【詩】時間旅行
オフサイドを知らなくても楽しめるサッカーから最高のコンテンツの座を奪ったのは時間旅行装置だった。当初は、特殊な電波が脳に悪影響を与えて記憶力が低下するとか、開発者の過去の不祥事とか、いろいろ言われたけど、時間旅行の快楽を知ったら、みんなの頭からきれいに流されたようだった。
金閣に名を奪われた鹿苑寺裏山の松が今日も碧い
壁じゅうに金箔を貼ってるってことは、なにかを隠してる。金は透明じゃないからきれいでないのに、金に目が眩んでるぼくたちは金しか見ていない。池にさかさまで映しているのは、この世の裏側を見ているつもりにさせるため。公家の抵抗。目を満足させるのを見ることだと思う心理をついている。ほんとは鏡湖池のそこには、六芒星の魔法陣があって金閣を出現させてるんだ。
記録的猛暑のポンペイに立つ滅亡した日の再現みたいだ
石畳の街道は、車道と歩道に分かれてる。歩道は車道から、現代の階段で三段分くらいの高さにある。現代人では背の低いぼくは、たぶん古代人の平均身長。日本列島に産まれると脚が短くなる呪いとかは、聞いたことないから、ぶつり的に車道に落ちたら危険にしてたんだろうな。四歳の女の子が車にひかれる事故があってそうなったんだろうな。それでも言うことを聞かない子は、ヴェスヴィオ山の妖怪が食べにくるよって言われる。壁のラクガキにあるはなし。
池の右の参道と薄紅葉の参道と石段の先の枯山水
石庭の美しさは、転生者でないとつくれない美しさをしている。海と嵐の異世界で投身自殺をした男が、地球の石に感動して、がきのように石を眺めながらつくっただろう。環境にはたらきかける力を授かって、進化を捨てた人間たちでつくった世界から脱け出して、自然を再現しようとする傲慢な男。時間的な石と空間的な葉擦れで、紋様を構築しようとしている。時間を奪われた波紋が、ひろがる。