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世界史を変えた詐欺師たち

20250111

「詐欺」行為にまず必要なのは、悪意よりも「信頼」であって、どのような種類の詐欺の場合にも、受け入れる瞬間には「信頼」があることが前提となっている。そしてないときは「信頼」を作った上で、それを「情報操作」によって裏切り自分の利益を得ようとする。

たとえば、「元政府系企業の再建上場」というのがある。
「この企業は公共性が高く、このまま潰してしまったら、国民全体に影響が出る。政府の援助で再建民営化することが必要です」
などと政治家や評論家がいうので納得していた。ところが、あとから上場前に政治家の関係者たちが株式を安く手にいれ、株価が高騰したところで売っていた疑いが出てくる。
しかも、評論家は新事業体の社外取締役に就任していたりするのである。誰も損していないように見えるが、ここには国民の税金が投入されている。
こうしたケースは実に微妙である。この企業が再生されて以後、順調に発展していった場合には、この政治家は見識のある人だったということになって、親戚や知人に密かに未上場株を買わせていた疑いなどはどこかにいってしまう。いっぽう、再建に失敗すれば、税金が無駄に使われたことになるが、合法だから責任を取る人は誰もいないのである。
こうした政府系の詐欺まがい行為には、最初から国民のためになるのかはっきりと分からないものも多い。必要ないような建物を建ててみたり、ほとんど使われないような道路や線路を敷設してみたりする。ときには政府や中央銀行が特定の民間会社の株式を買うような、それまでのルールを無視した新しい政策を採用することもある。
その結果、国民の資産を紙くずにしても犯罪として裁かれないのは、そこに政府がからんでいるからだ。あるいは、政府そのものが議会に法律をつくってもらいながら威風堂々と遂行するからだ。そして、そのときに使われるのが経済学といわれる理屈なのである。
しかし、政府が行なっているという前提を外して考えると、どう考えても詐欺にしか思えない。犯罪としての詐欺と、政策としての許欺的なものとの境界は、実は極めて曖味なのだ。いや、確固たる政策にも明らかに許欺となる要素がいくらでも含まれている。

貴金属だけが通貨として認められている時代に、その貴金属が不足しているために経済停滞が生まれていると考えれば、紙切れを通貨として国民に強制するのは有効かもしれない。その結果、経済停滞を脱出させるのに成功すれば、称賛されていいはずである。
しかし、その紙切れを乱発して国民から貴金属を回収し、やがて紙切れが急数なインフレを生みだして国民の信頼を失ったときに、特権的な人間だけが貴金属を大量に保持しているならば、それは「詐欺」と見なされるべきだろう。
 

■ジョンロー

ジョン・ローは、国立銀行を設立して金貨や銀貨といった「正貨」の保有を超えた量の紙幣を発行すれば、フランスの財政破綻を回避できるということだった。国立銀行がこうした「言用創造」を行えば、政府の財政危機を救うだけでなく、同時にフランスの経済を活性化できるとも論じていた。

■ニュートン

「神よりも金に関心を持ってしまった」

『ニュートンは最初の合理主義者ではなく、最後の錬金術師』
ケインズ

ニュートンの鎮金術は道草や気分転換どころか、万有引力という概念を生み出すための基盤になった。それまでの機械論的な自然哲学は、空間にエーテルという物質が充満しており、それが降り出いで物体を下に押すのだと主張し、ニュートン自身もこの説をとっていた。
しかし、ではそのエーテルを動かしているものは何なのか。ニュートンはまさに錬金術を含めたオカルト・サイエンスに浸ることで「目に見えない(オカルトな)」ものを重視するようになり「重力」や「重心」を想定するようになった。
ニュートンの万有引力説を知ったドイツの哲学者ライプニッツは、「見えない力だって?そんなのオカルトじゃないか」と呆れたが、当時の若い知識人たちにとってオカルトは古臭い過去の遺物になりつつあった。

錬金術への没頭だけでも大学での孤立を深めるのに、ニュートンにはもうひとつ秘密があった。聖書の研究をするようになって、当時としては弾圧対象であったユニテリアンに転じた。つまり、父なる神、子なるキリスト、聖霊の三つを一体とする四世紀以来のキリスト教の前提である「三位一体」を否定し、神は「唯一(ユニティ)」でありキリストに神性はなく人間であるとするアリウス派の教説を信じるようになっていたのである。

ニュートンは銀貨が流出するのは、英国の金に対する銀の評価が国際市場に比べて低いからで、それを是正するには銀貨に対する金貨の相対価値を下げる必要があると考えた。
そうすれば、商人たちが価値の上がった銀貨を、貿易のために持ち出すことが有利だとは思わなくなると推論したのである。  

視野を広げてみればニュートンの時代のころまで、世界貿易の中心はアジアにあって、当時、世界の富の八割はアジアで生産されていたこともお考慮すべきだろう。そのアジア(中国、インド)では銀本位制だったのである。
しかも、ニュートンも指摘したように、ヨーロッパに比べ、アジアでは銀の評価が著しく高く、新大陸の銀がヨーロッパを経由して中国に流れる構図は続いていた。だからこそ、当時のヨーロッパは、銅貨や紙幣で通貨不足を補わざるをえなくなった。

