ところでポテンシャルって何だっけ? 頭を整理してみた
人材育成で「ポテンシャル」という言葉は当たり前のように使われるようになっています。事業環境の変化が激しくなり過去の経験が必ずしも将来の成功を約束しない状況の中で、未知の状況に素早く対応する力が問われるようになっていることが背景にはあるのでしょう。グローバル企業だけでなく、日本企業でも社員の年齢分布が逆ピラミッドになる中で、若い内からポテンシャルの高い人材を経営者候補として育成する動きが加速しています。
しかし、正面から「ところでポテンシャルって何ですか?」と聞かれたら、スラスラとは答えられないところもあります。そこで改めてポテンシャルとは何か、頭を整理してみたいと思います。
ポテンシャルは成果ではない
すごく当たり前に聞こえてしまうかもしれませんが、まず最初に言えることは、ポテンシャルと現在の成果はちがう、ということです。現在の成果は一般的にはパフォーマンスと呼ばれます。「パフォーマンスは低いけどポテンシャルは高い」とか、「パフォーマンスは高いけどポテンシャルは低い」などと使われるので、ポテンシャルは現在の成果と分けて考えられています。
このように一歩引いて考えると「まぁ、そうだよね」ということなんですが、実際に議論が白熱してくるとポテンシャルとパフォーマンスがごっちゃになってしまうことがあります。昇進の推薦理由として「現在の成果が高いから」ということは重要ですが、現在の成果が高いということは将来も活躍するという十分な根拠にはなりません。
現在の成果にばかり目が向けられてしまうと、学習することや挑戦することが軽視され、結果的に持続的に事業を成長させることが難しくなります。学習することや挑戦することは短期的に見れば非効率だからです。現在だけではなく将来の成果にも目を向けるために、ポテンシャルという言葉が使われているのでしょう。
ポテンシャルは頑張りではない
「頑張っている」ということもポテンシャルとは関係ありません。仮に努力や熱意、諦めないことが「頑張り度」の基準だとすると、暗黙的な指標として勤務時間が使われることになります。
このように「頑張り度」は何をもって測定するかが怪しい上に、そもそも昇進基準に「頑張り度」なんて書かれていることはありません。それにも関わらず勤務時間を基準とした頑張り度がポテンシャルと意識的・無意識的に混同されることがあります。英語でもオフィスで長時間勤務している人が優秀と考えられやすいプレゼンティズムという言葉がある通り、”勤務時間王”決定戦の文化があるのは日本だけではありません。
プレゼンティズムとポテンシャルが混同されることでの一番の被害者は女性です。男女間の処遇・賃金格差に加えて子供がいる母親は、仕事や成果に関わらず処遇が低くなる母親ペナルティーと呼ばれる現象がみられることがわかっています。まだまだ家事・家族のケアの負担は女性の方が高い中で、勤務時間をはじめとした頑張り度でポテンシャルが判断されてしまうということは残念ながらグローバル共通の課題となっています。
ポテンシャルは年齢ではない
さすがに勤務時間を基準にすることはなくても、ポテンシャルの明確な基準がないため、「若さ=ポテンシャル」という解釈に落ち着いてしまうケースも残念ながら見られます。多くの経験を積む時間が残されているという観点では若ければ若いほど良いとはいえますが、「若い人はポテンシャルが必ず高い」とはいえません。
抜擢人事で年齢の若い人を登用した方が育成に多くの時間をかけられることに間違いはありませんが、ポテンシャルと年齢は分けて考えたほうが議論がより建設的になります。高齢化が加速する日本においてシニア人材の更なる活用が必要だとすると、年齢に関わらずポテンシャルを見極められることが理想的です。
別の言い方をすれば、年齢という本来ポテンシャルとは関係ない要素にとらわれずに個別のポテンシャルを見極められるようになることは、人手不足といわれる中で一人ひとりの能力の最大活用を促す上で強力な武器となります。
改めてポテンシャルとは?
ここまで見てきたことを踏まえて改めて整理すると、ポテンシャルは昇進、またはそのための育成と関係する文脈で使われていることがわかります。ポテンシャルは直訳すれば潜在力・将来性となりますが、意訳をすれば「昇進可能性」に近い意味でつかわれていることが多いといえます。
昇進可能性は具体的な昇進先を想定した短期的・中期的な時間軸であるのに対して、ポテンシャルは将来的な可能性も含めた中期的・長期的な時間軸を想定しているという違いはあります。しかし、将来の成果の可能性を指している点ではいずれも共通しています。
企業価値の持続的な向上のために、現在だけでなく将来の成果も見据えて人材育成を進めることが重要なのでしょう。
まとめると、ポテンシャルは将来の成果の可能性を指しており、日本語に訳すと昇進可能性に近いといえるでしょう。具体的にどのような特性がポテンシャルとなり、どのように測るのか、どのように伸ばすのかなどは、また別の機会に考えてみたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございます。