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【序文-1グランプリ】Lakka編

Lakkaです。序文-1グランプリは構成だけ練っていた「序文をひたすら読むだけの記事」を企画化したものです。これまでに2人のメンバーが個性溢れる記事を投稿しています。
前の記事からかなり時間が空いてしまったので(怠惰・大反省)、ルールと注意点をおさらいします。

⚠️序文-1グランプリのルールと注意点
ルール
1.序文の観点のみで辞書を選出する(序文の内容と本文の比較は自由)。
2.「序文-1」とうたっている以上、辞書は必ず1冊のみにする。
3.辞書は国語辞典に限らない。
注意点
これらはあくまで辞書尚友メンバー個人の意見・感想です。

【序文-1グランプリ】ふずく編より

↓↓ 前回の記事はこちら ↓↓

さっそくですが、私が紹介するのは
『明鏡国語辞典 初版』(大修館書店、2002年)です!

これからその推しポイントを語らせていただきます。


『明鏡国語辞典』とは?

そもそも『明鏡国語辞典』とはどのような国語辞典なのでしょうか。
以前私が執筆したウィキペディアの記事を引用します。

『明鏡国語辞典』(めいきょうこくごじてん)は、大修館書店が発行する日本の小型国語辞典。北原保雄を編者とし、2002年に初版が発行された。親辞典が明確に存在しない一から作られた国語辞典としては最も新しく、新語や俗語の積極的な採録、誤用表現の指摘・解説が大きな特徴とされている。最新版は2021年に発行された第3版で、収録語数は約7万3000語。

明鏡国語辞典」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』、2024年8月14日 (水) 02:39(UTC)版

※「小型国語辞典」とはだいたい9万語までの辞書のことを言います。いわゆるよく見るサイズの、学校で使うような辞書がそれにあたります。『広辞苑』や『大辞林』といった運ぶのにかなり苦労するサイズのもの(30万語くらい)は「中型」、50万語を収録する『日本国語大辞典』が「大型」です。

『明鏡』は”ベースとなった親辞書が明確には存在しない、一から編纂された国語辞書としては最後発”(ながさわ『比べて愉しい国語辞書ディープな読み方』河出書房新社、2021年4月30日)と言われています。
「親辞書」というのは、元となる辞書のこと。例えば『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』は『明解国語辞典』から枝分かれしたものなので、『明解国語辞典』が親辞書です。正確に言うともっと遡ることができるのですが、かなり複雑な話になってしまうため深入りしないことにします。

初版発行は2002年。電子辞書に搭載されていることから一般知名度は高いように思いますが、50年以上の歴史を誇る辞書がごろごろ存在する国語辞典界の中では、かなり若いと言ってよいでしょう。

『明鏡』初版の序文を読む

ここから、編者・北原保雄による初版の序文を読んでみましょう。以下に一部を引用します。

私は、これまでにいろいろの辞典の編纂に携わってきた。その数は二十種を越える。その最初から一貫して変わらない私の信念は、既にある多数の辞典にもう1冊を加えるのではなく、今までにはないただ一つの辞典を創るということである。大した特徴もない辞典をもう一冊増やしても世の中を混乱させるだけである。今回の辞典編集にあたっても、この信念のもとに、これまでには存在しない最良・最高の辞典を創るべく、百回を越える検討会議を重ね、編集方針を練った。そして種々の新しい特長を創出することができた。

『明鏡国語辞典 初版』大修館書店、2002年

北原は20代の頃から多くの辞書編纂に携わってきました。特に初めて関わった『古語大辞典』(小学館)には本当に心血を注いだ、と2012年の対談(『ユリイカ』第44巻第3号、青土社、2012年3月1日、48-57頁)で語っています。
そんな北原が長年抱いてきた夢が、「使いやすい小型辞典を作ること」でした。自伝『岐点の軌跡─わが歩み来し道』の中でも、次のように語っています。

わたしも、『古語大辞典』(小学館)や『全訳古語例解辞典』など古語辞典は編纂してきたが、オンリーワンの現代語辞典を作ってみたいというのが長い間抱いていた夢だった

北原保雄『岐点の軌跡─わが歩み来し道』勉誠出版、2011年12月30日、185頁

『明鏡』初版の序文は、北原の熱い思いが詰め込まれたものであると言えるでしょう。そんな北原の「熱さ」が表れている一文 ”大した特徴もない辞典をもう一冊増やしても世の中を混乱させるだけである” は、辞書の序文にしてはかなり過激なようにも感じられます。しかし、実際に「国語辞典なんてどれも同じ」と思っている人が多いことを考えると、これはもっともな意見だと思います。