「 自然界は予測できるが、人の心は予測できない 」

金貸し学生のころも貸出金の上限を決めていたように、ニュートンは南海会社株にすべてを入れ込むことはなく分散投資をしていたのである。

■ネイサン・ロスチャイルド
ロスチャイルド家はヨーロッパ列強やその他の国々に資金を提供するさいに、それぞれの国の通貨ではなく、イギリスの通貨であるスターリング(単位がポンド)建てで債券を発行させた。
もちろん、どの国もそんなことをすんなりと認めたわけではない。しかし、財政支出に苦しむ国家の財政担当者たちは、国家の権威よりも当面の国債発行のほうが重大だったから、そこにロスチャイルド家が付け入るすきがあった。いやがる国に対しては、その国の国債を大量に売却するそぶりをみせて嫌がらせをすることもあった。
この歴史的事実は、19世紀の世界において各国の国債発行をイギリスの通貨であるスターリングに連動させたということを意味した。スターリングはこうして世界の基軸通貨としての地位を獲得していった。
世界中のどこの都市でも、政府の発行した国債からの利子をスターリングで受け取ることができた。このネットワーク・システム導入こそ、ロスチャイルドが世界金融を発展させた最大の要因とされるものだが、同時に、大英帝国を後ろ盾として世界金融をロスチャイルドが仕切るという野望を現実化するための、ネイサン最後の仕上げといってよかった。
考えてみれば奇妙なことではないだろうか。それぞれの国の政府は自分たちの都合で国債を発行するのに、それが同時に大英帝国の繁栄を支え、ロスチャイルド家をさらに強化する金融システムに連結させられるのである。これこそロスチャイルド家が一世紀を超えて、世界金融市場において支配者となったメカニズムだったのである。

■チャールズ・ポンジ
バブルの時代には、人々がまったく合理的とは思えない行動に走ることが観察されてきた。バブル分析の古典である、チャールズ・キンドルバーガーの『熱狂、恐慌、崩壊金融恐慌の歴史』は、人間の「合理性が当てにならない三つのケース」として、次の三つをあげている。
第一が、一定額以上の所得を得ることに慣れてしまったため、所得が減少したときに費を減らすことができなくなるケース。このケースでは、仕事量を増やすのではなく逆に減らしてしまう一見奇妙な傾向や、違法な投機に人々が群がる傾向がみられる。さらに、危険でも収入の多い事業を選ぶ傾向が顕著になる。
第ニは、常に何かいいことがあるに違いないという希望にすがるようになるケース。いわゆる「射幸的」になるケースである。もうすでに望みがない事業であるのに無理に継続してしまう例や、自分たちの銀行が不正な取引を行っているのに経営陣がそれをやめさせないで放置してしまうといった怠惰に陥る例がある。
第三に、筋は通っているのだが、すでに現実に対応できなくなった方式に異様にこだわるケース。キンドルバーガーがあげている典型例は経済事例ではないが、第二次世界大戦前のフランスが陥った「マジノ線心理」である。フランス軍は「ヒトラーはマジノ線から攻めてくる」と思い込んで、他の地域の防衛を放棄してしまった。
キンドルバーガーはこの第三のケースはしばしば時間の経過による状況変化を忘れさってしまうことで生じると指摘し、「視点が一つのことに固定している人は物が見えなくなっているようなもの」というポンジの言葉を引いている。

■ジョン・M・ケインズ
「バイセクシャルであることと高度の想像力との、ありうべき関係を説明するのは何だろうか。それは、両性愛者(バイセクシャル)が、従来の異性愛者の社会におけるアウトサイダー"あるいはマージナルな存在であるがゆえに、常に正常”とは何かということを考えさせられ、二重性をもった感受性、感覚と想像力を研ぎすますという点にある」この「二重性をもった感受性」は、もちろん、モラルや既存の価値観に拘泥しない判断をすることと無縁ではない。従来の「正常」な考え方に、凝り固まることから逃れることが出来ると同時に、従来の思考法を相対的に見てしまうということでもある。

「彼はこだわるところがなかった。1931年、イギリスの金本位制離脱の折、サインズは熟慮の末自由貿易を捨てて、全力をあげて収入関税を公に提唱したが、間髪を入れずイムズ紙に手紙を送り、目下の急務は国際通貨制度の考案であって、国内保護の問題は後まわしにすべきだと論じたのである。こだわりがなかったと言うべきか、首尾一貫性をいたと言うべきか、ともかくケインズには『支離滅裂』と烙印が押されている」
「ケインズは、事件に即座にまた直接に反応する臨機応変主義者であって、彼の反応は、答えを出すこと、覚書を書くこと、そしてすぐに出版することであった」とすら述べている。

ケインズは確信(コンフィデンス)という言葉を使っているが、コンフィデンスが経済のみならず人間の社会の根幹であることはまちがいない。ずっと後に経済学者ケネス・アローが経済的インフラで最も高価なものは信頼(トラスト)であると論じたが、人間の確信にせよ制度に対する信頼にせよ、経済行為における不可久の要素といえる。
既存の通貨の制度を変更するという政策は、もともとはほとんど価値のない紙切れを通貨として通用させることであり、その紙切れへの信頼の醸成が失敗すれば惨憺たる結果を生みだす。
そもそも人間がモノとお金を交換するという行為は、単に個人がお金に対するフェティッシュな心性を持っているから可能だというわけではない。自分以外の多くの人間がお金に価値を見出しているという予想に、あえて信頼をおくことに基づいているのである。

■ロバート・シラー
「私はバブルを社会的疫病と考えている。それは、未来へのとほうもない期待を含んでいる。今日、人びとは近年の価格急上昇を見て、それがこれからも続くと思い込むという社会心理的な現象が生まれている。それこそが、私がいうところのバブルのエレメントなのだ」















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湯浅淳一
あなたの琴線に触れる文字を綴りたい。

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