ジャック・ロンドン短編集『火を熾す』『犬物語』を読みました
アメリカ作家の短編を集めた本の中にあったジャック・ロンドンの『火を熾す』を読んだんですが、それが面白くて感動して他ににも読んでみたいと思い購入しました。
『火を熾す』
火を熾す・メキシコ人・水の子・生の掟・影と閃光・戦争・1枚のステーキ・世界が若かったとき・生への執着の9編、柴田元幸の選・訳です
『犬物語』
ブラウンウルフ・バタール・あのスポット・野生の呼び声・火を熾す(1902年版)の5篇、こちらも柴田元幸の選・訳です。基本犬が主人公。
ジャック・ロンドンは1つの事象をみて10個の記述を行う、ものすごく想像力がすごい方という印象です。作家なので当たり前なのですが、その掘り下げ方も冷静に冷酷な方法なのです。敗者は敗者のまま、万が一の逆転もありません。そこらへんがリアルで面白いと感じるところかもしれません。
たとえば『1枚のステーキ』です。ボクシングの試合を実況中継がメインの短編なのですが、試合だけみれば噛ませ犬の老ボクサーが順当に負けます。ジャック・ロンドンは老ボクサーの作戦を逐一説明し一方的な試合にはしません。でも結局負けるのです。映画ロッキーのようにはいきません、ジャック・ロンドンの運命や自然の流れには勝てないよという考えが見えてきます。
あと『あのスポット』のような楽しい短編もあります。妙にかしこいスポットという犬、ハスキー犬でもマラミュートでもハドソンベイでもないどの犬ともちがう雑種犬が主人公です。どのくらいかしこいかというと、まじめに橇をひっぱり鞭で叩かれるより仕事をしないで怒られる方が得だということがわかっているんです。ちょっと尊敬すらします。でスポットを飼っていられなくなったアメリカ人2人が売却したり捨てたりしても何をしても戻ってきてしまうという喜劇です。結局2人はスポットを押し付け合い仲違いをしてしまいます。これも勝負のあらかじめ決まっていた試合と言えるでしょう。
2冊の短編集にはどちらも火を熾すが入っています。言われれば同じ短編なのですが、結末も登場人物も違うまったく違う小説として読めます。『犬物語』のほうの火を熾すには犬が出てこないという、おもわずコケてしまうことに(いい意味で)なる良き短編集です。
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