短編小説/君のおっぱいが見たい・推し活編①
大事件だ。
国崎護はスマホを握ったまま飛び起きた。
推しアイドル「蝶人ハルコ」のオフィシャルのXにとんでもない情報が
乗っていたからだ。
『明日発売する蝶人ハルコのライブDVD に付いている
応募シールを3000枚集めた方の中から抽選で
蝶人ハルコのおっぱい生で見せます』
うえー!なんだよこれえ?まじかよおおおお!
国崎は朝から絶叫した。
八年前からの国崎の推し「蝶人ハルコ」はソロで活動する地下アイドル。
一昨年までは「ガールフレンド☆エトセトラ」という名前の
6人組のグループに所属していた。
「少年マンガに出てくるヒロイン」をコンセプトにしたグループで
国崎の推しの「蝶人ハルコ」は女王様気質のバトル系キャラだった。
「さあかかってきなヘナチョコども。あたしに付いてこれんのかあ?
世界征服朝飯前。必殺技はー〈バタフライボム!〉←ファンがコール
今日も鱗粉撒き散らします♡蝶人ハルコで~す」
毎度おなじみのハルコの自己紹介。衣装はミニのワンピの色違い。
戦うキャラなのでイメージカラーは赤。ひとりだけ皮手袋をしている。
ヒーローっぽいからだが、ハルコは握手会の時もその手袋を外さない。
「いや、外せよ」と内心思うが、ハルコはなんだかんだと絶対取らない。
「地球の重力が軽くて、これ取ると空に浮かんじゃうから」
にっこりしてごまかす。ハルコはアイドルのくせに強情で
ファンサービスが嫌いだった。
そのせいか顔は可愛いのにグループでは一番人気がなかった。
なのに数少ないファンですら大事にしない。
そのはすっぱな感じが国崎は好きだった。
固定ファンは40人前後。地下アイドルなら珍しくない集客数だ。
ライブではその40人がフロアで踊り狂う。
「ガールフレンド☆エトセトラ」の持ち歌は6年やってて15曲だけ。
運営がずさんなせいで楽曲提供者への支払いが滞り
誰も作ってくれなくなってしまったからだ。
しかしファンは聞きあきた曲でも彼女らのためにオタ芸で盛り上げた。
国崎はその中でも自他共に認めるトップオタ。
もう音楽はダウンロードで聴く時代になっても
アイドル業界はCDを売り続ける。
一枚買うごとに推しとツーショットでチェキが撮れるからだ。
それは彼女らにとっても大事な収入源で、
ファンにとっては大好きな推しと話ができるチャンス。
そこでどのくらい貢げるかをファン同士で競いあっていて
国崎はライブごとに最低でも20枚は買う。
おそらく同じCDを200枚以上は持っており
その数は他を圧倒していたからだ。
『国さんX見ました?』
同じハルコファンの仲間から続々LINEが来た。
『見た。ハルコの名前こんなにバズってんのウケる』
『アイドルとして禁じ手でしょ。ハルコも終わったな』
暴挙とも言えるハルコのキャンペーンにみな呆れていた。
ネットの反応も大半が批判だった。
『やる方も買う客も気持ち悪い』
『アイドルとして最低』
『ほとんど脅迫商法』
ハルコを知らない奴ほど騒ぎ立てる。
気持ち悪いと先に言ってマウントを取りたがるくそどもが。
そう思う一方でわざわざ炎上案件を投下するハルコが痛快だったりする。
とは言うものの国崎も内心ではガッカリしていた。
ハルコこんなことすんなよ。アイドル全うしてくれよ。
裸が見たくて応援してるんじゃない。
ハルコがステージの上で楽しそうならおれたちはそれでいいんだ。
しかしハルコの現状を思えば戦略として仕方ないのかもとも思えた。