陽キャとうつとホールケーキ
「復職生活には慣れてきましたか?」
そう声をかけられて、いまだに
はい。
とも
いいえ。
とも答えられない私は曖昧に笑ってその場を誤魔化し、なんとかやり過ごす日々を送っている。
復職してから早くも1ヶ月が経ち、毎日満員電車に揺られている私は、それでも何とか社会人生活を続けている。
会社に復帰してからのことや日々のこと、noteに書いていきたいことが変わらずたくさんあるはずなのに、うまく時間を作ることができない私は最近ずっと消化不良だ。
書きたいのに書く気力がない。向き合いたいのに向き合えない。
そんな葛藤を抱えながら悶々と日々を過ごしていたら、あっという間に時短勤務から通常勤務に戻されて、まだまだ先だと思っていたお盆休みは一瞬で終わり、気がつくと9月に突入していた。(時の流れが早すぎてビビる…)
通常勤務に戻って何が一番辛いって、出社時も帰宅時もラッシュの電車に乗らなければならないことだ。曜日に関係なく、疲れ切った顔をしている人間たちがひしめき合っている空間にいなければならないのはなかなかきつい。
♪ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜
なんて悲しすぎるBGMが頭の中でかかり始める前に、急いでCharli xcxの新曲をタップ。大音量で流れ始めるPOPで中毒性のあるフローにあっという間に脳みそが支配されればもう大丈夫。
鬱々とした気持ちを吹き飛ばしてくれるのは、いつだってパワフルでかわいいGAL達だ。
復職始めの3ヶ月はリモートもフレックス勤務もできないこんな世の中(ポイズン?)についつい悪態をつきたくなるけれど、世界中のGALたちの力を借りながらなんとかかんとか社会人生活を生き延びているそんな今日この頃、今回はあるイベントで起きた出来事を備忘録として書き記しておこうと思う。
夏の日差しがより一層厳しさを増し、勤務時間が通常形態に戻った週、
私は復職後初の一大イベントと対峙することになった。
それは、
「部会合宿」
この記事を読んでいる複数人の方の心を震え上がらせるだけの威力があるであろうこのパワーワード。
復職前から告知はされていたし、部長から誘われた時も、
「この頃には気持ちも多少前向きになってるっしょ。未来の自分に期待しよっと。」
なんて安易な考えで「いきます」なんて返事をしてしまったことを3週間後に死ぬ程後悔することになるなんて、過去の私は知る由もない。
いきたくない!参加したくない!誰にも会いたくない!!
と、今回も例に漏れず発作的に不安に襲われた私を慰める夫は慣れたもので私の背中をさすりながら、「大丈夫、大丈夫」と優しい言葉を投げかけてくれているが、その目線はけしてテレビから離れることはない。(私が気づいてないとでも思ったか)
もちろん私の分の費用も発生しているし、オンライン上でしかまだ会えていないメンバーもいるため行くしか道はない。どうせ行くって決めてるならバカみたいに不安になったりパニックに陥ったりしなければいいのに。
と、どこか冷静に(冷酷に?)己を見下ろしている自分の存在を認識しつつ、部会合宿前夜の私はどっぷりと不安と恐怖の波に飲み込まれた。
一歩外に出た途端、身体中の毛穴から汗が噴出する程ペッカペカに晴れた水曜日。ど晴天の空を忌まわしげに睨みながら、集合場所の駅へ向かった。
この日の部会合宿は2部構成になっていて、
第1部では某テーマパークへ行き、そこでアトラクションや演出を体験する。体験する中で気づいた良い点や気になった点を洗い出し、その理由や対策案のアイデアを創出し、最後に班ごとに発表するというもの。
そして第2部では全員参加のBBQ大会が実施される。
「合宿」と呼ばれてはいるものの、日帰りイベントなのが唯一の救いだ。
集合場所の某テーマパークへ行くともうすでに結構な人数が集まっていて、今回周るチームごとに固まっていた。
私のチームは良くも悪くも今までそんなに関わりがなかったメンバーだったため、お互いに距離感はあるものの良い意味でビジネスライクで気楽に過ごすことができた。
場所がテーマパークだったということもあり、一生懸命話して間を持たせないと!なんて気を使わなくても良かったし、何よりあっという間に時間が過ぎたので想定していたよりも心の負担は少なく済んだ。
問題はBBQである。
結構な人数が集まるBBQ程しんどいものはない。戦略を駆使しないと私の心を終了時間まで保たせることは難しいだろう。
まずは、「どこに陣取るか」問題だ。最重要であり最難関ミッションでもある。
その名の通り、「誰がいる、どこらへんの場所に陣を構えるか」ということなのだが、なるべくなら年が近く話しやすい人の側にいきたい。そして当たり前だが復職前に色々あった上司とは距離を取りたい。
うつになった私とBBQ中一緒に話したいと思ってくれる人なんているんだろうか…と不安を抱きつつ、私のこの後のDeth or Aliveがかかった最重要ミッションであるため、軟弱な精神に鞭を打ち休職前に一番気楽に話せたメンバーの隣に音もなくススーっと移動。挨拶しながら自然な流れで隣を確保することができた。
Mission complete !
