私の苦手なあの子 消しゴム編④


突然、彼がこちらに向かって水風船を投げてきた。


バシャン!!


地面にぶつかり勢いよく割れる。


「冷たっ!!」

麻美の足元にかかった。


「ちょっとぉー!」

声を荒げた麻美に、彼はいたずらっ子のような顔で目をキラキラさせ笑っていた。


「もぉ!」

麻美が彼に近づき、地面に置いてある水風船を手に取る。そして、その水風船を彼の頭にぶつけた。水風船が勢いよく割れる。


「冷てぇー!!」


麻美の思い切りの良さに私はびっくりして固まってしまった。


「コノヤロー!!」


彼も負けずに、逃げ回る麻美に水風船を投げた。



「キャー、あはははっははは。」



2人の笑い声が弾ける。



それを見ていた島田君が水風船を作りながらムスッとしている。


「伴!待てよ!先に全部作ってからだろ!まだ始めんな!」


「わかってるけど、こいつがやってくるんだもん。」

と嬉しそうに言いながら逃げ回っている。


「お前が先にやったんだろー まったく!」



「手伝うよ。」

私は島田君に駆け寄った。


「あっありがとう、ここ結んでもらえる?」


「うん」


水風船なんて作ったことなかった。結ぶのはなかなか難しかった。
水風船なんてドラマかYouTubeの中だけに存在する物だと思っていた。
本当に水風船で遊ぶ人なんているんだ。すごい!!



「完成!!」

島田君が大きな声を出して立ち上がった。


「シャー!行くぞお!!」

エネルギーを貯めていた島田君は両手に水風船を持ち、凄い速さで彼めがけて一目散に走り出した。


「ちゃんと最後まで風船、作れよ!!」

と、ジャンプをして彼に勢いよくぶつけた。


「うおぁっぁ。いってぇーあはは。待てぇい。」

今度は彼が追いかける。


「ウヒャヒャヒャ」


島田君は笑いながら走っている。

3人は笑いながら走り回っている。


「あはははは!」


私はどうしたらいいかわからず、楽しそうな3人を眺めていた。



「隙あり!!」

彼が私の足元に投げてきた。


「うぁっ」

私がびっくりしていると、


「あいつらやっつけようぜ。」

と彼が水風船を渡してきた。


「ほら、早く!」


「うん。」


私は戸惑いながら走り回った。

島田君、麻美、彼、私。4人でやった水風船は最高に楽しかった。

心の底から笑った。


「あはははははは」





沢山笑って走り回った私たち4人は、びしょ濡れになった。


「やばいくらい濡れてる。」

麻美がTシャツの裾を絞りながら言った。


「着替えてからまた集合するか。」

島田君が提案してくれた。


「そうだな。じゃあ、7時にまたここ集合な。」

「オッケー」

「うん。」

「じゃあな」


私たちは着替えにそれぞれの自宅に戻った。





・・・


「さとみ、また出かけるの?」

台所からお母さんが声をかけてきた。


「うん、友達と花火してくる。」


「遅くならないようにね。」


「はーい。」

紙袋を持ち玄関のドアを開けた。





私の家から公園まで、歩いて10分くらいだった。

1番乗りかなと思ったが、彼が先に到着していた。ウンテイで遊んでいる彼に声をかけた。


「早いね。」


「暇だから着替えて速攻来た。そんで遊んでた。」

と言い、お猿さんのようにウンテイを渡っていった。


「あの・・・」

私は渾身の勇気を振り絞って彼に話しかけた。

「永崎くん!」


「はいっ!」

急に大きな声を出した私に驚いている。

「なに?どした?」


「あの、これ、誕プレなんだけど、プレゼント交換はなしって約束だったんだけど、えっと、麻美にもあげたから。」

となんか片言になってしまった。


プレゼントを差し出すと、最初は困ったような顔だったが、とびっきりの笑顔で「ありがとう!!」と受け取ってくれた。


「開けていい?」


「うん。」


「おぉ!筆箱!?かっこいい!」


「よかった。消しゴムもらったし、そのお礼もかねて。」


「消しゴムは俺が無くしちゃたから。」


「でも、けん玉の可愛い消しゴムもらったし。」


「ははは、大事に使うよ。」

永崎君は優しく笑った。



ブーブー、私の携帯が鳴る。


「麻美、これなくなったって!留守番頼まれちゃったって。」

私は永崎君を見た。


「まじー。ついてねーな。」



ピロピロ、今度は永崎君の携帯が鳴る。


「大和も来れないって!」


「え?!どうする?2人だしまた今度に・・」


「2人でやろうよ!!」


ニコっと笑った顔が可愛かった。


「結構、量あるから急いでやらないと終わんないかもよ。」

と永崎君は花火を開け始めた。



(ふ、ふたりって、ええーーーー!!)



