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【Kim06】(1) 読書を用いた言語力への介入研究。その典型例

このnoteでは,私の専門である読書や言語力(語彙力や文章理解力のこと)についての本や論文を紹介していくつもりです。

なるべく新しい論文を紹介していくつもりなのですが,それらの最新論文の前提となるような過去の論文についても紹介しておくことで,「ここで紹介した論文のような方法を,この最新論文でも使っているよ」といったように説明が省けるのではないかと思います。

そこで今回は,近々紹介する予定の論文で引用されている,2006年にKimが報告した論文についてご紹介します。

Kim, J. S. (2006). Effects of a Voluntary Summer Reading Intervention on Reading Achievement: Results From a Randomized Field Trial. Educational Evaluation and Policy Analysis, 28(4), 335-355.


相関関係と因果関係

読書をすると,文章理解力は高まるのでしょうか。

これまで行われてきた数多くの「調査」では,「読書をする人ほど,文章理解力が高い」といった関係(これを「正の相関関係」と言います)があることが報告されています。

この知見からすれば,「読書をすれば,文章理解力は高まる」という関係(これを「因果関係」と言います)があるように思われるかもしれません。

実験と介入

しかし,前者(相関関係)と後者(因果関係)は異なるものです。「読書をすれば,文章理解力は高まる」という後者の因果関係を確かめる王道の方法は,「読書をしたかどうか」だけが違う2つのグループを作って,「実験」することです。

大学などに参加者を呼んで行う「実験」は,実験手続きの厳密さの意味では非常に優れたものですが,日常生活とは異なる環境で実験をするため,普段の読書とは異なる読書を測定することになってしまうという弱点があります。私たちが知りたいのは「私たちが普段行う普通の読書を増やすことで,文章理解力が高まるか」ということだからです。

そこで,この疑問に答えるために,日常生活上での実験ともいうべき「介入研究」というものが行われます。

ご紹介するKimらの論文は,シンプルな手続きと,微妙な結果(と言ってはアレですが……)が得られている,読書による介入研究の典型例として紹介するのにふさわしい論文だと思います。

どんな読書介入が行われたのか

参加者はアメリカのある学区にある10の小学校に所属していた552名の4年生児童でした。

2005年6月に,まず文章理解力や読みの流暢性についての事前テストを受けます。

読みの流暢性というのは,学年相応レベルの文章を声に出して読み上げさせて,1分間に正しく読める単語数を測定するものです。

次に,学期末の時期に,訓練された教師が生徒たちに2つのことを指導します。これが読書介入(読書を中心としたプログラムによる介入)になります。

2つの指導のうちの1つは,黙読時の理解方略の指導です。夏休み中に一人で本を読むときには,このように読みなさい,という指導を行ったわけですね。「再読」「疑問」「予測」「要約」「自分や他の文章との関連付け」という5つの理解方略が指導されました。

もう1つは,ペア読み(paired reading)と呼ばれる方法を指導し,夏休み中に行うことを奨励しました。ペア読みというのは,生徒が本のお気に入りの箇所を選んで,親や家族に向かって声に出して読むというものです。

介入の手続き

教師は,模範を見せながら,生徒にこれら2つの指導を行います。そして,その指導が終わった後に,生徒からランダムに選んだ282名を実験グループ,270名を統制グループに割り当てます。

実験グループの生徒には,夏休み期間である7月8月に2週間に一度,本が1冊ずつの合計8冊が送られてきます。さらにそこにはポストカードも添えられていて,家族に生徒の読書に協力するようメッセージが入っています。

つまり,実験グループの生徒だけは,夏休み中に上記の指導を実践するための環境づくりが行われたということですね。

実験グループと統制グループの違いがここだけだった,というのが重要です。ランダムに実験グループと統制グループの割り当てを行っているので,事前テストの成績もグループ間でほぼ同じです。これで事後テストの成績が実験グループ>統制グループとなっていれば,読書介入によって成績が高まったと結論することができます

夏休みが終わった9月に事後テストが行われました。夏休みの間に転校なども含めて研究からの脱落があり,実験グループ252名,統制グループ234名の合計486名となりました。これらが分析対象です。

さて結果はどうなるでしょうか。

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続く。


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