北原は多くの著書、インタビューの中で「オンリーワン」「最良・最高」といった言葉を、繰り返し使っています。序文(上の引用箇所)でも「今までにはないただ一つの辞典を創る」「これまでには存在しない最良・最高の辞典を創る」と述べており、北原の辞書人生において、そして『明鏡』の編纂において揺るぎない信念であったことは間違いありません。

序文に戻ります。

人はなぜ辞典を引くか。どういう時に辞典を必要とするか。いろいろの理由があり、さまざまな場合がある。一冊の辞典でその全ての要請に応えることはできない。しかし、大切なことは、自分の調べたい項目が採録されていて、知りたい内容が十分に説明されていることである。そういう観点から、この辞典では、まず採録項目を需要度を重視して慎重に選定した。そして、一つ一つの項目に従来の辞典にない種々の解説を施した

『明鏡国語辞典 初版』大修館書店、2002年

『明鏡』は後発の国語辞典です。その歴史の長さも信頼の証となりえるジャンルにおいて、新しさはあまりプラス要素になりません。その不利を補うためにも、他の辞書にはない、もしくは上回る特質が必要です。
そんな立場にあった辞書の序文で、”一つ一つの項目に従来の辞典にない種々の解説を施した” と述べているのは、「オンリーワン」で「最良・最高」の辞書を作ることを達成した、という北原の勝利宣言のように思われます。

どの辞書の序文も編纂者たちの情熱に溢れています。どのような特徴があり、どのような歴史をたどってきたか。私は迷いが生じたとき、辞書の序文を読むようにしています。

しかしその中でも、『明鏡』の序文からは並々ならぬ熱意を感じるのです。
21世紀に一から辞書を作るというのは、簡単なことではなかったと思います。すでに同型の辞書が、各社からいくつも出版されている状態からのスタートだからです。
もちろん、『明鏡』に情熱を捧げていたのは編者・北原だけではありません。後に編集委員の一人となる鳥飼浩二(元学研の国語辞典編集者)は、『明鏡』の企画が通った次の日、北原にこのようなハガキを送っています。

前略 昨日は嬉しいお電話を有難うございました。ひょっとすると、大修館もダメかなと、諦感に至らんとしていた矢先の”福音”だけに、喜びもひとしお、いささか興奮気味でさえあります。先生の御尽力に感謝申し上げるとともに、大修館書店編集部に敬意を表する次第です。さすが北原先生、さすが大修館!!人生意気に感ず、であります。頑張ります。今夜は祝杯だ!
 取り急ぎ、御礼と決意表明にて失礼致します。

北原保雄『岐点の軌跡─わが歩み来し道』勉誠出版、2011年12月30日、187頁

”いささか興奮気味” と言っていますが、かなり興奮していますね。
北原の信念が編集チーム全体を率いる方針となっていたことは、想像に難くありません。

最後に、最新版である第三版の序文も少しだけ紹介させてください。

初版から高い評価をいただき、第二版も好評をいただいたが、今般、さらに上を目指して改訂を行うこととした。(中略)
この第三版は、新しいもう一冊の辞書を編集するような気持ちで、渾身の力を込めて改訂した。どうぞ手にとってご覧ください。特長がご理解いただけると思う。

『明鏡国語辞典 第三版』大修館書店、2021年

常に上を目指し、「最良・最高の国語辞典」を更新し続ける
それが『明鏡国語辞典』なのです。

おわりに

『明鏡国語辞典』初版の序文を紹介しました。
中高生のころ同じ編集チームの『みんなで国語辞典!』『問題な日本語』シリーズと合わせて電子辞書で愛読していたので、思い入れの深い辞書の一つです。

ちなみに、過去にはこんな記事も書いています。

今回の記事を通して『明鏡国語辞典』に興味を持ってくださった方がいれば嬉しいです。すぐ下にAmazonのリンクを貼っているので、今すぐ買うことができます!!

※明鏡の話をしすぎているので、そろそろ大修館書店の関係者かPRなのでは…?と疑われそうですが、本当にただのファンです。

ぜひ実物を手に取って、北原保雄、そして明鏡の編集チームが目指した「オンリーワン」で「最良・最高」の国語辞典を感じてください。

それではまた、次の記事でお会いしましょう!
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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