加者は「先生」と「受講生」として一定の師弟関係がある構成になります。

ワークショップの2タイプ
明確にこの2つに分かれるというよりはグラデーションがあると思います。

余談
今回のワークショップはオフラインで実施しました。当日の様子がこの画像です。

ワークショップ実施後の様子。初日は付箋を500枚使いました。

この付箋やワークシート全てを、後々見返せるようにデータ化しておく必要があります。これがとにかく大変。。。
泣きそうになりながら営業の方にもお手伝いいただいて全部データ化しました。写真撮ったら生成AIが文字起こしする世界はよきてくれ。。Claude3ならいけるのか…??
これがKAGデザインスプリントの「現場」です

データ化した後のmiroボード。こうしておくと後で見返せます

プロトタイピング&検証

ワークショップで検証するアイデアを創出し、そのイメージを全員で共有したら、プロトタイピングと検証のフェーズに入ります。
基本的にはプロジェクトの提案通りにアプリケーションのモックやコンセプトボードなどのプロトタイプを開発していき、想定ユーザーへのコンセプトテストでアイデアの価値を検証します。

今回は、アクティビティシナリオに沿ってFigmaでアプリのモックを作成しました。

ここも、安直にプロト作って検証して終わりと決めているわけではなく、お客様の関心事に合わせてアジャイルに対応していきます。(メンバーのスキルと契約している工数で可能な範囲で、になりますが)

例えば今回のプロジェクトではアプリに生成AI技術を活用するアイデアが生まれました。通常のアプリのモックではAIの振る舞いまでは検証できませんが、この生成AIの精度が体験価値を大きく左右するポイントだとわかったため、精度検証を行うことにしました。

生成AI検証の様子。miroでプロセスや結果をまとめています

この図に限らずですが、デザインスプリントのプロセスはmiro上で一括管理しています。デザイナーの考えや中間成果物を見せながら進めることで、食い違いがあった場合に早期に修正できるようにする、お客様が「今何やってるんだっけ?」と迷子になる状況を減らすなどの意図があります。

現在、年度末のプロジェクト完了に向けてプロトタイピング&検証の総仕上げを行なっています。
ネクストアクションに繋がる有意義なアウトカムを提供し、納得感を持って終えられるように実施中です。

まとめ

クライアントワーク未経験&デザインスプリント未経験から始まった半年間でしたが、周囲のサポートやありがたい成長機会のもと、力強くデザインスプリントのプロジェクトを進めることができました。

KAGデザインチームのオンボーディングの雰囲気やデザインスプリントの現場が少しでも伝われば嬉しいです!

KAGではサービスデザイナーの仲間を募集しています!


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