日本のウユニ塩湖、父母ヶ浜へ行った話
見渡す限り広がる湖と、湖面に反射して映し出される大空。この世のものとは思えない絶景で有名なウユニ塩湖だが、南米のボリビアに位置するため到達難易度は非常に高い。しかし、日本にもウユニ塩湖っぽい景色が楽しめるジェネリックウユニ塩湖がいくつか存在する。今回はそのうちの1つである父母ヶ浜へ行ったお話。
というわけで四国をレンタカーで1周する旅行記その5、スタート。前回は松山城や道後温泉を観光する王道旅行と伊予鉄で鉄分補給するオタク旅行が混ざった闇鍋旅行記だったが、今回は純度 100% の王道旅行だ。
……と思いきや、早朝の散歩という楽しさを共感してくれる人の少なそうな話から始まる。私は朝型人間ということもあり、この旅行中は毎日飽きずに宿を抜け出して散歩。今回は繁華街ど真ん中に位置するアーケード商店街、松山銀天街・大街道あたりをぶらぶらしていた。
前日の夜に訪れた時はかなり賑わっている印象を受けたため、静まり返った早朝の空気はギャップも大きい。人のいない繁華街というのは非日常感もあって個人的にはけっこう好きな景色だ。東京だと日の出る頃には人も湧いてくるため、地方でしか見られない光景かも。
……といった感じで朝の散歩を終えた後、宿に戻って他のメンバーと合流。
みかんジュースの出る蛇口へ
で、まず向かったのが松山城ロープウェイ近くの観光エリア。前日の王道旅行でうっかり実績解除し忘れていたのがこちら、みかんジュースの出る蛇口だ。みかん王国の愛媛に来たからには体験しておかねば。
みかんジュースの出る蛇口が設置されている場所は松山空港などいくつかあるようだが、ここでは1杯100円という大変リーズナブルな価格で提供している。というわけで順番に蛇口を回していく。これはなかなか面白い体験。
で、乾杯!なんか1人欲張りな奴がいるが、表面張力をフル活用してなんとか1滴もこぼさずに飲むことができた。
というわけでこれで心置きなく松山を脱出できる。さっそく車へ乗り込み、東へと突き進む。
香川県へ突入
休憩も挟みつつ2時間半ほど経ったところで、ようやく愛媛県を抜けて香川県へ。ちょうど並走する予讃線を特急しおかぜが追い抜いていった。
香川ということで、さっそく評判のうどん屋へ突撃。大変美味であった。
金刀比羅宮を観光
腹を満たした後、しばらく走ったところで本日1つ目の目的地に到着。「こんぴらさん」こと金刀比羅宮だ。これでことひらと読むのはなかなか当て字感強い。ちなみに地名の方は同じ読みでも琴平と書く。
金刀比羅宮は江戸時代から参拝スポットとして伊勢神宮に次ぐ人気を誇っており、その参道は観光地として整備されているようだ。坂道の参道脇に所狭しとお店が立ち並ぶ様子は大変趣深い。清水寺を彷彿とさせる光景だが、あちらは綺麗に整備された歴史的建造物が立ち並ぶのに対し、こちらは年季の感じる昭和建築。個人的にはこちらの方が歴史を感じられて好き。
金刀比羅宮は象頭山という山の中腹に位置しており、参道には階段が延々と続く。幸い傾斜は緩やかなため、体力に自信がない場合はペースを落としてゆっくり登っていけば大丈夫だ。
鳥居をくぐり抜けてさらに上へ登っていく。大昔から数多の参拝客がここを通ったと思うとなかなかエモい。
そんなこんなで階段を登りきると金刀比羅宮の入口に到着。ところでなぜ金刀比羅宮なのに「こんぴらさん」なのだろうかと疑問に思っていたが、明治の廃仏毀釈より前は神仏習合の金毘羅権現を祀っていたことに由来するとのこと。
さらに歴史を紐解いてみると、本地垂迹説によって神道と仏教が合流する前は地名と同じ琴平神社を称していたらしい。「当て字感強い」と前述したが、琴平に金毘羅が合わさって金刀比羅になったと考えるとけっこうセンスある命名な気がする。余談に余談を重ねるが、金毘羅はインド神話のクンビーラが仏教に取り入れられた神だ。まさか仏教を経由してインド神話にまで繋がるとは……なかなか興味深い話だ。
で、境内に入ってからは平坦な道が続く……
かと思いきや、まだまだ階段が続く上に傾斜も一段と激しくなる。なんと本宮までで 785 段の階段があるとか。猛暑日などは特に体調に注意して登るべき。私も暑くなってきたのでこのあたりでジャケットを脱いだ。
ところで、現在の金刀比羅宮に祀られているのは大物主神と崇徳天皇。大物主神は国造りの神様であらゆる分野から信仰の対象となっているが、ここでは特に海上交通の守り神として崇拝されている。
そんなこんなで階段を登りきり、本宮に到着。参拝!