♪デッデッデーデー、デッデッデーデー、テレレ〜ン、テレレ〜ン
一人のメンバーをロックオンして音もなく隣に移動しているあたりから、脳内で某有名スパイ映画の曲がかかり始めエンジンがかかってきた私は、勢いそのままに次なるミッションである「何を手伝うか」問題に取り掛かった。
BBQで一番大事なのは「焼く係」だ。
焼き加減が下手だと、どんなに高級な食材もあっという間に美味しくなくなってしまう。
料理は女がするものだ。
なんて時代錯誤的なことを言う人は幸いなことに私のチームにはいないけれど、それでもなんとなくそんな空気を感じる気がする。
こういう空気を察することが得意な私。
きっと今までなら嫌々ながらも焼く係に立候補していただろう。
が、自分の精神面をケアするのに手一杯な今、肉の焼き加減を気にする余裕など皆無。
だからと言って何もしないで突っ立ってるわけにはもちろんいかない。休職明けという特殊な立場の私は、組織の中だとまだまだ浮いてる存在なわけで。良くも悪くも他のメンバーより目立ってしまう。
肉は焼きたくない。でも世話を焼いてる感はださねばならない。
さぁ、どうする…!!!
♡ドッドッドッドッ
♪デッデッデーデー、デッデッデーデー、テレレ〜ン、テレレ〜ン
激しいハートビートにBGMが合わさって、私の頭の中のカオスはピークに。
もう、行くしかない…!
ト◯・◯ルーズ並のダイブを繰り出し(実際は気持ち早歩き程度)、掴み取ったのはペットボトルのお茶とプラスチックコップ。
「ノンアル飲む方いたらこちらからどうぞ〜」
そう声をかければ、ノンアル組が多いチームメンバーは一斉に私のもとに集まってくる。
「ありがと〜、助かる!」
「あと2つちょうだい〜」
わいわいがやがやと一気に忙しくなり、完璧に「働いている感」を作り出すことに無事成功。そうこうしているうちに料理が上手と評判のメンズメンバーが肉焼き係を買って出てくれたおかげで、こちらも無事回避することができた。
Mission complete !
BBQ会場について20分足らずでこの死闘である。
この時点で私の精神は3つくらい爆破を受けたト◯・◯ルーズ並のズタボロさ。気力だけで何とか立ってるヒーローみたいな感じだ。
序盤を全力で戦った(?)おかげで、乾杯以降はじつに和やかに穏やかに過ごすことができた。
歳の近いメンバーと少し休職中の話なんかもしながら、リラックスしておいしいお肉を堪能する余裕もでてきていた。
少しメンバーが減ったな、なんかざわついてるな。
と、何となく感じていた矢先。
「サプラーイズ!」
部長の大きな声と共に、ロウソクが立てられた大きなホールケーキを抱えたメンバーが入ってきた。
「ハッピバースデートゥーユー」
8月に誕生日のメンバーへのサプライズ。
そういえば去年もみんなで祝ったなぁ。
過去の記憶が蘇り、あの時から1年経ったのかぁ。と少し感慨深い気持ちになりながら手拍子していたその時、
「そして、お帰りなさ〜〜〜〜〜い!!!」
ドンっっっっ
私の目の前に置かれた、それはそれは大きなホールケーキ。
一瞬何が起きたかわからず、大きく見開いた目に飛び込んできたのは、
A子、B美、陽キャ
お帰りなさい!