私の心の中はパニックだった。



「ん?どした?早くやろうぜ。」


固まる私に花火を渡す。



「行くよっ。」



ろうそくに火をつけて、花火の先端を炎に近づける。


シューーーっと勢いよく花火が噴出した。



「きれーー。」

思わず声を出してしまった。


「なぁ!」



それから、両手に花火を持ち振り回したり、クルクルと回ったり、私も真似してやってみたり、やらなかったり。

2人でやる花火もとっても楽しくてあっという間に時間は過ぎていった。



「最後、線香花火な」


「うん」


「10本あるから5本ずつ。」


「競争なっ?」


「最後まで残った方が勝ち?」


「そう、つけるよ。」


ロウソクの火に2人同時に近づける。



パチッ、パチ、パチッ



線香花火の音が響く。



線香花火を見つめる。



パチ、パチパチパチ



線香花火の音が、ますます響く。




ポトッ



永崎君の線香花火が落ちた。



「あーーー!負けたーー」


「やったぁ。」

私は自分の線香花火が落ちないようにそっと言った。





「じゃあ、2本目な。」

仕切り直してスタート。

同時に火が付く。



パチッ、パチ、パチッ



線香花火の音が響く。



「今度は負けないからな。」


チラッと横目で永崎君を見ると、真剣な表情で線香花火を見つめていた。


「私も負けない。ふふふ」


「笑ってると落ちるぞ。」


「落ちないよー。ふふふ。」


「なんだよ、その余裕は。」


「フフフフフフ。」





「あっ!虫ついてる!」

と永崎君が私の足元を指さした。


「えっ!?どこ?!」


と私はびっくり立ち上がってしまった。


案の定、私の線香花火は消えた。



「イエーイ!俺の勝ちぃ!!」



永崎君は左手を上にあげて私の顔を上目遣いで見た。



「・・・・」




「怒った?」


そう聞いてくる永崎君にキュンとした。



「・・・ずるい。」


「んっ?」


「虫、大っ嫌いなの。」


「あはは、ごめん。」


「嘘でよかったぁーー」

その場にしゃがみ込んだ。


「おれ、勝ちね?」

私の顔を覗き込む永崎君。


「いいよ。次は絶対、落とさないから!」


「虫、いても?」


「うん!」


「あはは!よしゃーいくよ。」



私は体勢を整える。



3本目スタート。


パチッ、パチ、パチッ


線香花火の音が響く。

今度は2人とも真剣に火花を見つめる。


大きく線香花火が弾けている。


バチバチバチ


バチ、バチ、バチ


静かだった。


パチ、パチパチ






「彼氏いるの?」






「!!!?」





パチ パチ パチ



びっくりして何も言えず、彼の顔を見た。



ポトッ


「いないよ。」

私の線香花火は落ちた。



永崎君の線香花火の音が鳴り響く。


「イエーイ!俺の勝ち。」

にっこりと永崎君は微笑んた。




「次、4本目な。」


「うん。」

私はドキドキしていた。



「よーいスタート!」



また同時に火をつける。



パチッ、パチ、パチッ



線香花火の音が鳴り響いた。



永崎君が話し始めた。


「あのさ・・・」




パチッ、パチ、パチッ




小さな声だった。



パチッ、パチ、パチッ



「なに?」



パチッ、パチ、パチッ




バチバチ 

バチバチ




「あの・・・俺と付き合って。」





バチ バチ バチ バチ バチ バチ





線香花火の音がずっと鳴り響いていた。









つづく




最後まで読んで頂きありがとうございます!!

つづきをお楽しみに^^


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