見出し画像

能力を引き出すとはどういうことか

能力を引き出すことについて考える前に

能力を引き出すにはどうすればいいかについて少し考えたいと思う。ここでは能力というものがどういうものなのかということは、ひとまず置いておく。能力を引き出すというのはその対象者に対しての立場であり、発揮するというのはその本人という立場になる。ここではどちらかといえばその本人がいかにして能力を発揮するかという視点でよりも、その対象者本人に対してどのようにしたら能力を引き出すことができるかという視点で考えていきたい。

イチロー選手の引退会見から

先日のイチロー選手の引退会見を見ていて思ったことがいくつかある。まず、イチロー選手は自分の能力というものをある程度はわかっていたのではないかということ。それは彼は自分の能力をわかっていたからこそその限界を見極めることができ、あのような輝かしい成績を残してユニホームを脱ぐ決断に至ったということ。そして彼があのような成績を残せたのはもちろん本人の天性の能力もさることながら、やはり周りの環境的な要素も大いに関係していると思う。イチロー選手自身と周りの環境的な要素とがうまくかみ合ってあのような大選手になり、輝かしい成績を残せたのではないかとみることもできる。

難しい問題をいかにして解くか

例えばある子どもがある問題を解いていたとする。その子にとっては難しい問題でどうしても解けない。あるいは、あるスポーツで難しいプレーがあってどうしてもそのプレーができないといった場合にどのようにしてその難問をクリアするか。ひとつの方法として、その難しい問題を解いている子どもに対して先生があるヒントを与えた場合はどうだろう。そのヒントによってその子が解けなかったその問題をスラスラ解けるようになったとしたら、その時点でその難問をクリアできたことになる。どうしてもできなかったプレーを克服するためにコーチがあるヒントを与えると、そのプレーができるようになったとしたらその時点で難問をクリアしたことになり、その本人の能力を引き出せたと言える。

最近接領域

ヴィゴツキーの「最近接領域」という理論がある。これは子どもが一人では解けなかった問題が他者の援助によって解けるようになった場合の、その差のことである。一人で解けなかったところと他者の援助を得て解けたところの差のことである。この差をいかにして縮めるかということが重要な要素になってくると思われる。この最近接領域は、何も先生やコーチなどの積極的なかかわり方だけとは限らない。子どもが一人では解けない問題があったとして、その問題を解けるようになるために友達と一緒に勉強する場合にも同じようなことが言える。自分では解けない問題を友達はどのようにして解いているのかを探るのは自分の能力を引き出す重要な資質のようにも思える。その友達の解き方で問題が解けるようになると、複数の方法を身に付けることになる。これは大きな飛躍である。もっと重要なのは、その友達がどのようにして自分の問題の解き方を教えるか、ということだと言えなくもない。

かかわり方

前の記事で心理的な反発心のことを述べた。例えば子どもに勉強をしてほしいと思って勉強しなさいという場面でどのようにして言うかという問題である。心理的反発は、例えば子どもに勉強をしてほしい時に子どもが「そろそろ勉強しようかな」と思っているところに親から「勉強しなさい!」と言われると「そろそろ勉強しようと思っていたところなのに!」ってなるのは目に見えている。これは子どもの現在の心理状態などを無視してこちらの一方的な要望を伝えていることである。このような場合はなかなか本人のやる気を引き出すことは難しくなり、ゆえに本人の能力を引き出すことはより困難になってしまう。

かかわり方で重要なこと

これは勉強だけにとどまらず、スポーツでも仕事でもあらゆる場面で言えることである。能力を引き出すための重要な要素として、かかわる人の態度・姿勢、知識、技能といったようなものが大きく関係してくると思われる。そのカギとなるのが「最近接領域」と相手の状態を慮る姿勢でもって指示・命令、説得するのではなく、どのようにしたらこの課題を克服できるかを一緒に考えていこうという姿勢である。おそらくイチロー選手は自身のたぐいまれな才能と人並以上の努力、そして自分の能力を発揮することができる環境に恵まれた良き縁があったからこそだと個人的には思っている。仕事でも勉強でも、教えるということを深堀していくと、それは上述した「最近接領域」でもって相手の状態をよく知ることと、その本人がいかにして課題を克服し、さらに成長していくためにどのようにかかわるかということが重要なカギとなる。能力をいかにして引き出すかはもちろん本人がどうかということも重要だがそれよりも、周りの人がいかにしてかかわるか、いかにして能力を引き出す術を持ち合わせているか、これに尽きるように思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?