『夢十夜 第一夜』を読む。考察、感想①

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 純文学の感想芸で食べて生きたいシリーズ。今回は夢十夜 第一夜。
出典はすべて夏目漱石 夢十夜 (aozora.gr.jp)さんから。

以下、引用から始めます。


こんな夢を見た。


 この書き出しがまずエモいですよね。夢十夜は全部で10の短編集なんだけど、他の短編にも同様の書き出しが使われていることが多い。共通のテーマで短編を編む、っていうのは皆大好きなものだと思うけど、その共通性を示す書き出しをこれだけ簡潔に描き出したの、やはり夏目漱石は文豪と言わざるを得ない。この書き出しだけでご飯10杯はいける。


 特徴的な始まり、いいですよね。「メロスは激怒した」「山椒魚は悲しんだ」「春が2階から落ちてきた」。そもそも前二つを並べて記載したのも伊坂幸太郎だった気がする。(作品名出てこなかったけど)

腕組をして枕元に坐っていると、仰向きに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。


 自分が腕枕をして枕元に座っている。仰向きに寝ている女性がいる。どういう関係性なんでしょうね。静かな声で言っているあたり、相当弱っている気がする。

女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな瓜実うりざね顔がおをその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇くちびるの色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然はっきり云った。自分も確たしかにこれは死ぬなと思った。


 瓜実顔ってなんだっけ…。調べてみると面長で色白っぽい顔みたいですね。瓜の種みたいな顔のことなんだとか。てっきり瓜の実のような顔なんだと思ってました。どちらにせよ、”美人”らしい。色白面長美人。それが瓜実顔。


 『真白な頬』って言ってくれてますねここで。頬と唇の色の対比。さっき相当弱ってる気がするって言ったけど、そんなことなかった。とうてい死にそうには見えなくて、でも、静かな声で、はっきりと、女性は「死ぬ」って言ってるんだ。

 
 自分には全然相手が死ぬように見えなくても、本人は死ぬって言ってる。本人しかわからない何かがきっとある。その勢いに押されて、語り手もああ、死ぬんだなと思ってしまう。


 少し脇道にそれますが、Twitterで、命に係わる闘病されている方のツイートとか、たまに流れてきますね。本当に、亡くなるぎりぎりまで、意識もあって、ツイートもできている。でも、突然亡くなっている方が結構いて。命というのは細々と消えていくものもあれば、輝きながら突然消えるものもあるんでしょうね。

そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開あけた。大きな潤いのある眼で、長い睫(まつげ)に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸(ひとみ)の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。


 死ぬって言われて、自分も死ぬと思っていたけど、もう一回聞く。語り手全然受け入れられてないですねこれ。で、女性も死ぬよって言って目を開く。逆に言えばこれまで閉じてたんですね。


 真っ黒な瞳。黒、白、赤、と情景に3色が強調されてきましたね。


 瞳の中に自分が映る。相手を見ているはずなのに、目に入るのは自分。これから彼女が死ぬとして、二人が一人になることを示しているようで悲しいですね。

自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢(つや)を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍(そば)へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。


 語り手、ぜんっっっっぜん受け入れられてないねこれ。いやでもどういう関係性かわからないけど、死に際に二人きりでいるような関係性の女性が、死にそうにない見た目で、でも死ぬって言ってて、死ぬようにも見えてきて…。受け入れたくないよなあ。死んでほしくないよなあ。寂しいよなあ。


 女性のほうは半分悟っているというか。去る側っていつもそうですよね。どこか悟っているというか。あなたがどれだけじたばたしても、これが現実なんだからしょうがないじゃないというか。少しなだめるように言ってくれてますね。眠そうな目で言ってるのもなんか言い。しかたないでしょ、という感じで、語り手との温度差ですね。

じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。


 ま、、、、、ママーーーーーー!!!!!


 母性ですね。駄々をこねる語り手に対して、笑いかけて、現実を伝える。とても母性。とても優しい、そして、この女性がなくなってしまうことが、とても悲しい。


 長くなってきたので今回はここまでにしようと思います。多分2回か3回で終わります。


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