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読書録133 神立尚紀著「決定版 零戦最後の証言1〜3」

読み終えてしまったなぁ…というのが1番最初に来る感想だ。

文字に書かれている部分も素晴らしいのだけれど、戦後世代である著者が、取材を通じて知遇を得た元搭乗員の方々と交流し続けてきた約30年の月日と信頼関係の重みが作る独特の世界観は、類似の他作品には作り得ないリアルがある。

「特攻の真意」あたりから読み始めて、「祖父たちの零戦」旧版の「零戦最後の証言」「零戦隊長宮野善治郎の生涯」と読み進めていくうちに、角田和男さんをはじめとする元搭乗員の方々の人柄がとても魅力的で、文字の上とはいえ、お会いするのが楽しみで、それも一区切りというのは少し寂しい。

個人的には、「零戦戦記」的な部分もさることながら、元搭乗員の方々の過ごした「戦後」や、個々の人柄が強く出ているところがとても好きで、特に教育の世界に長く携わられた土方敏夫さんの技術解説は、職人肌の方が多く伝わりづらい内容を、非常にわかりやすく「授業」して下さっていて、他の方の技術論の解像度も上がるから素晴らしいのである。

かれこれ10年くらい前に亡くなった母方の伯父は予科練出身で、母によれば近所で「予科練さん」と呼ばれたりしていたそうなのだが、予科練時代の話をどう聞き出そうとしても「自分は小柄ですばしこかったから、バッターで尻を叩かれる時にハンモックの陰に隠れてやり過ごした。」という「鉄板ネタ」しか話してくれなかった。

年齢的に、卒業に至らなかったのでは?と思うが、やっぱり色々と語りたくない過去があったのではないかと思う。

そういう事から考えても、著者が多くの元搭乗員の方々からさまざまなエピソードを聞き出した事は奇跡的だと思うし、文章に描かれていない長く深い交流を通じての信頼の厚さと重さこそが、この素晴らしい作品群を生み出しているんだなぁ…と胸が熱くなった。

今後も、遺されたエピソードや今も集まり続けているという資料を元に更なる作品が生まれ出る事を楽しみにしたい。

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