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初見健一さん「昭和オカルトキッズ」だった僕が、再び瞑想してみた
懐かしい昭和のカルチャーをご専門とする、ライターの初見健一さん。高校生のころ、ご自分の意思で超越瞑想(TM)を学ばれましたが、2週間ほどで実習をやめてしまいました。そして約30年後、大人になって再びTMをはじめられた初見さんにお話をうかがいました。
昭和オカルトキッズ、瞑想を学ぶ
──80年代当時の瞑想ブームやご自身のTMの体験について書かれた『ムー昭和オカルト回顧録』の記事をとても楽しく読ませていただきました。TMを最初に知ったのはどのようなきっかけだったのですか。
初見さん:たぶんビートルズ関連の文献で知ったんだと思います。あと、ウッドストックの頃のユースカルチャーの本にもTMのことがいっぱい出てきて、興味を持っていました。それで高校生の頃に本屋さんで『超瞑想法TMの奇跡―心と身体を解き放つ現代科学』 (船井幸雄・加藤修一監修/PHP研究所)を見つけて、飛びついて買いました。
──実際にTMをしてみたいと思われたのはどんな理由だったのでしょうか。
初見さん:具体的にヴィジョンがあったわけではないんですけど、その時はオカルト的な関心が大きかったですね。今、知覚できないものが知覚できるようになるとか、そういうことを考えていたんだと思います。「知覚の扉が開く」みたいな。
当時、友達とバンドを組み、吉祥寺のライブハウスでドアーズのコピーなどをしていたボンクラなロック少年だった僕らは、もちろん「古い瞑想」に憧れる方向から「TM」に飛びついた。ラヴ&ピースの時代にドラッグにまみれて早逝した多くのミュージシャンのように、僕らも「TM」をやれば「世界の向こう側」が見えるかも知れない……。そうしたボンクラなガキ特有の「ロマン」を抱いていたのだ。
──まさにサイケデリック・ロックを通してのご興味だったのですね。
初見さん:それしか考えてなかったですね。それで、本の中に「学びたい人は説明会に来てください」と書いてあったので、メンバー3人で行こうということになったんです。でもだんだん「やっぱり怖いから行かない」とか言って一人抜け、二人抜け、結局僕一人で行くことになったんです。どういうところかわからないし、「カルト宗教なんじゃないか」とか「勧誘されるんじゃないか」とかそういうのがあったみたいで、腰が引けたんでしょうね。でも僕としてはTMがどういうものか知りたかったので一人で行ったんです。
──初見さんは怖い気持ちはなかったんですか。
初見さん:ちょっとありましたけど。好奇心の方が強かったですね。でも説明会に行ったら全然思ってたような怪しさがなくて、逆になさすぎてちょっと期待はずれというか。ビジネスマン向けの実用的なセミナーみたいな雰囲気でした。子連れのお父さんが来てたりするほのぼのした雰囲気の中で、「TMしたら自然にタバコがやめられる」とか「肩こりが治る」という説明を聞きました。
──オカルトとロックが好きな高校生としてはガッカリですね。
初見さん:高校生だから「健康になりたい」とか、「ストレスを減らしたい」とかも思わないですし、オカルティックというか、非現実的な体験というか、そういうのを期待していました。
──実際にTMの指導を受けていかがでしたか。
初見さん:あんまり印象がないんですけど、気持ち良さとかは感じなかったと思います。たぶんその時はやり方がよくわからなかったんだと思います。それで、当時は全然続けられなくて、どうして良いかわからない状態のままほったらかしにしてしまいました。
で、僕はどうだったのか?……という話になるのだが、どうやら僕はまったく「瞑想」に向いてない人間だったようだ。結局、僕の「TM」は2週間ほどしか続かなかった。20分の間、ゆったりと自然体を保ち、「精神をなすがままにまかせよ」ということがどうしてもできなかったのだ。
39年ぶりに「正しい瞑想」を確認
──その後30年以上経って、あらためてTMにご興味を持たれたのはどんな理由だったのですか。
初見さん:「webムー」にオカルトの記事を書くようになって、近代神秘主義などに関する文献を読んでいると、瞑想について書かれていることが多くて、それで興味が戻って来たんですね。あと、デヴィッド・リンチなどの映画監督がTMをしていると知ったことも大きかったですね。特にクリント・イーストウッド。全くスピリチュアルな感じがしないのにずっとTMをしていたと知りびっくりしました。それで4年前に「webムー」でTMの記事を書いてから、実習を再開したんです。
──今回もオカルトがきっかけだったのですね。実習を再開されていかがですか。
