【今月のベストレビュー】本が好き！×カドブン Vol.70 『銀色のステイヤー』
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き！」に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します。
今月はこまちさんの『銀色のステイヤー』（著：河崎秋子）レビューが選ばれました！
1頭の馬に、こんなにもたくさんの人の手が、人の思いがかかっているのだなあ。やんちゃ坊主シルバーファーン、君の邪気のない走りっぷりは最高だよ！
レビュアー：こまちさん
北海道の牧場で生まれた灰色のオスの仔馬ドラ夫。
ドラ夫が競争馬となっていく過程で、周りの人間達の人生が変わっていく。
ゆるぎない信念と、変っていくことを受け入れ成長していくこと。
人間も競走馬も、この二つが必要だなあって思わせる物語。
シルバーファーンという名前をもらいサラブレッドの道を歩みだしたドラ夫。
彼が巻き起こす出来事で、関わる人達が喜び、悲しみ、色んな感情を出していく。
サラブレッドを育て一流の競走馬にさせるには、こんなにたくさんの人の手が、人の思いがかかっているのだなあ。
馬を生ませ育てる生産牧場。
調教していく厩舎。
馬を買う馬主。
馬と共に命をかけて走る騎手。
誰もが皆真剣勝負だ。
もちろんシルバーファーンも真剣勝負。
でもいつまでもやんちゃ坊主で、おとぼけなところもあって、何をしでかすかわからない怖さもあって油断ならないやつなのだ。
でもね、ホントこのやんちゃ坊主は愛嬌あって憎めないやつなんですよ。
そして、人間。
男性陣も良かったのですが、本作品では女性3人の存在が印象深かったなあ。
馬が好きで好きでしかたなく馬術や馬の扱いに長けている若い女性アヤ。
でも、その極端すぎる馬への偏った思いが、ともすると問題行動となる。
騎手を目指したが、あきらめて調教助手をし、馬の仕事に携わり続けている鉄子。
夫が残したお金で馬を買ってから性格も見た目も変わっていく広瀬夫人。
性格も置かれた状況も全く彼女ら3人の変化が良いんです。
そして、競馬場のシーンが秀逸。
レース本番はもちろんのこと、観衆の面前にさらされるパドック、ゲートに収まる前のファンファーレなど臨場感あふれる場面に引き込まれました。
ドラマチックな物語ではあるが、お涙ちょうだい的な感情過多なところはなく、むしろ俯瞰した目線で描かれていて、それが心地良い。
気持ちがキュッと引きしまる物語。
そして、シルバーファーンのやんちゃとおとぼけぶりに、スリルと癒しをもらえる物語でもある。
知らなかった競馬の世界を楽しみました。
書誌情報
あらすじ
一頭の馬が、 私たちの人生を輝かせる。『ともぐい』の直木賞作家最新作！
非凡な力を秘めながらも気性難を抱える競走馬・シルバーファーンが、
騎手、馬主、調教師、調教助手、牧場スタッフ、取り巻く人々の運命を変えていく。
＝＝＝
北海道・日高の競走馬生産牧場で、「幻の三冠馬」と呼ばれた父馬・シダロングランの血を引いて産まれたシルバーファーン。
牧場長の菊地俊二は、ファーンの身体能力に期待をかけつつも、性格の難しさに課題を感じていた。この馬が最も懐いている牧場従業員のアヤが問題児であることも、悩みの種である。
馬主となったのは、広瀬という競馬には詳しくない夫人。茨城県・美浦にある厩舎を擁する二本松調教師とともに牧場を見学に訪れ、ファーンの購入を決めた。不安を覚える調教助手の鉄子（本名：大橋姫菜）に、二本松は担当を任せることを告げる。
ファーンは、俊二の兄である菊地俊基騎手とのタッグで、手のかかるヤンチャ坊主ではあるものの順調に戦績を重ねていくが、あるレースで事故が起こり……。
手に汗握る競走展開、人と馬の絆。
わずか数分のレース時間には、全てが詰まっている。
「――それでいいよ。最高だ、お前。」
一頭の馬がこんなにも、人生を豊かにしてくれる。
『ともぐい』で第170回直木賞を受賞した著者による、感動の馬物語！
書名：銀色のステイヤー
著者：河﨑秋子
発売日：2024年07月31日
ISBNコード：9784041141700
定価：1,870円 （本体1,700円＋税）
総ページ数：320ページ
体裁：四六判
装丁：池田進吾（next door design）
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