わたしたちは似ている。
目の前の同僚男は、瀟洒なカフェで、フルーツティーのポットの底に沈むブルーベリーを、緩慢な動きで取ろうとしていた。
「昔は、人に優しくされたり良くしてもらうと『自分にはそんな価値はないのに』と思って、ものすごく申し訳なく思ってたな」
わたしは残りわずかになった抹茶ラテの表面を、ストローで撫で続けている。
「分かるよ。自分のために相手が頑張ってるのを見ると、自分は人に負担を与える存在なんだと考えたりして、ダメだった。優しくされるとね」
訳もなく優しくされると泣きたくなる、そういう人種だった。
相手のその、見返りを求めない圧倒的な親切心が光源となって、人に手を煩わせなければ生きられないというわたしの不完全性を、くっきりとした影かたちとして、コンクリートにうつす。
そういうのを見ると悲しくなった。
溌剌とした相手と比べて惨めになったのではない。
ただただ、申し訳なかった。
「でも俺は、大人になってからは少し考え方が変わって。『優しくしようと思ってくれたのは相手の考えだから、それをこっちが否定するのは筋違い』って思うようになって、少し楽になったな。君は? 何か変わった?」
「わたしは単純に、自分をジャッジするのをやめたから、優しくされる価値の有無とか、考えなくなった。……でもこれは、なんでできるようになったか分かんないな」
気にしないようにしようと、頭で考えたり自分に言い聞かせても、考えてしまうものは考えてしまうのでどうしようもなかった。
それなのに、いつの間にかそういう考えはしなくなっていって……これが大人になったということなのだろうか。
同僚男はついにポットをひっくり返し、中身のフルーツを皿の上にザラザラとあけた――貧乏っちいというよりは、最後まで食べてもらえてフルーツもきっと喜んでいるだろうと思えた。
少しぷよぷよになったフルーツにフォークを刺しながら、同僚男はほんわり笑う。
「そういうわけで、優しすぎて申し訳なるくらい優しい君には、これからも寄り添っていくべきだし、迷惑を掛けても、死にたくなるより先に挽回する方法に思い至れる、健康な人間になりたい」
「わたしも、可処分時間のほとんどをわたしのために使ってくれる優しいあなたに対して、罪悪感を抱かず、大切にしようと思えるおおらかな人間になりたい」
さあ行こうか、と彼が言った瞬間、わたしたちは同時に、レシートの入った筒に手を触れていた。
いまわたしたちは、等しく同じ熱量で、相手に対して優しい。
でもこれから、どちらかがより優しくなりすぎたり、逆に、どちらかがぞんざいになって、イコールではなくなったら、どうなるのだろう?
そんなことを同時に考えていそうな顔を、彼もしているのである。
(了)