【今月のベストレビュー】本が好き!×カドブン Vol.69 『科捜研の砦』
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します。
今月は祐太郎さんの『科捜研の砦』(著:岩井圭也)レビューが選ばれました!
科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間だ。「科捜研の砦」と呼ばれた者たちの生きざま
レビュアー:祐太郎さん
冒頭の一文である。
「科捜研の砦」といいながら、冒頭に出てくる「尾藤宏香」は科警研の職員である。科捜研が都道府県警察の所属なら、科警研(科学警察研究所)は警察庁の付属機関である。
イギリス留学もした科警研の若きエリート研究者である彼女が捜査の鑑定過程で出会ったのが、警視庁科捜研の「土門誠」である。彼と科捜研副所長「加賀正之」のコンビは「科捜研の砦」と呼ばれていた。土門誠は空気を読まず、科学的見地のみで押していく。まるでロボットのようである。しかし、物語が進むにつれて、彼が科捜研に進んだ理由も明かされ、人間性も見えてくる。
では、なぜ尾藤宏香が登場するのか。人の縁というのは本当に不可思議なものである。でも、その縁があったからこそ、土門は救われ、そして絶望へと突き落とされる。でも、彼女がいたからこそ、彼は自らの精神を維持できたのだろう。
これは彼の信条であり、実際に何度も口にする。この小説は4つの話で構成されているが、最後まで犯人がわからないミステリーではない。途中で犯人と思われる登場人物がわかる。その犯人にどのように客観的な科学的な事実で迫り、当該人物が罪を認めるかという点が見どころである。
『科捜研の女』という名前のテレビドラマがあるが、榊マリコさんというより、『相棒』の右京さんが二人いる感じの小説である。