短編小説「あんた」
「あんた、いつまで寝てるの」と、朝から元気よく同級生のハルが私のベットの敷布団を取り上げながら叫んだ。残念ながら彼女は、春眠を堪能する贅沢を知らないようである。
———(いや、違うよな……)私の頭の中は、汚泥を進み歩く様な若干の抵抗を感じさせてはいるが、ハルの言葉の違和感に気づくことができた。この違和感をどうしたものかと考えあぐねた結果、答えはすぐに出た。つまり私は、ベッドの上で胎児のような姿勢を保ちながら目を細め、ハルに説教を始めることにしたのである。
「その呼び方、もう辞めないかい?〝あんた〟はもう卒業しようよ。昨日、市役所にも書類を提出したんだし、これからは〝旦那〟って呼んでくれないかな?」と、妻に向かって私の願望を説いてはみたが、「旦那、ふざけるなよ!」と、妻は赤面し更に幼少の頃の呼び名で私を叱りつけるだけであった。
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