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短編小説「狩猟」
車を森の麓に停め、二人の猟師が車から降りた。車を降りると夏特有のまとわりつく湿度を予想していたが、遍満たる木々の呼吸のためか、思いのほか外気は涼しい。
「おい見ろよ、あそこに倒れてる看板、微かに『動物注意』って書いてあるぞ。やっぱり昔からいるんだな、害を与える動物ってのは」助手席側から降りた小太りの猟師が指を差す方には、〝動物注意〟と書かれた長方形の看板と、黄色い菱形に何やら動物の絵が描いてある看板が見えた。しかし、それらの看板は山に対し仰向けになる様に倒れており、名も知れぬ草が絡まりついていた。草の間から見える絵の描かれた看板は錆びの腐食がひどく、一体何を模倣しているのかはわからなかった。しかし、今日彼らが駆除するべき害獣ではないことは確かである。
この森の近くには何十年も前に廃村となった集落があった。この看板が立てられた当時は、村の人々へ対し十分な仕事をしていたのだろう。その仕事がなくなった今、看板は倒れているのではなく、休んでいるという見方もできる。
「今も昔も変わらないな。早いところ狩ってしまおう。どうせ、勝手に繁殖しているだろうから全滅とはいかないだろうけどな」運転席から降りた痩せた猟師が小太りの猟師が指差す看板を一瞥し嘆いた。二人の今日の仕事はもちろん狩猟である。
この山の近くに新しく大きなレストランができる。レストランという場所は閑静に越したことがない。そのため、この山から夜な夜な出る害獣を駆除してほしいと、依頼があったのだ。
小太りの猟師はトランクから二人分のライフルを準備しながら疑問を投げかけた。「目標は何匹にする?何匹捕まえたら依頼主は満足するかな?」「前金として、かなりの額をいただいたからな。計画では3日かけて駆除を行うが、今日中に十から十五匹でも捕まえれば、面目は立つ。残り二日は前金でのんびり過ごすこともできる」痩せた猟師は、害獣を誘き寄せる餌の準備をしながら答えた。
二人は森へ入るとまず獣道を探した。運良く害獣の住処でも見つかれば御の字である。森の勾配は一定ではない。緩やかな勾配や急な勾配が不規則に続き、足を摩耗させる。普段平坦な道ばかりを歩く二人ではあるが、そこはプロである。森へ入る様の装備を準備しているため、なんの問題もない。
「おや、見てみろ足跡だ。それも一匹だけじゃない。四、五匹分の足跡だ。こりゃきっと家族で移動しているな。全員やってしまおう」痩せた猟師の提案に、小太りの猟師は小さく頷いた。そして、いつでも撃てる様に肩にかけていたライフルを手に持ち替えた。
運がいいことに、それから三十分も歩くと二人は足跡を残した標的を発見することができた。二人は物音を立てず近寄った。プロである彼らにとってそのような行動は簡単である。そして、銃声が響いた。バーン。そして害獣の悲鳴。暫くすると、ゆっくりとした森の呼吸に吸い取られるように静寂が戻った。
「いやー、よかったよかった。今日で合計六匹も駆除することができた」闇夜が覆う街灯もない山道を車は滑る様に走る。運転している痩せた猟師が笑いながら話した。「そうだな、だが、この分だと明日も仕事とはやらないも駄目だな」「いいじゃないか、今日の駆除した害獣は一旦あの場所に置いてきたんだ。害獣たちは皆馬鹿だから、きっと今頃は墓ってやつを皆で作ってるはずだ。そこを狙い撃ちすれば20匹は駆除できる」二人は笑い合いながら車を運転する。
二人が今から行く場所は町のレストランである。そこで各々の体に電気エネルギーを充電するのだ。今日はいつもと違う足のパーツを使用したのでエネルギーの消費が激しかった。充電が終わり次第、すぐにでも山へ戻ればいい。ロボットには睡眠はいらないのだから。
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