包摂の転機【最終章】【3】体現するビジョンへ
包摂の転機【最終章】【2】包摂による長期ビジョン共創モデルへ
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外国人材の金銭的モチベーションを“安い労働力”とみなすのではなく、彼らをビジネスパートナーとして巻き込み、付加価値を創出するきっかけに変えられるかどうかが、包摂の転機を迎えるうえでの大きな分岐点になります。
ベトナム人技能実習生が農業の現場で働く場合、単に収穫作業だけを任せるだけでは、彼らの「もっと稼ぎたい」という意欲を満たせませんし、企業や地域側も大きな経済的メリットを得にくいでしょう。
そこで、収穫作業に加え、販促やマーケティング業務を担当してもらう発想が、双方にとっての転機となる可能性を秘めています。
具体的には、ベトナム人材が母国語や英語を用い、SNS上で現地バイヤーや消費者に直接アピールできる仕組みを整え、売上増に応じたボーナスを報酬に加えるのです。
たとえば「売れた分だけスタッフに一定比率を還元する」という明快なルールをつくれば、彼らのモチベーションは格段に高まり、地域特産品の販路拡大にもつながります。
こうして「頑張れば頑張るほど稼げる」と体感できれば、外国人材は短期就労にとどまらず長期定着へと意識が変わり、企業や地域が得る利益も安定して伸びるという好循環が期待できるわけです。
同様の手法は、介護業界でも応用が可能です。多くの外国人介護士は、「稼ぎたい」という思いだけでなく、「日本で専門知識を積み、自国や別の国でその経験を活かしたい」という将来展望を持っているケースが少なくありません。
しかし、介護現場での業務がケアや身体的負担の大きい労働だけに閉じてしまうと、彼らの文化的背景や言語スキルは十分に活かされず、報酬も上がりにくい状態になってしまいます。
そこで、たとえば外国人スタッフに地元住民との交流イベントを企画・運営してもらい、そこから得られる収益を有料介護サービスの“付加価値”として位置づけるという方法が考えられます。
多文化料理体験、簡単な親睦のゲーム、外国語レッスンを兼ねたデイサービスを開催し、地域の高齢者だけでなく、地域町内会のメンバー、子どもたち、若い世代も巻き込むことで、新たなコミュニティづくりを促進するのです。
そこで生まれる追加収益をスタッフに一部還元し、給与やキャリアアップにつなげる仕組みを導入すれば、外国人介護士は「ただ固定的な賃金で働く存在」からもっと日本人コミュニティとの交流から拡がりを感じながら、様々なアイディアを出し合い、経済的な報酬へと可能性と地域社会の友好の道を切り拓くことに繋がります。
ある介護事業者へのインタビューによれば、「外国人スタッフが得意の言語や文化を活かしたイベントを実施した結果、利用者から『ただの介護サービスではない特別感』を評価され、事業全体のブランドイメージが向上した」といいます。
こうした成功例は、包摂の視点を取り入れつつ転機を具体化した成果の事例であります。
これらのベトナム人技能実習生が収穫だけでなく販促を担当するモデルや、外国人介護士がコミュニティ交流を“付加価値”として担うモデルはいずれも、「外国人の金銭的モチベーションを尊重しながら、地域や企業に新たな利益とブランド力をもたらす」という包摂の実践形態といえます。
こうした取り組みが実を結べば、外国人は「日本こそ稼げる場所だ」という実感を得られ、企業や地域も国際市場や新分野への突破口を開拓できるようになります。
まさにこの双方のメリットが同時に成立することが、包摂の転機として社会に大きなインパクトを与えるのです。
この転機を実現するには、現行の在留資格制度の改定が欠かせない点は見逃せません。
とりわけ技能実習制度では職種が限定され、就業範囲が厳しく管理されているため、企業が販促業務や新しい分野の仕事を任せようとしても「実習計画外の不正就労」に該当してしまうリスクがあります。
こうしたルールは、本来の不正防止という趣旨には合致しているものの、外国人と企業の双方が付加価値を生み出す取り組みを阻害しかねません。
そこで、技能実習制度の変革や育成制度への改正によって、企業が幅広い業務を外国人材に任せられる柔軟性を高めることが、長期定着や利益向上の好循環を促す大きな鍵となると思います。
これこそが“包摂の転機”をさらに確かなものとし、日本企業や地域社会が抱える経済的課題の解決にも寄与すると期待されます。
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