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突発的な短編マガジン

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1話完結の短編です。
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記事一覧

DO NOT Watch XXXXXX's Window

 二〇二〇年の春の話をする。
 疫病が蔓延していた。
 そして、ステイホームを強いられる僕ら人類を憐れんだのかように、神様がとんでもない乱数をぶっ込んできた。
 部屋に窓が現れるようになったのだ。
 窓は突然、空中にぽっと現れる。
 ベッドの上とかトイレの中とか、進行方向に現れるので、頭をぶつけることがよくあった。
 ひとりあたり1日1回現れて、自分の前に現れた窓は他人には見えていない。
 自分専

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全世界の五分間を、ただひとり君の命に注ぎたかった

1. 路上 15:18

交通事故の直後。男は恋人の血まみれの手を握り、絶望に打ちひしがれている。周囲の騒音が遠くかすれてゆく中で、男の前に懐中時計が音を立てて落ちてくる。拾い上げ裏面を見ると「時間を巻きもどせる。ただし、全世界の記憶が戻した分だけ失われる」と書いてある。男は泣きながら、時計の針を5分だけ戻すことを決意する。5分あれば彼女を失うことはなく、たった5分なら、世界にさしたる支障はない。

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異形ハロウィン2024

 僕のアパートにはなぜか、毎年ハロウィンの日にぶにゅぶにゅのバケモノが出てくる。
 昨年の11/1の朝、腐臭漂う室内から晴れ渡る青空を見て、本気で転居を決めた。
 なのに、不動産サイトを毎日眺めても、良い物件が見つからない。
 絶対に引っ越した方がいいと頭ではわかっているし、条件のよい物件も何度も見たのに、なぜかそこに住みたいと思えない。
 不動産屋めぐりで深夜になることもあったけれど見つからず、

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長い夢のやつ。イギリス〜日本〜変な町

妙な夢を見た。

1章 イギリスのアパートメント
 古びたアパートメント。床が水浸し。家が水漏れしてたけど、半年ほど不在にしていたので、全く気づかなかった。
 自分は画家らしく、盗作で炎上中だと知らされるが、普段エゴサをしないので、半年間全く気づいていなかった。
 盗作をしたのかは、その騒ぎを知らんのが答えでしょと言っている。

2章 イギリス郊外
 世はどうやら、戦争が終わったところらしい。自分

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異形ハロウィン2023

 今年もあいつが来る――

 僕はウエストポーチに大量の金平糖を詰め込み、玄関とキッチンの間で待機していた。
 一昨年は玄関から来た。去年は台所の換気扇から入ってきた。
 毎年手を変えて侵入してくることは分かったから、どこから襲われても大丈夫なように、既に右手を金平糖の中に突っ込んでいる。
 しかしこのとき僕は、ひとつの失態を犯していた。
 わずかな過去のデータに甘え過ぎていたのだ。

 毎年ぬち

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死に滅んでゆくおれを最後まで見届けてくれるか?

「どうした、酔っ払って電話を掛けて来るなんて君らしくないじゃないか」
「……うぅ。おれが書かなくたって、世の中に小説はいっぱいある」
「え? ど、なに。急にそんなこと言うなよ! 僕は君のファンだぞ!」
 僕が声を張り上げて宣言しても、電話越しの彼はズルズルと洟をすすっている。
「占い師と同じなんだ。彼女らは、占いをすればするほど当たらない恥ずかしい瞬間を世間に見られる可能性が高まる。そもそも占いな

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わたしたちは似ている。

 目の前の同僚男は、瀟洒なカフェで、フルーツティーのポットの底に沈むブルーベリーを、緩慢な動きで取ろうとしていた。
「昔は、人に優しくされたり良くしてもらうと『自分にはそんな価値はないのに』と思って、ものすごく申し訳なく思ってたな」
 わたしは残りわずかになった抹茶ラテの表面を、ストローで撫で続けている。
「分かるよ。自分のために相手が頑張ってるのを見ると、自分は人に負担を与える存在なんだと考えた

