死に滅んでゆくおれを最後まで見届けてくれるか?

4/29 ツイッターに書いた雑文をそのままコピペしました

「どうした、酔っ払って電話を掛けて来るなんて君らしくないじゃないか」
「……うぅ。おれが書かなくたって、世の中に小説はいっぱいある」
「え? ど、なに。急にそんなこと言うなよ! 僕は君のファンだぞ!」
 僕が声を張り上げて宣言しても、電話越しの彼はズルズルと洟をすすっている。
「占い師と同じなんだ。彼女らは、占いをすればするほど当たらない恥ずかしい瞬間を世間に見られる可能性が高まる。そもそも占いなんかしなければ、恥ずかしい思いなんかしなくて済むのにね。それでも続けてしまう。おれも同じだ。小説を書けば書くほど間違いや無知を世間様に晒すことになる。業が深いよな」
「でも、誰かを幸せにしたくてやるんだろ?」
「おれが誰かを幸せにする可能性と、人類の幸せの総量の計算が合わない。だって、編集部の毎月の出版数は決まっているんだ。おれがくだらない小説を1冊出したせいでその枠が奪われ、世の中に出るべきだった世界一の超名作が出なかったらどうする?」
 僕が何も言えずに黙ると、スピーカーが、ゴシゴシと布を擦る雑音をこちらへ伝えてしまった。その奥から控えめに、嗚咽を漏らす声が聞こえる。
「えーと。僕は君のそういう飛躍したマイナス思考は好もしいと思うぞ。いいじゃないか。1冊出して、超名作が生まれるはずだった地球の歴史を塗り替えて人類に損害を与えたら、それは君の生き様さ」
 衣擦れの雑音が骨伝いに耳に届く。彼は多分すごく口を尖らせて言った。
「死に滅んでゆくおれを最後まで見届けてくれるか?」
「いいよ、約束する。その代わり、健康に長生きしろよ。健康な方が、無様が映えるんだから」
 電話がぶちりと切れた。
 僕の耳の奥にはまだ、ざらざらとした感触が残っていた。

(了)

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