世界一の日本酒ができるまで

柴 茜。本物をつくることで世界を変えたいー。日本の美学と物づくりの究極を追求した一対の酒『飛騰 ASCENDING』『燈火 ILLUMINATING』クリエイティブディレクター・アートディレクター。編集者。

世界一の日本酒ができるまで

柴 茜。本物をつくることで世界を変えたいー。日本の美学と物づくりの究極を追求した一対の酒『飛騰 ASCENDING』『燈火 ILLUMINATING』クリエイティブディレクター・アートディレクター。編集者。

最近の記事

米農家戸邊秀治さんへの交渉

2021年8月9日 19時半過ぎに、緊張しながら戸邊秀治さんへ電話をかけた。 数回のコール。 「はい、戸邊です」 初めて聴く戸邊さんの声だ。 直感的に、外面やよそゆきの声を持たない人だな、という気がした。 「突然のお電話で申し訳ありません、柴と申します。誠さんからお話ししていただいたかと思うんですが、世界一希少なお酒をつくりたいと考えていまして、戸邊さんのお米をぜひ使わせていただきたくて、お願いのお電話を致しました」と目的を伝えてから、私が自分のこだわりや想いについ

    • 譲れないこだわり

      2021年8月8日22時ー。 米農家戸邊秀治さんのご長男である将棋棋士戸辺誠さんとのお電話を、その日時で指定された時、末広がりの数字でいい日だな、と思った。 当日は、10年以上ぶりだったこととお願いをする立場でもあることから、少し緊張しながら約束の時刻を待った。 私から電話をかけ、お互いに「ご無沙汰しています。お久しぶりです!」というところから話が始まった。 久しぶりに聞く誠さんの声は明るく力強く、丁寧でしっかりとしていて、なんだか心が温かく元気になっていく気がした。

      • 将棋棋士戸辺誠七段とのご縁

        15年ほど前、テレビを観ていたら「日本一高額の米はどこが違うのか?!」と、新潟県の戸邊米なるものが紹介されていた。 その時は、何か別の作業をしながら映像を観ていたこともあり、内容をしっかりと把握できなかったのだけれど、それからしばらくたってから「戸邊米って、戸辺誠さんのお父さんが作ってるんだよ!」と友人から聞いて驚いたのを覚えている。 私自身は全く将棋を指さないしルールもロクに知らないので恐縮ながら、それ以前から佐藤天彦九段(現在)や島井咲緒里女流など将棋棋士の親しい友人

        • 「これ、面白いです」

          ※パソコン故障のため、時系列で入れたかった小野酒造店小野社長さんとの出会いについての原稿が取り出せていません。 その原稿には一番率直な思いが書かれていたため、書き直しではなく、あとから編集機能でこちらに入れ込むために、空けてあります。 ご了承ください。

          葛飾北斎の浮世絵

          この日本酒企画が動き出した2021年初夏、私は日本の画家の中で、いや世界中の全ての画家の中で、葛飾北斎が一番好きだった。 (今は、飛騰燈火のパッケージの龍と鳳凰を描いてくださった、浮世絵師・旬(しゅん)さんが一番) 恐らく10年以上前、江戸東京博物館で開催された肉筆浮世絵展に行った時に初めて葛飾北斎の絵を見て、「絵が生きている」と思った。 それまで教科書や画集でしか目にしたことのなかった浮世絵のイメージは、西洋の絵画に比べてのっぺりしている、リアルじゃない、美人図とかどこ

          夜明け前

          私が考えついたこの酒をつくることを、小野酒造店さんが引き受けてくださらなかったら、飛騰燈火はいま、この世界に存在していない。 原材料からパッケージに至るまで何一つ妥協せず、全てにこだわり、どこをとっても「それがこの酒の根幹だ」と言えるくらいまでやり切って生まれてきた飛騰燈火。 けれどこの企画は、やはりまずはじめに、小野酒造店の小野社長さんがいなければ、どうやっても実現できなかった。 そのことに、心から感謝している。 時系列で記録を残しておきたいこともあり、早くその出会い

