読書記録|船戸与一『満洲国演義』
読了日:2021年12月17日
満州国を舞台に満州事変から日米開戦、終結、そして満州残留日本人による蜂起の通化事件までを描く、実話に基づく歴史小説。
満州事変後、満州国の建国で掲げた理想とは相反する道へ迷い込み、泥沼に足を取られてゆく。
ヨーロッパでは英仏が独に宣戦布告、日本との戦争を待ち望むルーズベルト、水面下で独ソ不可侵条約を結んだスターリンは虎視眈々と…そんな中、立場が違う4人兄弟の主人公たちがそれぞれの運命に翻弄される。
チャーチル、スターリン、ルーズベルトの関係性、側近にコミンテルンのスパイ尾崎秀実をおいていた近衛文麿が、責任から逃れるように第三次近衛内閣が総辞職、東條内閣発足、そして日米開戦はいよいよ熱を帯びていく。
全9巻ともあって、「長い!」と気後れする人もいそうだが、読んでみると自分もその激動の歴史の中に誘われるようにどんどん引き込まれてく。
夢中で読んでるうちに気が付いたら全巻読み終えてた、という感じ。
著者が末期癌を患いつつも、史実をなぞりながら約10年かけて綴った大作。
『満洲国演義』を書き上げてすぐにこの世を去った。 遺作と言ってもいい。
この小説のために、一体どれほどの書籍や資料を読んだのか、きっと想像を絶する量に違いない。
歴史が苦手な人でも小説として読めば楽しめるし、歴史が好きな人であればまた興味深く読み進められるだろう。
中国共産党創設の経緯や、日本と中国・韓国の当時の絡み、日露戦争とその影響など、そのへんの予習をしてるとより入り込める。
教科書では習うことのない歴史の一面を、この小説で知ることができる。
戦争とは、金欲、メンツ、国家間の工作や憎悪が入まじった"混沌"である。
(因みにこの小説を読み終えた後、映画『ラストエンペラー』を観たくなり、愛新覚羅溥儀の運命に同情し暫し感傷に浸った。因みの因みに、若き日のジョン・ローンがやっぱり本物の溥儀よりもカッコ良すぎて、「こんなイケメン皇帝いるかよっ!」と突っ込みつつ、鑑賞中はずっと見惚れていたのであった…)