本宮の隣には展望台が設置されており、785 段も階段を登っただけあって景色は大変良い。
遠くに見える目立つ山は飯野山。綺麗な円錐の形をしており、讃岐富士とも呼ばれているらしい。遠近感がややバグっているが意外にも標高は控えめで、お気軽登山スポットとして注目を集めているとか。
そんなこんなで参拝も済ませたことだしさっそく下山……というわけにはいかず、ここからさらに奥社を目指して登っていく。
周囲の景色は完全に山道という感じだが、引き続き参道はしっかり整備されている。
奥社までの段数は本宮までの分も含めて 1,368 段。
というわけで奥社に到着。所要時間は参道の入口から1時間かからない程度だった。
奥社に祀られているのは金刀比羅本教の教祖である厳魂彦命。
厳魂彦命は死の直前に天狗へ化けて姿を消したという伝説が残されており、奥社横の岩壁には天狗とカラス天狗の彫り物がかけられている。この伝説から、江戸時代には天狗のお面を背負って参拝するという風習もあったとか。
奥社は象頭山の中腹に位置すると前述したとおり、上を見上げると山頂までは程遠いことがわかる。象頭山はこのあたり一帯の中ではかなり大きな山であり、海上からの視認性も大変良いため古くから航海の目印とされていたらしい。海上交通の守り神として崇拝されているのはこういった歴史的・地理的背景があるのだろう。ちなみに先述したクンビーラもガンジス川のワニを神格化した神様で、これまた水に関連しているというのが興味深い。
本宮からさらに登った場所にあるため、見晴らしも良い……と言いたいが、あまり視界が開けていないのがやや残念ポイント。
象頭山の周囲が平坦な地形であることがよくわかる。
ちょうどタイミング良く土讃線の列車がのんびりと走っていったため、望遠で撮影。
……といった感じで無事に参拝を終え、後はひたすら下山。
道中、バカでかいプロペラが奉納されているのを発見。
境内を出て表の参道へ。
この景色好き。
で、車に戻る……直前に少しだけ時間をもらい、1人抜け出して向かったのが琴電琴平駅。琴電は高松から郊外に向かって伸びる3路線を運営する地方私鉄で、3路線の1つ、琴平線の終着駅がこの琴電琴平駅だ。
改札まで行くものの、残念ながら琴電の車両を拝むことはできなかった。30 分おきのパターンダイヤとなっており、JR の琴平駅も合わせるとそこそこの本数が確保されている。寝台特急サンライズ瀬戸も繁忙期は琴平まで延長運転を行うなど、一大観光地として鉄道アクセスも充実しているようだ。
ちなみに戦前には丸亀と坂出から琴平まで路線を敷いた鉄道会社もあり、国鉄も合わせて4社がシェアを奪い合うという関西私鉄も驚きの鉄道激戦区だったとのこと。金刀比羅宮が古くから観光地として栄えていたことがよくわかる。
父母ヶ浜へ向かう
で、車に戻ってからは象頭山をぐるっと回り込んで西へ向かう。松山から延々と東へ突き進んできたので方角的には U ターンとなる経路だ。
というわけで本日2つ目の目的地、父母ヶ浜に到着。
前回、前々回に引き続き全く同じことを言うが、瀬戸内海の夕日は淡いグラデーションがマジでキレイ。最高すぎる。
ところでわざわざ夕焼け時に来たのは、単にキレイな夕日を拝みたいというだけではない。
父母ヶ浜は本家ウユニ塩湖とは違い、干潮時に砂浜の随所に出現する水たまりを利用して空が水面に映り込む風景を実現する。日中は風が強く水面が波立つため撮影に不向きなわけだ。なお、干潮と日没の時間が重なるのは1年のうち半分くらい。旅程を組むタイミングから注意しておきたいところだ。
というわけで、良い感じの水たまりを見つけて撮影開始。私が基本的にソロプレイヤーということもあって今まで同行者は影も形も出てこなかったが、ここにきてようやく被写体として使わせていただいた。許可はもらっているので肖像権的にも問題ないはず……というかシルエットしか映らないし。
で、ここからは同行者が三脚にスマホをセットして撮影した写真を借りてきた。水面が波立つとこんな感じで水たまり感が出てしまうが……。
波立っていなければご覧の通り。もう完全にウユニ塩湖だよねこれ。アニメの OP とかでよく見るやつだよねこれ。
オタク要素がいつも強い私の旅行記にしては大変珍しい、青春っぽい写真。というか私が被写体になっている写真を載せるのも初めてかもしれない。
父母ヶ浜はこの旅行で行かなかったとしてもいつかは1人で突撃していたと思われるが、1人だとこういった写真は撮れないので今回の複数人旅行で訪問できて良かった。
……ところで、ここまで載せた4枚のうち2枚は上下反転処理を入れているため、空と水面が上下逆になった写真である。言われないと気づかなかっただろう。どやあ。
といった感じで日も完全に沈み、名残惜しみながら車へと戻った。父母ヶ浜は鉄道でのアクセスが悪く、バスも季節によっては終バスが日没前となってしまうためレンタカーが最強だ。
高松へ
再び進路を東へと変え、ひたすら突き進むと本日の終着地点である高松に到着。松山からだいぶ長い距離を移動したなあ。
……といったところで今回はここまで。次回は小豆島編!