初見さん:それが、不思議なんですけど、大人になってTMをしてみたら気持ちが良かったんです。高校生の時はTM中にイライラして「全然時間が経ってない!」とか思ってたんですけど、再開してからは20分があっという間に感じられて、終わった後もよく眠ったときのようなスッキリ感があります。疲れが取れている感じがして、それで自然に習慣化していったんです。何でそうなったのかはよくわからないんですけど…。
──それは何よりです。高校生のときは実習が快適でなかったとのことですが、もしかすると知らない間に努力をしたり、何か無理をしてしまっていたのかもしれないですね。ひと月ほど前に「チェッキング」(TMが正しくできているかを確認するミーティング)を受けていただきましたが、いかがでしたか。
初見さん:すごく安心しました。それまでは何十年も前に学んだのを思い出して実習していたので「これでいいのかな」「正しくできているのかな」とずっと思っていました。「気持ちが良い」とか「終わってからスッキリした」と思っているのも気のせいかもしれない、と半信半疑になっていたんです。チェッキングでは普段より楽にTMができましたし、正しくTMができているかどうかを自分で確認するポイントも教えていただいて安心できました。
ネガティブな考えにとらわれなくなった
──チェッキングの後は1日2回20分ずつの実習の規則性を確立されていらっしゃいますね。
初見さん:チェッキングを受けるまでは1日1回20分のペースで実習していました。でも、それだと正規の1日2回20分ずつの実習と比較した場合、効果が下がってもったいないとうかがって。朝のTMの前は「今日やることが今日中に終わるかな」とか考えていることが多いんですけど、TMをした後は気持ちが落ち着いているのを実感しています。
──それは良いですね。他には何か効果を感じられることはありますか。
初見さん:TMの効果かはわからないですけど、最近、自分がネガティブになっているときに、そのことに気がつけるようになりました。客観視というか、自分の心の状態を冷静に見られるという感じかな。イライラしている時とかに、前だったらイライラに完全にとらわれてしまったようなところを、ちょっと引いていられるようになりました。「あ、自分はイライラしているな」というふうに、観察している自分がいるみたいな。
──心の落ち着きが増したということですね。とても代表的なTMの効果ですね。
初見さん:あまり自分では検証していなかったんですけど、感情的にならなくなった分、人との関係も良いのかもしれないですね。あと、何かしているときに、すぐに嫌になっちゃったり、イラッとして投げ出してしまうところがあったんですけど、そういうのは少なくなったかもしれないです。
──お仕事の面でお気づきになられたことはありますか。
初見さん:仕事にももしかしたら影響があるかもしれないですね。前は何も浮かばなくて、書けなくてイラつく、みたいなことがあったんですけど、そう言われてみると今はそういうのはないですね。「書けない!」みたいなのはないです。
「TMでクリエイティブになる」とは?
──すばらしいです。今後、TMに期待することはありますか。
初見さん:今、何となく感じている「変なふうに感情的にならない落ち着き」みたいなものはもっと得られればいいと思います。TMでクリエイティブになれるとか、集中力が高まるというのはまだそんなに実感できていないので、それが実感できると良いな、とは思いますね。
──「クリエイティビティ」や「集中力」については、先ほどの、書くことがスムーズになったというお話があてはまるのではないでしょうか。TM中にストレスが解消されて、それまで以上にご自分の能力を発揮できている状態ですね。
初見さん:「TMでクリエイティブになる」というのは、日常生活に効果が出てくる、ということなんですね。いろいろな形のストレスに知覚が阻害されていて、TMをするとそれが取り除かれていくという…。僕は「TM中に何か降りてくる」とか「ヴィジョンが見える」みたいなことに興味を持っていましたけど、今日からTM観が少し変わるような気がします。
初見健一(はつみ・けんいち)
昭和レトロ系ライター。1967年、東京生まれ。主に1960~70年代のお菓子やおもちゃ、キッズカルチャーについての話題をテーマに取材、執筆活動を行う。東京新聞・中日新聞サンデー版に「初見健一のこれなんだっけ?」、「webムー」に「昭和こどもオカルト回顧録」などを連載中。主な著書に文庫「まだある。」シリーズのほか、「まだある。こども歳時記」「ぼくらの昭和オカルト大百科」「昭和こども図書館」「昭和こどもゴールデン映画劇場」(以上、大空出版)、「昭和ちびっこ未来画報」「昭和ちびっこ怪奇画報」(以上、青幻舎)など。