【開高健】最高傑作は『輝ける闇』か『夏の闇』か?
12 月9日、悠々忌。
開高健の命日だったことを
うっかりしていました。
開高健は、現代作家なのに、
他作家とは明らかに異なる文体を
獲得した稀有な作家でした。
その新しい文体の獲得時期と
開高がベトナム戦争の修羅場を
くぐって帰ってきてからと、
時期は同じ頃なんです。
独自の文体を獲得するには、
命からがらの体験が
必要ってことなのかしら?
いいや、命からがらの体験こそが
本人に究極の思考をもたらす、
それが新しい文体を作りだした、
ということでしょうか。
開高の青春の自叙伝的小説
『青い月曜日』では、
第一部(ベトナムに行く前に書いた)と
第二部(ベトナム帰国後に書いた)とでは
まるで別人のように文体が変わった。
後半は、いわゆる開高健の
真の詩魂の文体で書かれ、
漢字語の峻厳さと独自の連結具合が
読者を引き込んでくれる。
漢字語でこんなにデリケートな
世界が書かれ得るのか?と
感動しながら読み進む。
その漢字語の魅力が
100%堪能できるのが、
みずからのベトナム戦場の
体験を元に描いた小説『輝ける闇』。
開高健の作品評価では、
『輝ける闇』と
その続編『夏の闇』の二つが
よく代表作とされるが、
中でも、最高傑作は
『夏の闇』とされがちです。
成熟度の高さからそう言われるのだろう。
でも、私は『夏の闇』より、
まだ開高的文体が誕生したばかりの
『輝ける闇』ががぜん好きだ。
最高傑作は『輝ける闇』だと言いたい。
ちなみに、開高健好きに、
『輝ける闇』と『夏の闇』、
どちらが最高傑作か
一度アンケートを取りたい位ですが、
果たしてどちらが一番になるだろう?
やはり世評どおり、
『夏の闇』だろうか?
いや成熟前の、文体誕生時期の
『輝ける闇』だろうか。
開高健は、不器用な詩人だった。
小説を読んでも、
開高作品からは詩魂が漂ってくる。
彼が書いた『珠玉』『玉、砕ける』や
『貝塚をつくる』などからは
詩魂がこんこんと湧き続けている。
さて。閑話休題。
開高健の最高傑作は
『輝ける闇』か『夏の闇』か?
この問いはもしかしたら、
読む者の心理状態に大きく
左右されるかもしれない。
どちらにせよ、開高健は
ベトナム以前とベトナム以降では
明らかに、文体、また詩魂の
凄まじさがちがっている。
私はベトナム以降を愛している。