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ぬいぐるみ

 短編小説
 2003年1月16日(木)16:37 北関東のとある田舎町
 宮原 凛(10)

 「おっ、ここにもあんじゃん」
 涼太が声をあげた。放課後みんなでサッカーをしていたが、下校時刻だと言われ先生から追い出された。でもまだ外は明るい。だからこうして帰り道のこの公園で時間を潰すのが日課。黒いランドセルを背負った涼太を先頭に、いつもの6人で騒ぎながら歩く。同じクラスの仲間たち。
 うわあ、やっぱり気持ち悪ぃよな。
 口々に皆が言う。お寺に隣接されたこの公園。滑り台、ブランコ、雲梯。一通りの遊具が揃う中で、まるでそれを司るかのように聳える大木。その大木に、今朝担任教師が言っていた例のブツが置いてある。置いてあるというか、刺さっている。白地のでっかい1mぐらいあろうかというぬいぐるみと、50cmぐらいのぬいぐるみ。それぞれにウサギの耳みたいな長い耳がついていて、右耳に釘が打たれて木に磔にされている。だが身体の方はウサギではなく、四肢のようなものがある、人間みたいなぬいぐるみ。ただの丸型の顔、長方形の胴体、と指も輪郭もクソもない四肢。黒いボタンが顔に二つ縫い付けられている。これが目です、ということか。だが口はない、鼻もない。なんの表情もない、真っ白なでかいぬいぐるみとそれに比べたら小さいぬいぐるみ。不気味な異様さを放っている。
「凛くん」
 集団で一番小さい、ビビリな莉央が俺に声をかけた。あの、先生が言ってた話ってホントかなぁ。そう、不安そうに問うてくる。俺に聞いたってわかるわけがないのに。どうだろうね、と適当に返す。
 最近、不審物が公園やお寺、神社の木に置かれています。危険なので触らないこと。見つけたらすぐに先生や近所の大人に報告してください。
 今朝、担任がそう言っていた。誰の仕業かはわからないが、こういう悪戯なのかよくわからない事案はたまにある。こういう田舎町、人口2万人ぐらいの小さな町。自然豊かで人の温かみがどうのこうの、という世間のイメージとはかけ離れた町。皆が陰険で知能が低く、陰湿な人間たちの集まり。皆が人の粗探しと噂話が大好きな、そりゃあみんな出ていくよなという田舎町。こんな町だからやはり不審者もたくさんいる。どうせ都会で仕事しようと思ったけどうまくいかなくて病んでしまって田舎に戻って引きこもっている、怪しげで不潔なにいちゃんたちが悪戯しているのだろう。
「んなもん嘘に決まってんだろー」
 リーダー格の涼太が被せてきた。そっか……と何の根拠もないのに安心する莉央。
 こういう悪戯には、誰が言い出したのかもわからない噂がまとわりつく。何でも、このぬいぐるみをムカつく奴に見立てて殴る蹴るをすれば、そのムカつく奴に不幸が訪れて仕返しになるのだとか。だが気をつけなければいけない。大きい方、つまり大人のぬいぐるみを殴ると逆に呪われてしまう。強い大人に逆らうと痛い目に遭う。だから殴るなら弱い子供の方が良い、という雑な設定の噂。だがこういう噂は、悪ガキたちの格好の玩具。
「先生に言った方がいいかなぁ」
 莉央が蚊の鳴くような声で呟く。女の子みたいな名前の、女の子みたいな綺麗な顔をした男の子。
「言うわけねえだろ〜」
 涼太はヘラヘラと笑っている。小柄で目がぱっちりの可愛い顔をしているが、内には闇を抱えている。幼稚園の頃はこんな感じではなかった。あいつの母親が離婚して再婚してから、涼太はどんどん荒んでいった。再婚相手の男が母親を殴る。涼太も殴られる。なんか俺、死にたいかも。昨日、ヘラヘラと笑いながらそう言っていたのを思い出して胸が痛い。小学校4年生に、死にたいと言わせてしまう親。殺意が湧く。