          Bonus Clips ~戸邊家宿泊~

          クルーが撤収作業にあたっている間、私が持参した浮世絵を自分の車に積むのを、戸邊さんも手伝ってくれた。 当初の予定では夕方早めに収録を終えて長野に帰るつもりだったけれど、すでに時刻は20時を回っていた。 「今日、どうするの?もしあれだったら、うちに泊まっていったら?」と戸邊さん。 戸邊さんのお宅にはこれまで4回訪ねているけれど、一度も泊まらせていただいたことはなかった。 「うちに泊まればいいのに」「いつでも泊まりに来ていいよ!」と過去にも言っていただいたことがあったけれど、タ

          Bonus Clips ~戸邊家宿泊~

          世界がやってきた!Ⅲ

          開始時刻の遅れに加え、元々のスケジュールに無理があったこともあり、撮影は押しに押して、同じ十日町市内の松之山温泉での私のインタビューと浮世絵原画撮影は、予定より2時間以上遅れて夕方5時近くに始まった。 松之山温泉の観光案内所にある、湯治BAR。 飛騰燈火が高額であることや、お酒の瓶やパッケージを際立たせたかったこともあり、私はトイレで、トレーナーから、黒のワンピースに着替えた。今更無駄な抵抗という気がしたけれど、化粧も軽く直す。 通訳のメイちゃんが、私の服の下を通してコード

          世界がやってきた!Ⅲ

          世界がやってきた!Ⅱ

          一足先に到着したクルーたちは、戸邊さんの家の周りを歩き回り、スマホで風景写真を撮影したりしながら思い思いに過ごしていた。 それから20分ほどしてからだろうか、残りのクルーを乗せたロケバスが到着した。 撮影コーディネーターの大友さんが、「申し訳ありません!!」と大慌てで出てくる。 運転していた日本人スタッフの男性が1名、外国人は女性1名と男性4名。 「みんな背が高い、、わぁ、、なんか綺麗、、かっこいいなー」、とドキドキした。 コロナの影響から海外旅行者も目にしなくなり、田舎

          世界がやってきた!Ⅱ

          世界がやってきた!

          「世界一希少なこだわりの日本酒で、世界一になる!」と決め、口にし続けていた2022年8月22日のこと。 飛騰燈火のプレスリリースに掲載していた私のメールアドレスに、1本のメールが入った。 日本で撮影コーディネーターをしているという男性からで、イギリスの番組制作会社がリサーチをする中で、飛騰燈火の日本酒NFTを取材したいと考えているという内容のものだった。 本物には必ず本物だけに拓かれる道があり、世界のほうが必ず気づくはずだ、と信じていた私にとって、とても嬉しい連絡だった

          日本で一番希少な、米と水

          一切の妥協なく、ブレない価値観と哲学をもって生きる人。 “農業へのこだわり”という枠を超えて、ここまで極まっている大人を、私はほかに知らない。 後にお会いすることになる米農家・戸邊秀治(とべひではる)さん。 10数年前に日本一高価格の米としてメディアで取り上げられていたコシヒカリ"戸邊米"の作り手だ。 戸邊さんについては別の回で詳しく触れるとして、日本で一番希少な米として真っ先に浮かんだのがこの"戸邊米"だった。  テレビで目にしたのは随分前だけれど、今も米作りを続けていら

          日本で一番希少な、米と水

          はじまり IT ALL BEGINS.

          2021年6月21日―   今振り返ってみても不思議で、それでいて必然だったとしか思えないのだけれど、この日突然自分の中に、対極の2種がペアになった日本酒のイメージが降ってきた。   思い浮かんだのはハリウッド映画の男女で、それぞれが忖度なく自分らしさを存分に主張し、年齢にとらわれず美しく輝いていて、時に融合する、それを思い切り“和”で、日本らしくやったらどうなるだろう―。   何の根拠もないのに、世界が見えた!!という直感だけがあった。   日本で最も希少な原料を用いて、こ