【本要約】行動デザインの教科書
2021/8/31
行動デザイン概要
「人はなかなか行動に移らない」という人間の行動特性からのマーケティングの新戦略である。
モノでマーケティングを考えているとすべてをモノの問題として捉えて答えを求めてしまう。しかし、それでは限界がある。なぜなら、現代の問題の多くは、モノの外にあるならだ。
売れない理由はモノの中にはない。
多すぎて選べない。
差がよくわからない。
間に合っている。
モノの外側の人にある。
だから「モノ」ではなく、人の「行動」で考える。「モノ」で思考すると出てこない答えが「行動」で考えると見えてくる。「人はなかなか行動に移らない」という特性で考えると答えが見えてくる。
現代の経済は、モノの消費が中心となって回っている。
モノ ( 商品 ) を売れないのは、モノが増え、モノ同士がかぶってしまい、競争が激化しているからだ。モノが普及すれば価格も下がり、コモディティ化するので差別化も難しくなる。モノの中に答えがなくなっていく。だから、モノの外側で、マーケティングを考える必要がある。
一方で、モノ側で考えるモノ発想と、ヒト側で考えるヒト思考が、ときどき、コンフリクト ( 葛藤 ) を、起こしてしまうことがある。マーケターのジレンマである。
モノとヒトの中間にある「行動」を考える。
ヒトは、持つ・運・しまう・使う・捨てるという行動を介して、モノとつながっている。
行動を変えることは難しい。むしろ、意識を変える方が簡単なこともある。
ブランドイメージは、行動に直結しない。モノとヒトの間で停滞している行動自体に注目する。行動をデザインするというアイデアが生まれる。このでのデザインは、計画・設計という意味である。
市場を行動で捉え直す
モノからコトへ
競合・ターゲット・シェアという市場概念をモノとしてではなく、行動で考える。
売り手がモノ発想で提案していれば、買い手もその中で選択する思考回路になってしまう。
【モノからコトへの転換の難しさ】
・モノには統計や時系列データという論理が存在する
・コトにはデータが存在しない
= 論理が存在しない
= 仮説でしかない
「ターゲットは何のためにどんな行動をしたいのか」という行動視点によって、モノからコトへと切り替えることができる。モノから行動へと発想を転換することが、大きなチャンスとなる。
ビジネスで大きく成功する秘訣はたった1つしかない。それは、誰もやっていないことをやることだ。
行動量
「行動で市場を括り直す」という新しい市場概念である。
行動がモノとモノをつなげている。行動の括りに決まりはない ( データも存在しない )
消費者の一つの行動を俯瞰したときに、「そこで選択される可能性のある商品群は、どんなモノがあるか?」を考えてみる。
その商品群は、「コーヒー」か「紅茶」かという代替関係や、「紅茶」と「クッキー」のように補完関係がある。
行動で考えると、市場とは、同じ目的・同じ時間帯や気分の中で選ばれる可能性のある選択肢の集合体である。
子育て行動が作り出す子育て市場
朝食行動が作り出す朝食市場
市場とは消費者の行動の総和である。
行動量が増えている市場が狙い目となる。
行動量
= 1人あたりのその行動へのリソース投入量 ( 金額・頻度 )
総行動量
= 行動量 × 参加人数
総行動量が市場規模を決める。
少子高齢化で参加人数の増加が見込めない場合は、1人あたりのその行動へのリソース投入量を増加させる。
行動を量 ( 貴重で有限な時間・お金・体力の投入量 ) で捉えて、行動量の比率 ( 行動シェア ) でマーケティング環境分析を行う。
モノではなく行動で市場を捉えようとすると「競合」という概念も捉え方を更新する必要がある。
1人1人の消費者の手持ちのリソース ( 時間・お金・体力 ) は有限で、消費自体も有限である。
マーケティングとは、消費者のリソースを取り合う活動である。
ブランドへの好意と行動は別物である、意識は当てにならないから行動で捉える。
行動量を起点にしたマーケティングは「行動デザイン」の一つのゴールイメージである。すべてのビジネスの基盤は、消費者一人一人の行動 ( 購買・使用 ) で形成されている。
感覚で行動を捉え直す
行動を阻害している人の感覚 ( 無意識下のリスクやコストに関する感覚 ) を理解し、制御する。
自分ごと化
そもそも人は動かない。
今とっている行動を変えたくない。
新しい行動をはじめることは、大きなエネルギーを必要とするからだ。
「ついでに」という誘いかけに効果があるのは、新しい行為をはじめるよりも、既存の行為の途中に入り込む方が容易 ( エネルギー消費量が低い ) だからだ。
今、既にはじまっている行動を止めるのも難しい。
止めるのも一種の行動変化だからだ。
意識が行動に先行する = 行動は意識に従属する。
実験によって、好きであることと行動することが相関していないことが証明された。行動を中止してしまった人の約6割が、その対象を「今でも好きだ」と言っている。意識と行動には強い因果関係があると思うが、意識の内容 ( 好き ) によっては行動が伴わない。
一方で、行動が意識に先行することもある。
もともと、日本人は心と体が一体不可分とする文化がある。禅や瞑想によって、体をコントロールすることで、心に影響を与えられる。
行動デザインでは、行動が本来持っている、人の意識に大きな影響を与える力を利用する。
意識と行動を一体のものとして変えていく方法である。
正しいことを言うだけでは人は動かない。その情報が自分には関係ない他人ごとであるからだ。
つまり、自分ごと化させることで人は動くはずだ。
自分ごと化すれば本当に人は動くのか?