と書かれたホワイトチョコプレート。
ちなみにA子とB美は最近まで育休をとっていた先輩メンバーだ。
ヒュッと喉が締まるような感覚の後、さっきまでリズムよく叩いていた手の指先がサーっと冷たくなるのを感じた。
そこからは記憶が曖昧で、どうその場をやり過ごしたのか正直あまり記憶がない。
後日共有された写真データの中から、立派なホールケーキを前になぜかA子さんとB美さんに挟まれ笑顔で映る自分を見つけ、何とかやり過ごせたんだなと安堵した。
ミッションをオールクリアしたと油断した時に、本当の爆弾は降ってくるもので。
迷惑をかけたという気持ちを抱え続けているからこそ、なるべく注目されたくないし、許されるならひっそりと誰にも気づかれず復職したかった。
おかえり。と言ってもらえることが嬉しくないわけではない。
自分の居場所がまだあるんだと、嬉しくなるし安心もする。
でもやっぱりまだ素直にその気持ちを受け取ることができない自分がいるのも事実で。
しかもその言葉が育休から戻ったメンバーと一緒に投げかけられたことに、私は一番ショックを受けた。
ショック、というより恥ずかしかった。
だって彼女達の復職と私の復職には雲泥の差があったから。
どうしてそこと同率で並べられてしまったのか。
部門合宿が終わって数日間。気持ちが落ち着いてきて、だんだんと冷静に考えられるようになると怒りの感情も湧き出てきた。
そっとしておいて欲しいのに。
と。
そう思った直後、なんて自分本位で子供っぽい考えなんだろう。みんな私を元気づけようとしてくれていたのに。と、その気持ちを素直に受け入れられない自分に嫌気がさした。
復職してからあっという間に1ヶ月が過ぎようとしていた頃、産業医面談を行うことになった。
「どうですか、復職生活には慣れてきましたか?」
優しい声色でそう問いかけられ、
「はい」とも「いいえ」とも答えられず曖昧に笑うしかできない私に、
「何か気になることや、引っかかることがあったのですか?」
と真っ直ぐに問いかけてきた産業医の先生に、少し迷いながらも先日BBQで起きた出来事を話してしまった。
「あ〜、なるほど。それは大変でしたね。でも陽キャさんが大人になって受け止められたんですね。立派でしたね。」
そう言ってもらえて、大変だったねと受け入れてもらえて、それまでもやもやしていた気持ちがほんの少し和らいだ。
「じつは部長さんにもこの1ヶ月間のことのフィードバックをいただいているんですよ。普通その内容は大きな問題がない限りご本人に開示はしないんですけどね、少しだけ陽キャさんにお伝えしちゃおうかな…
『この1ヶ月は想像以上に頑張っていただけて、アウトプットのレベルも申し分なく十分すぎるレベルです。
早々からこんなに頑張ってくれて、何より戻ってきてくれて本当に嬉しいし、心強い。僕含めたチームメンバーもそう思っています。』
とのことですよ。」
柔らかく落ち着いたトーンでそう告げる先生の声を聞きながら、それまで落ち込んでいた私の心がほんの少しだけふわっと浮かんだのを感じた。
元来の天邪鬼な性格は、うつ病と診断されて以来益々拍車がかかったように思う。
褒められても慰められても、どうせ本心ではめんどくさいと、足手まといだと思っているんだろうと。
そう思うことで、周りを悪者にすることで、これ以上落ち込んでしまわないように自分と周りの間に大きくて厚くて頑丈なバリアを張っていた。
なんて自分本位で自分勝手で相手に対して失礼な行いだったんだろう。
先生を通して聞いた部長の言葉を聞いて、それまでの自分の考え方を恥じた。
本当に私を足手纏いでいらない存在だと思っていたら、
わざわざチームに戻っておいでと説得しなかっただろう。
復帰早々の私を部の合宿に呼ばなかっただろう。
心配してたんだ。戻ってきてくれて嬉しい。話せて嬉しい。
そう言って代わる代わる話しかけに来てくれなかっただろう。
陽キャが真ん中で!早く早く!
そう言って私と一緒に写真を撮ってくれなかっただろう。
復職したからと言って、気持ちがすぐに回復するわけでもないし、毎日しんどいなと思う。
こうやって周りを悪者にすることで自分の心を守ろうとして、そしてそんな自分の愚かさに気がついて、また落ち込む。
復職前と今、私はどこか成長したのだろうか。恥ずかしながら全く成長して
いないだろう。
それでも、そんなだからこそ、
迷惑をかけながらもちょっとづつ周りを見渡して、見える景色を広げていきたい。素直な気持ちでみんなの言葉を、想いを受け止めていきたい。
大きなホールケーキに刺さったロウソクの火を、先輩と息を合わせて吹き消しながら願った気持ちを、私はこれからも忘れずに大切に過ごして行きたいと思う。
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本当に久しぶりの投稿だったからかすごく長くなってしまいました。
ずっと書きたかったのに書けなくて、そんな自分に落ち込んだり。
でもやっぱり想いの丈を書き出すとスッキリするものですね。
これからも時間を見つけて少しずつ書いていこうと思います。みなさんの投稿を読む時間ももっともっと作りたい。
そんな熱い気持ちを秘めながら、何とか書き上げることができた久しぶりのnote。
久しぶりに感じる気持ちの良い達成感にもう少し浸っていようと思います。