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奈良の野菜を味わいにいったら、主役はヤギとカエルと人間だった。

奈良盆地のミシュラン グリーンスター・清澄の里 粟

私はフード系の記事をほとんど書かないのですが、とても素敵なお店と出会ったので少しだけ紹介したいと思います。店の名前は「清澄の里 粟《きよすみのさと あわ》」。1日限定10名の完全予約制で「ミシュランガイド奈良」にミシュラン グリーンスターとして紹介されています。お店のコメントには、“奈良の伝統野菜の種を守り、未来に繋いでいます。在来作物を育てることは、地域に根差した文化や歴史の継承。農薬を使わない循環農法で環境保全にも努めています。飼育するヤギが野菜の端材を食べて堆肥づくりに活躍。フードロスもありません。”と書かれています。

お店の席に着くとテーブルの上にいろんなものが。そのほとんどが出てくる料理と関連するものなのですが、オーナーさんのセンスがじわじわ伝わってくる演出です。

最初のお皿です。食前酒がわりに発酵リンゴジュースをいただきました。スライスしたものは飛鳥時代に奈良に伝わったといわれる古代チーズの蘇。紫色のものは大和ルージュという赤いスイートコーンです。それぞれの素材の説明をしてくださった後に食べると、ひと口ひと口が味わい深い。素材の味が堪能できます。
自然光の中で葉物野菜がおいしそうに見えるのはふた皿目。手前のローストビーフに目がいってしまいがちですが、主役は野菜と灰色の蒟蒻《こんにゃく》です。この蒟蒻はかなり衝撃的で私が知っているものとはまったく違う。なんでも、日本の食卓に並んでいる蒟蒻は、水酸化カルシウムで固めているらしく、あの独特の匂いもそれが原因なんだとか。この蒟蒻は藁灰《わらはい》で固めているので嫌な臭いはまったくない。あまりのおいしさに蒟蒻の概念が変わってしまいました。
お料理の説明のためにオーナーさんが置いていったオブジェ。コップを置いただけでテーブルの上がアート空間になってしまう。
これも迫力あるオブジェというか里芋。
葉物野菜や芋などが温かい葛あんかけになって出てきました。色合いが素敵です。
これは豆乳スープ鍋。野菜が主役でうまい。
お肉もおいしい。脇にある山芋を鍋に入れると団子になるのだ。この鍋は肉が脇役かも。
温かいものが2つ続いたので少し箸休め的な酢の物。中央はそーめんかぼちゃ。
素材の味をしっかり楽しめる野菜の天ぷら。
黒米の豆ご飯。
めちゃくちゃ野菜の種類を食べました。
手前が粟《あわ》です。そもそも店名の「粟」って気になりますよね。「あ」はすべての始まりを意味し、「わ」はすべての調和。大和《やまと》の伝統野菜や伝統文化、そして人の輪が広がってゆく種火の様な場所になれるようにという想いが込められて「粟」という名前にしたそうです。
粟は縄文時代から栽培されていた日本最古の穀物のひとつで、イネが伝来する前の主食だったといわれています。日本のはじまりの地・奈良にふさわしい店名かもしれませんね。
最後にデザート。奥のだんごはオプションの粟生《あわなり》。粟の一種「むこだまし」を生地に使用した和菓で、 幻の小豆といわれる「白小豆」と、奈良の伝統的な小豆「宇陀大納言小豆」の餡が入っています。おいしかった。

私たちは12時半から営業時間ギリギリの16時まで、お店の中でのんびりさせていただきました。店内にさりげなく置かれている観葉植物にはかわいいカエルが二匹。シュレーゲルアオガエルのケロとコロ。田植えの準備をしているときに泡で包まれた卵塊を発見し、水場に移動させたところオタマジャクシになり、育てるうちにファミリーに加わったのだそうです。ちなみに、外国産のような名前ですが、れっきとした日本の固有種だそうですよ。

なんとケロとコロは指を近づけると手に乗っかってくれます。完全にこのお店のファミリーでした。

もうひとつ、このお店の重要な役割をしているのがヤギのペーター(白)とクララ(グレー)。お食事の時間の途中に、お客さんの前に現れるのが日課というか、お仕事なのだそうです。

ペーターがクララが部屋の中に入らないように、お尻で止めているのだそう。
ペーターは人に撫でられるのが大好き。

ところで、ペーターとクララは、お店にとってとても重要な存在で、ミシュランのグリーンスターの審査もその役割が評価のポイントでした。その役割とは、
①周辺の草を食べるお仕事
②ミルクを出すお仕事
③野菜クズを堆肥に変えるお仕事
④人間の子供と仲良くするお仕事
⑤お客さんに癒し効果を与えるお仕事
その中でも、③の野菜クズを堆肥に変えるコンポスターとしての活躍が大いに評価されたそうです。

コンポストのお仕事中のクララ。
野菜クズを堆肥に変えるお仕事中のペーター

フードロスや伝統野菜や伝統文化の継承など、サスティナビリティな取り組みが評価されて、ミシュランガイド奈良2022~2024では、3年続けて「清澄の里 粟」と「粟 ならまち店」がそろってミシュラングリーンスターを獲得しています。

お店は高台にあるので、窓の外は生駒山地が一望できます。

さて、このお店のオーナーさんの話をほとんどしていませんでしたが、オーナーの三浦雅之さんは、つい最近『奈良のタカラモノ』という本を出版されました。奥様とふたりで「清澄の里 粟」を営業されていますが、2013年にあの『情熱大陸』に出演をされていたのだとか。三浦さんのお話を聞いていると、物腰が柔らかくて、きっとお友人や仲間が多い人なんだろうと思いましたが、著書の中の友人のコメントがまさにその人柄を表していました。

もうかれこれ三浦さんとは14年来の友人なのだが、出会った頃からやられていることも言っていることもまったくブレていない。それでいて人柄が柔らかく、しなやか、そして、どんな人も魅了する。その噂を聞きつけた人たちが清澄の里を訪れて三浦さんのファンになり、みんなヤギのペーターと笑顔のツーショット。

『奈良のタカラモノ』の高橋俊宏さんの
発刊によせてより

まさに私もそんな印象を持ちました。

お料理の主役は野菜なのだけれど、お店の主役は、ヤギのペーターとクララであり、カエルのケロとコロであり、人間の三浦雅之さんと妻の陽子さんというのが私の思ったことです。とても素敵なお店でした。

ちなみに、敷地内には古墳がありますので、古墳ファンの方もぜひ。下記に三浦さんご本人のnoteからですが、おふたりのことを取材した記事をリンクしておきます。


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