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【才能】小説を模写したら、私は開高健になっていた!?

「どんな絵がいい絵か訊かれて、
ひと言で答えなければならないとしたら
私はこう答える。
ーー買えなければ盗んでも
自分のものにしたくなるような絵なら、
まちがいなくいい絵である」 
『洲之内徹ベストエッセイ1』より。

今、ちくま文庫で出てる、
美術評論家で小説も書いた、
洲之内徹という名人のエッセイです。

「買えなければ盗んでも欲しくなる」
とは驚きですが、
それくらいに深く感動し、
それが極端になると、
自分のものにしたくなる、
道徳よりも所有欲が勝る、
そんな絵こそいちばんいい絵だと
昭和の美術評論家は言うのです。

これはかなり暴論ですが、
ある意味、正論でしょう。
欲しいとは思わないレベルなら、
それはいい絵ではない、
うわつらで観てるだけだ、
そういうことなんでしょうね。
暴論だが、まっとうだ。

そんな絵にまだ
出会ったことはないですが、
ぼくにも欲しくなったものがあります。

それは、学生時代に読んで、
脳みそがそれでいっぱいになった
開高健の小説と
向田邦子のエッセイです。

ただ、よかった、感動した、
という訳ではなく、
その作品やエッセイを書いた
作家たちの脳みそ、
正しくは、才能そのもの、
それが欲しくなりました。

まだ、当時は、将来は自分も
作家になれると疑わなかった頃(笑)。
それでも、向田邦子のエッセイの
構成のうまさや、
開高の人間真理を突く鋭さには
感動を超えて、その力を是が非でも
わがのものにしたいという
所有欲が芽生えました。

向田邦子と開高健には
ああ、その才能が欲しいと
悔しく思ったものでした。

それで、せめてと思って、
400字詰め原稿用紙を買い込み、
開高健のベトナム戦争ものや
向田邦子の『手袋をさがして』を
模写していきました。

模写は不思議なもので、
字を写していると、
句読点の打ち方や
単語の選び方、改行の仕方など
開高健や向田邦子の
それぞれの脳の仕組みがわかり、
自分のものになる感覚がして、
満足感でいっぱいになるような、
ちょっとした覚醒感が起きるんです。

もう自分は開高健になったんだ、
いや、近づいたんだ、
そんなトランス状態になったものです。
わたしは、ヤベえ奴ですね(笑)。
本を模写しただけなのに。

いい絵が欲しさに盗む、
というのは犯罪ですが(汗)、
作品を模写するのは、
犯罪じゃありません。
だから、自分のものにしたい時は、
じゃんじゃん、模写すればいい。
   
模写をしてる間だけは、
ほぼ私はその作家になっている。
その作家になりきって、
大切な作品を書いている、
そうした疑似体験ができるんです。

また近いうち、模写したくなる
才能に出会えるといいなあ。

模写のチカラによれば
どんな凡人でも、
見事な才能の持ち主になれる!
それは錯覚では?とは、
野暮な話は為さらないで下さいね。


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