「こんなもんはなぁ、こうしてやりゃあいいんだよ!」
 涼太が声を荒げ、ぬいぐるみを殴り始めた。ああ、やっぱりな。小さい方を殴り始めた。大きい方が再婚相手なのにな。そっちにいかなきゃ、お前は永遠にボコられるだけなのにな。だが何も成してない俺には説得力はない。黙って、小さいぬいぐるみを嬉々として殴り続ける涼太を見ていることしかできない。
「オラァ、死ね!」
 リーダーの言うことは絶対。他の家来たちも涼太に続いて、目をギンギンにさせてぬいぐるみを殴り始めた。誰々、死ね!と皆がそれぞれ殺意を抱く者の名前を吠え始める。教師の名前、喧嘩して負けた上級生の名前、親の名前。それぞれが取り憑かれたように、呪われたように小さいぬいぐるみに群がっている。ある者は木の棒を握りしめてぬいぐるみの顔に刺し始めた。
「おい、お前らもやれよ」
 涼太が俺と莉央を睨んで言う。莉央は隣でビクッ、となった。リーダーの言うことは絶対。当然逆らえない莉央は小さいぬいぐるみに近づいていく。ほら、叩けよ。おそらく人を叩いたことがない莉央の手は震えている。だが涼太に右手を掴まれて、無理やりぬいぐるみを叩かされた。うわっ。莉央はびっくりして後ずさったが、涼太やその他家来共は褒め称える。おお、莉央、偉いぞ! やればできるじゃねえか! まるで素晴らしいことでもしたかのように周りが莉央を讃える。と言うのは表面上で、ただ小馬鹿にしているだけ。煽っているだけ。ただ自分たちのやっていることが正しいのだと信じ込みたいから。そのために同調する奴は多ければ多いほどいい。その仲間が増えたからただ喜んでいるだけ。こんなくだらない奴じゃなかった。涼太を見ていると悲しくなる。
 より悲しみに拍車をかけたのは、莉央がその後も煽られているうちに、すっかり顔つきが変わっていったことだ。オドオドしていた莉央はいつの間にかいなくなり、おそらくは父親の名前を叫びながら自発的に殴り続けている。目には殺気が篭り、歯を見せながら笑ってぬいぐるみを殴り続けている。楽しい、と心から感じているような歪んだ表情に変わっている。それを見て周りのバカ共も触発され、ぬいぐるみ叩きが加速していった。涼太は遂にぬいぐるみを顔を引っ張って、釘から引きちぎった。オラ、オラと言いながら首を掴み引っ張っている。糸がブチ、ブチと音をたて遂に首が取れた。首取ったどー! と雄叫びを上げる涼太。またそれに触発され、周りの猿どもが俺も俺もと続く。手を持ち、足を持ち。皆が引っ張り合ってブチ、ブチと引っこ抜いていく。いつの間にか目玉のボタンも取れており、のっぺらぼうのだるまと化している。何だか無性に腹が立ってきた。見ていられない。
「うるせえな」
 俺はそう言って、大きい方のぬいぐるみを殴った。弱い、醜い猿たちを見て愚痴ることしかできない己が情けなかった。俺は俺で、自分の力を誇示したい。お前らと俺は違うのだと見せつけてやりたい。涼太、お前は醜いのだと無言の圧力をかけてやりたい。その思いで、俺は大きいぬいぐるみを殴った。
 しん、と静まり返った。騒いでいたガキどもが全員俺を見ている。だがこれは俺の勇ましさにビビったから、ではない。
「うわあああ、凛バカだろ!」
 ぎゃははは、と猿どもが俺を指差して笑っている。はい呪われたー! うわー、逃げろ逃げろ!凛から逃げろー!
 そう言って、猿たちは赤い尻を向けて逃げていった。どう見たって呪われるのはお前らだろ、と思うが。こんなにぬいぐるみをズタボロにして。だがやはり……怖い。情けない。ちょっと、というかかなり心臓がドキドキしている。今日夜、寝てる時に呪われたらどうしよう。ぬいぐるみが化けて出てきて、殺されたらどうしよう。そんな思いが絶対に涼太にバレないように、必死に顔を取り繕う。