どうやって自分ごと化させるのか?
自分ごとと思っていない時に自発的に行動する人はいない。だからといって、意識の中で自分ごと化さえすれば、必ず行動するとは限らない。
一度、行動してしまえば、その行為は、結果として次第に自分ごと化されていく。
自分ごと化というのは、「結果としてそうなった状態を指す概念」であって、人を動かすための方法論ではない可能性がある。
自分ごと化は意識上の変化誘導である。行動を変化させるためには、また別の方法を試行する。
人類は、脳のエネルギーを節約することで、進化してきた歴史がある。だから、エネルギーコストには非常に敏感で、余計なこと、無駄なことをしないように脳がプログラムされている。
価格
決まっている行動、したい行動に関しては価格が意思決定に大きな影響を与える。だからといって、価格を下げても、したくない行動が、したい行動に変わるわけではない。
価格が影響するのは、最終的な選択局面の意思決定であって、価格に行動を誘発するほどの力はない。
「健康になりたい」「痩せたい」といった気持ちがありながらも、スポーツジムに入会しないのはなぜか?
価格の問題ではない。
ジムへ行く習慣化へのハードル
会費を払って1回も行けない月がある可能性
入会してすぐ辞めたとき、継続できない自分への自己嫌悪
他人に太った自分をさらす羞恥心
価格以外のコスト
コストはお金だけじゃない。金銭的コストだけでは、人が行動しなくなってきている。
・頭脳的コスト
→デジタル技術の進展で生まれた情報コストが代表例である。
情報コストは、情報を検索・収集、分析・評価、記憶し処理するためのコストである。
・精神的コストは、他人に気を使うことや、1人で思い悩むなどの心配や不安といった心に関するコストである。
情報コストは、ネット上の情報量が増え過ぎていて、さらに無料であるため、必要以上にたくさん集めてしまい、知らぬ間に多大なエネルギーコストを払っている。
例えば、100円の差額の商品をいろんなサイトで、比較検討するとき、その時間が、10分以上なら、時給600円以下のコストを払っていることになる。
そして、どちらの商品がいいかと、思い悩むことは、精神的コストを払うことになる。
簡便法
そんな様々なことを思考すると脳が疲れてしまうので、それらのコストを削減するために、脳は簡便法を使う。
簡便法
経験的に「大体正しい」で判断を下す。
行列の店は美味しいはず
→ 社会的証明
有名な医者が唱える健康法は効くはず
→ 権威
レアなモノは高価であろう
→ 希少性
手がかりを元に無意識下で判断する。
また、あまり関心のない対象にも、簡便法が用いられる。
逆に、「自分に危険が差し迫っている」と感じるときは、脳をフル回転して状況を正確に分析し、不利な判断をしない。
感情
人間は感情の生き物だから、感情で行動する。
損失回避性によって「損したくない」と強い感情が生まれたときに、行動することがある。
行動発生のメカニズムは、怒り・喜び・恐怖・悲しみといった強い感情と直結している。
社会の中で育まれた羞恥心・自尊心・罪悪感は、社会的感情であり、これも強い感情である。
フレーム化
行動をフレーム化することで、抵抗感がなく新しい行動ができる。
人間があるモノゴトを把握し、記憶するためには、脳が覚えやすい枠組み=フレームが必要であるという認知理論がある。
例えば、時間は、年・月・日、あるいは朝・昼・晩といったフレームによって、私たちは認識している。
【フレームを行動に落とし込んだ商品】
午後の紅茶
朝専用コーヒーWANDA
ゴールを行動で捉え直す
マーケティングのゴールを「行動成果 ( 行動変化 ) 」と設定して、そこから逆算してゴール実現のための「行動デザイン」を設計する方法である。
従来型のマーケティングプロセスを転換させる。消費者の行動を誘発する仕掛け作りである。
意識で、行動を喚起するのは、難しい。だから、意識に頼ることない環境を準備する。「実際に行動しやすい環境」「実際に行動したくなる環境」を整備して、まず行動を誘発させる。
行動は客観的に目に見える ( 計量できる )
意識は目で見えない
氷山の一角がいい例である。水面上に見えているのが行動で、水面下が意識である。意識のほとんどは、自覚できていない無意識である。
疲れた・失敗した・嬉しかった・不安といった様々な感情があるレベルまで高まった瞬間に、行動のスイッチが入り、行動を起こす。
例えば、電車の待ち時間に、スマホを見る。
「気付いたら、ある行動をとっていた」ということきには、実は無意識下で、行動スイッチが入っていたからだ。
例えば、「暑くて涼みたいのにカフェが見つからない」行動スイッチが入っているのに、その行動ができない。その未充足な状況こそが、新しい行動を喚起する行動チャンスである。
カフェに行けなかった分、仕事終わりに、ハーゲンダッツのアイスを買って帰る。
行動デザインのツボ
【行動アクセルを加速する】
急かされると人は動く
限定される
挑発する
対決させると
対比があると
選択させると
食べ物にすると
帰属意識で
サイズを変えると
【行動ブレーキを緩和する】
お膳立てされると
口実があると
名前を付けると
お墨付きがあると
ファッションで
本気が伝わると
現場が来てくれると
体が動くと
子ども心で
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