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半自叙伝

20250107

私は、13のとき、昔の制度で、高等小学校の二年生のとき、友達から盗みをすることを教えられた。
その友達は、香川と云って、才ばしった少年であった。どんな機会に、どんな風に教えられたのか覚えていない。とにかく、香川は私に、商店の店頭にある品物を、盗むことを教えて呉れた。そしてそれをマイナスと云うのだと教えて呉れた。マイナスと云うのは、その頃、覚えた、算術の符号で、引くと云うことなのである。つまり、店頭に在る品物を引き取ると云う意味なのである。
私は、マイナスと云う言葉と、その仕事とをどんなに珍しがったか分らない。マイナスと云うことが、つまりあの家庭や学校で、蛇蝎のように卑しむ盗みと、同じであるなどは、私は考えつかなかったようである。
私は、早速そのマイナスをやった。

私は、ある晩、町の水神さんのお祭りに行って、露店の果物店で、桃をマイナスしようとした。私が、その仕事に掛かっていると、私の横にならんでいる私と、同じ年位の美しい少女が、私と同じようにモジモジしている。蛇の道はヘビで、私は直ぐ、その少女の挙動不審を感じた。私は、自分の仕事を忘れて、その少女を注視していた。すると、その少女の白いしなやかな腕が、一つの大きい挑を掴んだかと思うと、鼠が物を曳くように、徐々にそれを白い浴衣の上前の後へかくした。私は、それを見てどう感じたか、思い出せない。美しい少女の同類が居るのを知って、微笑を洩らしたか、それとも自分のする事を、人がして居るのを見て、あさましく思ったか、前のようであったように思うし、後のように感じたようにも思う。とにかく、何だか怖しくなって同じ店で桃を取らなかったことは記憶している。
私達のマイナス行は、一年近くもつづいた。

私達の非行が、学校へ知れたのは、私達があまり、マイナスをやらなくなっていたその年の秋の終りであった。私達の仲間は、師範の附属小学校へ通っていたが、何か別な事を調べられたとき、喋べらないでよいマイナス行を喋べったのである。

家へ帰ったとき、父は煙管で私を殴った。
「万引をしていたんじゃ此奴は、万引を。」
そう云って、父は口惜しそうに、母に報告した。私は、小さい時から、小説や講談が好きなので、講談などで、毒婦などがよくやる万引と云うことを知っていた。私は、自分のしていたことが、その下品な怖しい言葉で、説明されたので、ハッと思った。

売春を、援助交際・パパ活と言ったり
AV ( アダルトビデオ ) 女優を、セクシー女優と言ったり、言葉を誤魔化すことで、その犯罪性やネガティブさを低減させる試みは、いつの時代も変わらないようだ

半自叙伝としてはいるが、こんな内容の小説を書いたら、今の時代は大炎上で、社会復帰は不可能だろう

同じ罪であっても、時代によって、社会の捉え方は、異なる

常識など存在しない、それは、その時代のその社会を映す鏡でしかない

同性愛は、病気として考えられていて、治療されていた時代もあった
ADHDやASDといった現代の病気も、個性となる時代もやがて来るだろう

世界は同じこともあるし、違うこともある
それを隔てるのは、地域性を示す母国語という言葉、そして、時間軸の流れという時代である

そば屋へ行くと、もりかけ三銭と書いてあった。それが、もり三銭かけ三銭と云う意味だとは分らなかった。私はもりかけと云うものがあるものだと思った。私は可なり長い間「もりかけを下さい」と云って註文していた。こんな場合そば屋では大抵かけをくれたものだ。

ずっと、誰も、何も、教えてくれない感じが、地域性、東京だと感じる
当時であっても、大阪であれば、絶対、ツッコミが入るであろう

カツ・カレーと書いてあった
カツ・ ( カツ丼の略字、・ = 丼 ) とカレーライスなのに、カツカレーと言ったから、カツカレーが生まれてたら、おもしろい

洋服など云うものは、僕等は持っていなかった。体操のときにだけ、他の級の人から借りるのだった。体操など云うものも、ただ遊んでいるようなもので、かけ足を始めると、僕はいつも当然の権利のように列外に出てしまった。
下駄など云うものは、一高へ入って以来一足も買ったことがなかった。いつも、同室の誰かのを穿いて行くか、でなかったら近くの下駄箱に入っているのを、穿いて行った。
どうも、下駄を買った記憶などは、ちっともないのだが、履き物に不自由したことはなかった。

シェアリングエコノミーが当然であった時代、戦争に負け資本主義が台頭する前の時代、貧しくはあったかもしれないが、困ってはなかった

貧困ではなかった、貧乏ではあったが
貧困は、戦後の思想である
貧乏は、困るという思想だ
貧乏でも、みんなで助け合って、シェアすれば、困りはしなかったのだ












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湯浅淳一
あなたの琴線に触れる文字を綴りたい。

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