 既に夕方、あたりはもう暗い。公園から帰り、莉央と別れた。いつも通り、涼太と二人で並んで帰る。あと5分もすれば涼太の家に着く。涼太は不貞腐れているのか、さっきから何も喋らない。俺の方も向かない。最近、俺が反抗的なのが気に入らないのだろう。
 事実、俺はすごく変わったと思う。なんでかといえば、ウチの飼い猫が去年から喋り始めたから。キジトラの超デブ猫。ルルくんと名付けてたのに、ワシのことはヨコヅナと呼べと言ってきた。ヨコヅナはあっと言う前に、俺の人生の師になった。俺がずっと息苦しいのは親のせいであること。母親と、再婚相手のアル中の飲んだくれオヤジ。本当は俺のことなんて愛してないんじゃないか、という疑念はヨコヅナのおかげで日々膨らんでいき。もう抑えがきかないところまできた。今日、俺はちゃんと言うんだ。母さんに、ちゃんと俺の心を突きつけるんだ。
 ヨコヅナから人間というものを学ぶ中で、どんどん涼太が幼く見えてきた。今までずっといいなりだったのに、涼太を敬うことがバカらしく思えてきた。でも友人であることには変わりないし、何よりああ死にたいと呟く奴を放っておけるほどにはまだ成長できていない。ヨコヅナからの受け売りを総動員して、涼太に問うてみるか。
「さっき、なんで小さい方をボコボコにしたんだ?」
 俺は唐突に問うた。
「うるせえな」
 涼太はこちらを向かない。明らかに機嫌が悪い。
「今日、俺は言うよ」
 何を、誰に。それは言わなくてもわかるはず。もうお互いの家のこと、お互いの感情は嫌というほど交換してきている。涼太の顔がぴくっと動いた気がする。俺が何を決意したのか、涼太はわかっているはず。へえ、とぶっきらぼうに涼太は返すだけ。
「涼太も言いなよ」
 ちょっと怖かったけど、ちゃんと言った。俺は思っていることをちゃんと言うんだ。ここだけはちゃんと頑張るんだ。そう決めたから。だが涼太は、そんな俺の決意を心底馬鹿にするかのように鼻で笑った。
「そんなことして何か意味あんのかよ」
 涼太はただ前を見て吐き捨てた。たしかに、俺もそう思ってた。でも違うんだと、今なら分かるから引き下がらない。

 涼太の人生が変わるよ。
 ……は?
 母親がちゃんと、涼太を愛してるかどうかが分かる。
 ……。
 愛してなければ、家を出ればいい。愛してるなら、ちゃんと離婚してくれるはず。
 ……。
 やられっぱなしで我慢してると、強い者に負け続けるよ。児童相談所に行くか、警察とかに行こう。あのクズ男を制裁しよう。
 ……。
 それができなきゃ、今日みたいに小さいぬいぐるみしか殴れないよ。涼太に子供ができた時、涼太は子供を殴るよ。

「うるせえな」
 突き飛ばされた。景色がぐらつく。アスファルトに尻を打ちつけた。じわじわと痛みが襲ってくる。ちょっと調子に乗りすぎたかな……
 ずっとそっぽを向いていた涼太がこちらを見ている。というか睨んでいる。
「お前、ほんとつまんない奴になったよな」
 俺を見下ろして、涼太が吐き捨てた。そしてスタスタと先に歩いていく。置いていかれないように、俺もすぐに立ち上がって涼太の後ろを着いていく。