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絶対に川崎市民にしか伝わらない架空の戦記プロット「川崎戦争」

武蔵小杉ブームの新住民が新興勢力となり川崎区へ圧力をかけたのが、川崎戦争の発端となった。

川崎戦争の要となるのはJR南武線である。
南北に細長い川崎市を縦断する。
南武線の駅を制圧していくことで簡単に陥落する地域もある一方、東急田園都市線や東横線、小田急線など、都内〜横浜方面と繋がりがあるハブ駅も存在する。

◆麻生区 - 不戦勝を狙う麻生区は南武線が通ってないので、戦うまでもなく全滅するのを待

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大人と子供に平等な犯罪を考えている兄弟の話

 時々思うのだ。大人が罪を犯すより、未成年者が犯罪行為に手を染める方が簡単じゃないか? と。
 だって、酒を飲んだだけで違法になれる。子供はやっちゃいけないことだらけで、ちょっとでも大人にしか許されないことをしたら、それだけで御用だ。
 ……ということを、16歳の弟に言ったら、ひどく叱られた。
「お前はなあ! 高校生が酒を買うことのハードルの高さを分かってない。コンビニ店員ってすぐ、『身分証の提示

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昼寝で見た夢のやつ。蛍のイベント

昼寝の夢は妙だ。

地元の川に蛍を呼ぶイベントの計画があることを3ヶ月ほど前に知った。テレビ局が主催だが、ほとんどの人は知らなくて、一部の熱心な人や関係者以外気にもとめていない。わたしはそのイベントを異常に待ち望んでいた。
夏が近づき、わたしは蛍を楽しみに毎日を過ごしていた。
区内に蛍が住んでいる川があるのは知っていた。地元の川は一級河川で橋桁から5mはあるし、蛍が住むような場所ではないが、区内に

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きょうの非行@ガオーシティ(1) 月を上げ下げする綱を切ってみる

 地球の地下奥深くには、マントルを避けるように、丸い空間が作られている。
 ガオーシティ。本当はすごく暑いらしいけれど、鉄球の中を空洞にくり抜いたような形の街の内面には、冷却用の水道管が張り巡らされているので、快適だ。
 僕こと綿貫カズオは、ハイスクールに通う十六歳だ。ちょっと悪いことをするのを生き甲斐にしている。
 非行の相棒は、クラスメイトの瀬尾。
 一見冴えない金髪もじゃもじゃだけど、頭が切

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輝く殴打

 ――最近のひとは、『ガラスの灰皿』と聞いても、なんのことか分からないらしい
 そんな噂を聞いたので、僕は、もう少し適切な凶器を考えることにした。
 パブリックイメージに合う、適切な、資産家の男性を殴りつけるのにふさわしい鈍器とは。

 一応確認しておくと、ガラスの灰皿というのは、そのままずばり、ガラス製の灰皿である。お皿みたいな薄いものではなく、分厚いガラスの塊だ。
 複雑にカットされた表面は、

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枕辺探偵事務所の鍛錬記録〜クリスマスイブのQRコード合戦〜

「おい、弥山。事件だ」
 そう言って枕辺さんは、デスクチェアに座ったまま、汚い床を蹴った。
 キャスターがゴロゴロと音を立てて、冴えない名探偵を運んでくる。その右手には、何やら薄いものが握られている気がした。
「……ちょっと、きょうは予定があるので、事件は無しでいいですか?」
「ダメだ、ふざけんな。きのうの失態を忘れたわけじゃねえだろ? お前にはキビシ~イ鍛錬が必要だ」
 僕はうっと言葉に詰まる。

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#いいねの数だけ自キャラを振り返る2021

ツイッターのハッシュタグがあったので、書き出してみました。
おかげさまでたくさんのいいねをいただけて、全部紹介できます。
ほとんど没作です。

以上です。

ほんとはもっとというか、かなり没作があるのですが、プロットがっちり作ったのにキャラ名をつける前に没にしたものが多くて、振り返ることもできず。
ごめんな、名無したち。dropboxの中で安らかに眠ってくれ。

12月現在、書き途中の数作でざっと

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