【詩】じごくの空気
いつもアスファルトの上に立っているから忘れちゃうけど、カタラーナみたいにアスファルトの下には土がある。雑草が割ったアスファルトからは土が見えて、掘っていくことができる。街に潜るように掘りすすんで、到達したところが詩だから、詩とはじごくの空気なのかもしれない。地獄は、画数が多くて恐いけど、ほんとうはじごくって感じ。ひとは地球の空気でしか生きられないし、火星人は火星の空気でしか生きられないし、流れ星は宇宙の空気でしか生きられないから、じごくの空気でしか生きられない生命もいる。じごくの生命の特徴は、ちょっとやわこい。
啓蟄(三月五日頃)は、地中から虫が出てきて春の息吹を感じる時期らしい。去年のその頃は、にんげんも、虫みたいにコートが軽くなって、背筋を伸ばして春風と陽光を浸透させていて、きもちわるかった。でも今年はちがった。きっと、虫も地底生命で、じごくからやってきていて、春の息吹というのは、てんごくからおりてきた冬にころされた、じごくの空気のことで、虫にはこばれてきていて、地上生命の、じごくの空気へのアレルギー反応が、花粉症なんだろう。彼らは目玉を洗いながら花を愛でる。ぼくの目には妖怪・目玉洗いに見える方がにんげんで、にんげんとは逆方向に駅を歩いているぼくが妖怪らしい。