リスキリングで目指すべきは、キャリアのポートフォリオ化
キャリアが複雑化しているといわれています。
もともとキャリアという言葉は、馬車が通ることでできる轍(わだち)の意味です。これまで進んできたところと、これから進んでいくところを指す言葉として活用されてきました。
しかしそうした直線的な動きには収まらず、管理職や専門職など様々なキャリアが出てくる中で、キャリアはラダー(梯子・はしご)とみられるようになります。
そこから更に複雑化し、上がるだけでなく場合によっては下がることも含めて上下左右に動き回るジャングルジムとしてキャリアが考えられるようになります。ライフステージに合わせて昇進だけでなく場合によっては降格も柔軟に取り込んでいくキャリアです。
そうしたキャリア観はコロナ禍により更に変化し、一人の中に轍(わだち)的なキャリアもあれば、梯子的なキャリアもあり、ジャングルジム的なキヤリアもあるという複数のキャリアが併存していても良いのではないかという、キャリアをポートフォリオとして開発する動きが出てきています。
昔からこうしたキャリアはありました。たとえば大企業に努め、余裕が出てきたところで地元で子供にスポーツを教え、関係会社に転籍となったあとは趣味でつくっていた陶芸作品を細々と販売してます、みたいなことはこれまでもあり得たわけです。
しかしコロナ禍後は、キャリアのスタート時間からポートフォリオ化を意識し、あたかも経営者が事業ポートフォリオを将来の企業価値最大化にむけて入れ替えるように、個人のライフステージや事業環境に合わせてキャリアのポートフォリオを入れ替えていく動きが目立つようになっています。
たとえばデジタルスキルアップのためにIT企業にエンジニアとして就職し、自らもプロダクトを開発して起業を目指しつつ、友人の会社の開発をソロプレナーとして支援し、技術に関するブログでも収入を得る、というような複数のキャリアを同時に開発していくようなポートフォリオです。
リスキリングは、そうしたキャリアのポートフォリオ化を支える取り組みといえます。以前の記事でも書きましたが、リスキリングが目指すべき方向は、「キャリアのポートフォリオ化」にあるのではないかと考えています。なぜリスキリングを進めるとキャリアのポートフォリオ化ができるのか。それはリスキリングにより生み出す価値をレバレッジすることができるようになるからです。
今回もN=1という自分の経験談がベースになっていますが、リスキリングすることでレバレッジできたことについて整理してみたいと思います。
知見のレバレッジ
一つ目は、あるキャリアで得た知見を、形を変えることで別のキャリアで価値に転換するレバレッジです。
たとえば私はこれまで組織・人事コンサルティング会社に勤務し、コンサルティング・サービスを提供してきました。そこにリスキリングでデザイン・スキル(Canva)や、セルフ・ラーニング・プログラム作成スキル(Udemy)を新たに学びました。新たに学んだスキルを活用することで、これまで組織・人事コンサルティングというサービスの形式で提供してた知見をレバレッジし、人材育成スキルというコンテンツの形式で提供することができるようになりました。
このようにひとつの知見を、形式を変えることで新たな価値提供に結びつけることが、リスキリングにより可能になるレバレッジのひとつといえます。わたしの場合には人材育成コンサルティングというサービスによる価値提供で学んだ知見をレバレッジして、人材育成スキルというコンテンツによる価値提供に結びつけた事例といえます。
関係のレバレッジ
二つ目は、リスキリングにより新たなスキルを身につけることで、必ずしも知見の形式を変えることなく、また新たな関係を構築することなく、既存の知見と関係を新たな価値に結びつけることができるという関係のレバレッジです。
わたしの場合、知見のレバレッジによりコンテンツ提供を進めるために、デジタル・マーケティング・スキルを学ぶ直す必要がでてきました。そこでWordpressというツールを高校時代の友人に教わることになりました。
その結果、自分のコンテンツのマーケティングができるようになっただけでなく、Wordpressというツールを媒介として、わたしのもっている組織・人材コンサルティングの知見を、この高校時代の友人が手掛けている事業で活かせることがわかりました。
この友人とは高校時代からなのでかれこれ30年ぐらいの付き合いになりますが、極めて初歩的なデジタル・マーケティング・スキル(Wordpress)を身につけたことがきっかけとなり、既存の関係をこれまでとは異なる形で価値に結びつけることができた事例といえます。
時間のレバレッジ
三つ目は、リスキリングにより様々なプラットフォームを活用することができるようになることで、これまでよりも時間を有効に使えるようになるというレバレッジです。
たとえばコンサルティングというサービス提供は時間に制約されるわけですが、そうした知見をコンテンツ提供できれば時間に制約されません。わたしの話ばかりで恐縮ですが、Udemyで作成した人材育成スキルのコースは、昨年8月に公開し、その後の一年間で受講者のみなさんに視聴いただいた時間合計は2,000時間を超えました。これは一日の勤務時間を8時間、勤務日数を250日とすると、一年間の勤務時間に相当します。
つまり、その一年間で現実のわたしはこれまでどおり会社でサービス提供という形で一年間分働き、デジタル上のわたしはコンテンツ提供という形で同じく一年間分働く。実質的には一年間で4,000時間、二年間分働いたことになります。
デジタル・レバレッジこそがリスキリングの究極の狙い
このように知見・関係・時間をレバレッジすることでキャリアのポートフォリオ化を目指すことが、リスキリングでデジタルの力を味方につける究極的な狙いではないでしょうか。
わたしの場合には、時間のレバレッジでいえば、まだ一年間分なので直線的ではありますが、知見・関係・時間をレバレッジすることで一年間で十年間分働きました的な指数的なレバレッジを実現することができるのがデジタル本来の力なのでしょう。
これは個人としての話に留まらず、会社としてもリスキリングにより社員の生み出す価値を指数的にレバレッジすることができれば、企業価値への貢献は計り知れません。
社員の価値を指数的にレバレッジするためにどのようにリスキリングを進めるべきか。これが会社にとって検討すべき問いといえます。リスキリングでデジタル・スキルは外せない要素としても、その他にも価値のレバレッジにつながるスキルは様々考えられます。
個人としてはキャリアのポートフォリオ化を、会社としては企業価値への貢献を目指す。そのためにリスキリングにより生み出す価値を知見・時間・関係の観点から指数的にレバレッジさせる。そうした方向性こそがリスキリングの究極の狙いとなっていきそうです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。