 あっという間に涼太の家の前に着いてしまった。市営団地のB棟。何も言わずに涼太は階段を登ろうとする。
「ねえ、ウチに来なよ」
 どうせ今日も殴られるんだろう。そう思うと胸が痛む。今日はアル中のジジイがいない日だし、多分連れ帰っても大丈夫だろう。何回か涼太はウチに泊まっているし。ウチで作戦会議をするべきだ。
 涼太は足を止めた。また怒るだろうか。
「いいよ」
 振り返らずに言った。少し顔が俯いているような。余計なお世話だよ、ということ。
「母ちゃんが心配するし」
 じゃあな。そう言って、涼太はコンクリートの階段を登っていく。3階の涼太家の部屋まで登っていく姿は、なんだろう、屠殺場に連れて行かれる牛みたい。全身から漂う悲壮感が半端じゃない。
 母ちゃんが心配、じゃないだろ。お前が心配、だろ。母ちゃんから離れて、あれ誰も俺を愛してくれてないって気づくのが何より恐ろしいから、だろ。
 言いたかったけど、流石に言えなかった。ああ、こうしてまた毒親予備軍が生まれていくのだなあ。こうやって、日本は病人だらけの国になってきたんだなと、ヨコヅナが言っていた意味が少しずつわかってくる。逃げ続けて、弱い者をいたぶり続けるから。その弱い者が増殖して、そのまた弱い者をいたぶり続けるから。だから不幸の連鎖が止まらない。だから最近、無差別殺人が増えてきているんだろう。だから最近、キレる若者、なんて言葉が流行っているんだろう。ヨコヅナの言葉が日々染み渡っていくのが気持ちいい。
 これで、最後の友達も失ったかもな。まあいいか。
 涼太が部屋に入った音を聞いて、もう諦めた。俺も家に向かって歩き始めた。

 夜、母親との二人だけの夕食を済ました後に畳み掛けた。手が震えたけど、本当に怖かったけど。ヨコヅナがずっと膝の上に乗っていてくれたから頑張れた。人生でダントツに頑張った。

 なんであんな男の言いなりになっているのか
 なんであんなに暴言吐かれているのに別れないのか
 なんで年中泣かされているのに別れないのか
 見ているだけで辛い。もうこの家にいるのが辛い
 母さんと二人だけで暮らしたい。それが無理ならばあちゃん家で暮らしたい

 情けない。涙が止まらなかった。俺はずっと、本当に苦しかったんだ。それが自分でよくわかった。
 母さんは俺以上に泣いていた。何回も何回、ごめんね。ダメなお母さんでごめんねと謝っていた。でも俺の問いには何も答えなかった。そして結局、お母さんあの男と別れるわ、とも言わなかった。
 結局はそういうことなんだ。あんなに酷い目に遭わされても、辛いのは俺だけで。母さんは何も辛くないんだ。去年だっけな、なんかあの男から夜中に裸でのしかかられてたけど。嫌、と喚いていたけど。でもなんか喜んでそうだったし、なんかすごく怖かったから何も言えなかったけど。
 人間の本音は行動に出るからねえ。
 ヨコヅナはそう言っていた。なるほど、そういうことなんだね。僕の気持ちよりも、自分の喜びの方が100倍大事なんだね。それがよくわかった。悲しすぎて涙も出なかった。僕は結局、ちゃんと誰からも愛されたことがなかったんだね。
 自分の部屋で呆然としていた。身体がただの空洞になった気分だ。どうしようかな、もう母さんなんて死んじゃえばいいのに。もう母さんに怒られてもいいや、全部おばあちゃんに話しちゃお。それでおばあちゃんもゴミだったら、どっか施設でも探してそこに住まわせてもらおう。うん、それがいい。漠然と、だが確かな方向性が見えたところで時計に目をやると21:37と表示されている。

 ザー……ザザー……ザザー…….

 唐突に大音量が外から聞こえてきた。びっくりして息を呑む。町中のあちこちに設置されている町内放送用のスピーカーから、だろうか。なんだこんな夜中に。火事でもあったのか。

 ザザー……ザザー…….ザー……

 テレビの砂嵐みたいな、嫌な音。それがしばらく流れる。自室の窓を開けると、確かに町中に響き渡っている。隣の部屋の人、向かいの住人、ちらほら窓を開けている人たちが見える。

"……なも……こうし……りゃあい……よ……"

 途切れ途切れの音。不気味だ、気持ち悪い。機械音、か? いや、男子児童のような声にも聞こえる。でも何を言っているのかはわからない。背筋がゾッとする。全身に鳥肌が立っている。
 何だこれ、気持ち悪いなあ。隣の住人の男がそう吐き捨て、窓を閉めた。砂嵐も聞こえなくなった。なんだろう、怖いな……認知症のおじいちゃんが役場に勝手に入っていたずらでもしたのかな。うん、そうだろう。前もそんなことがあったし。そう言い聞かせて、ヨコヅナを抱きしめながら眠った。


 翌日 2003年1月17日(金)8:24 
 
 「ねえ、昨日のなんだったんだろうね」
 朝の会が始まる前の4年2組の教室。自分の席につくと、後ろの席の莉央が肩をトントン、と叩き声をかけてきた。な、気持ち悪かったよな、と答えた。やはりあの砂嵐は町内中に放送されていたようだ。莉央だけじゃない、クラス中のみんながその件で騒いでいる。昨日一緒に公園にいた猿どもが俺を指差して、やっぱ凛のせいじゃね!? うわー、凛呪われたわーとギャハギャハ騒いでいる。

 ……笑えない。今日は朝から生きた心地がしない。俺は本当に呪われたのだろうか。

 今日、いつものように涼太を迎えにいくと、団地の前にはパトカーが一台停まっていた。団地の前でいつもなら涼太が待っているのに出てこないから3階の部屋まで行きピンポンを鳴らすと、目を真っ赤に腫らした涼太の母親が出てきた。その後ろから警察の人も出てきて、色々質問責めにされた。
 涼太がいなくなった。
 どこを探してもいない。書き置きもない。涼太の母親は再び泣き始めた。俺は警官から、昨日涼太と何をしたのか、最後に別れたのは何時ごろか。涼太に変わった様子はなかったかを問われた。
 変わった様子しかないですよ。詳しくはその女に聞いてください。
 と吐き捨てたかったが、ちょっと怖かったのでそれは言えなかった。一通り質問には答えたけど一向に終わらないから、あのもう行かないと学校に遅れちゃうんですけどと言ったら解放された。が、また放課後警察署に行かなくてはいけない。
 
 どこに行ったのか。まさか、本当に自殺したのか……?

 俺のせいだろうか。いやそれは思い上がりだ。俺に人を殺せる力などない。だが、涼太を追い詰めるきっかけは作ったのかもしれない。
 それができなきゃ、今日みたいに小さいぬいぐるみしか殴れないよ。涼太に子供ができた時、涼太は子供を殴るよ。
 この言葉が思い起こされる。涼太に意見をするようになったのは最近。一番涼太を傷つけた言葉は何か、と自問すると真っ先にこの言葉が浮かぶ。いや、だがこんな言葉一つで自殺なんかするだろうか……

「ねえ、顔色悪いよ凛くん。大丈夫?」
 莉央の言葉で現実に引き戻された。意識は今、教室の中に在る。朝の会なんか出てる場合じゃない、涼太を探しに行った方がいいだろうか。だが田舎の公立教師というのは大体が気狂いで、学校を抜けだそうものなら鬼の体罰が待っている。それは恐ろしい。涼太がこんな状態になっているのに、ここでも俺は自分のことしか考えられないのだな。
 そんな己に嫌気が差していると、また例の音がやってきた。

 ザー……ザザー……ザザー…….

 ひっ、と莉央が悲鳴をあげる。他の猿どもも、クラスメイトたちも一斉に叫んだ。うわああああと狼狽える男子たち。なになに、なんなのと身を寄せ合う女子たち。

 ザザー……ザザー…….ザー……

 砂嵐は収まらない。校庭に設置された町内スピーカーから、大音量で砂嵐が流れ続ける。急いで走ってきた様子の担任教師が落ち着くように声をかけるが何の意味もない。半泣き状態になる女子も出てきたところで、ようやく砂嵐は収まっていく。が、再び大音量が流れた。

 "……オラァ、死ね!"









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