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小説☆セックス、トラック&ロックンロール・シリーズ

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中古レコード屋の雇われ店主 サキ が遭遇する、少々ストレンジかつビザールな出来事を描く連作短編小説♪
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#短編小説

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…2

「先輩、これカッケー、なんか腰揺らしたくなるゥ」 「案外、センス良いね、アンタさ」 JKは目張りの決まった瞳でもってウィンクすると、腰を揺すり始めた。アタシは、そんなJKを眺めながら、‛こいつ、結構な値段取ってんだろうな‚って思っていた。 「先輩さー」 アタシは、その声にフッと我に返って、こうレスった。 「気安いんだよ、後輩」 JKは、腰を揺らしながら話を続けた。 「先輩、ここさ、時給幾ら?」 「バイトは、要らない」 「

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…1

   そのショートカットのJKが、店へ顔を出すようになって約1ヶ月が過ぎた。彼女はスラリとした体型で、水色の半袖ブラウスに濃紺の短いスカート、ナマ足優先のショート・ソックスには、赤いコンバースのハイカットをいつも合わせていた。     週2、3度は現れて、最低1回は何かを買ってくれるので、良いお得意様なのは間違いなかったが、会計時の当たり前の遣り取りを別にすれば、普通の日常会話をしたことはなかった。もっとも、その会計時の遣り取りにしても‛これ下さい‚から始まって、最近では‛こ

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…8

    アタシは、息苦しくなって目が覚めた。途端に異臭が鼻腔を満たし、それがかえってアタシの意識を覚醒させた。     果たして、どのくらい時が経ったのか……。     ザー、ザー、ザー……。自動では戻らなくなっているプレーヤーのアームが、演奏し終えたA面の内周の溝をいつまでもなぞり続けていた……。     アタシは、どうしてもデブの下から抜け出せなかった。なんとか足首を動かして、足下付近に放置されたデニムを少しずつ引っ掛かけては引き寄せを繰り返し、ようやく手を伸ばせば触

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…7

    前者は不明、後者はあれだ……。     アタシは回転するLPを見下ろしながら、その思いを口にしてみた。     「だから、アレは何だっけ? ‛カッチョイー!‚ってのさ、ほら、誰のどのアルバムだったっけ?」     「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウトでしょ」     「あ―、そっか……。え? えっ!?」     ハッとして、声がした方、そう、段ボールの方を見下ろした。 と、そこには今まさに立ち上がりつつあった全裸のデブの姿があった。気になっていた何かが形になって、

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…6

    リョウ兄さんの話は、アタシの予想通りパッケージ業務のバイトの件だった。但し、配送先が千葉の奥地というのが難点だった。そこで、アタシは、発注元たる吉川へスマホで連絡して交渉してみることにした。今のアタシには、ちょっとした刺激がマストなのだけど、社会復帰したてのアタシに、千葉の奥地はちと遠い……。     「……今は千葉しかないんだよ、サキ」     「うん……、ちょっと考える」     「ボーナス払うよ。仕方ねぇーから」     「考えとく……」     そう言って取り

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…5

    何を言うべきか決めかねたままいつの間にか入り込んだ不自然な沈黙をアタシが意識し始めた頃、間近から見詰めていたルミ姉さんは、逆にそれを察したアタシがとにもかくにも何か言おうと開き掛けた口へ、細く長い人差し指を制するように押し付け、そのまま親指も連携させてアタシの上下の唇を押し塞ぎ、ゴダールのスローモーションみたいな微笑みを浮かべて、こっくりと頷いてくれたのだ。     アタシに残された返答はただ一つ、頷き返すことだけだった……。     「行ってくるわ」    そう言い

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…4

    アタシが切り盛りする中古レコード屋、ロスト&ファウンドから徒歩10分程、早稲田通り沿いの脇道を曲がってすぐの所にその古びた4階建のビルはある。一戸建ての跡地に建てたと思われる、こじんまりした、まぁアパートに毛が生えた程度のものではあるんだけれど、しかし地下も含めて実際は見た目とは裏腹なビルだったりする。  あれっきりピタッとエロ電話は止み、ようやく店の営業を再開して数日が経った頃、ほとんど社会復帰を果たしたと思われるアタシは、すっかり足が遠退いていたオーナー夫妻のアジ

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…3

    そう口に出してみると、少しだけ腑に落ちた気がした。アタシは急いで踵を返すと、スタンドを灯して、手狭な店内に配された餌箱、つまりはレコード棚へと向かい合った。      少しして導かれるように一歩踏み出すと、さっきまでは確かに取り戻していたはずの自分を取り逃がさないようなそんな音を探しにうろついて、気付くとそこは初っ端Aの棚の前、間髪入れず両手を運び、慣れた手付きでアルバムの上端を摘まんでは出し入れしながら、戻す度にあがるゴトッ、ゴトッというセコハン屋には付き物の例の音

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…2

    嘘だった。策士策に溺れる、アタシもまた喋りすぎてしまったようだ。墓穴。     この数日間、こいつの卑猥な呻きと唸りを聞かされるうちに、アタシがはまり込んでいた孤独感が合せ鏡の様に炙り出されて、夜毎の苛立ちと自己嫌悪が募った挙げ句に耽った自己逃避な指遊びの果てに、とうとう今晩リアルなアタシを探しに夜の街へと飛び出したのだから、無どころかこの変態野郎こそアタシに影響を与えた張本人そのものなのだ……。      「ひ、ひどすぎるぅ……い、いくらなんだって、言って良いこと、

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…1

    「俺の唇がね、あんたの唇の縦皺をさぁ、妙に生々しく感じとってさぁ……頭の天辺のどこか奥の方へ堪らないぐらい訴えかけてくるんだよぉ」  深夜のバーガー屋で出くわした卑猥な視線に乗じて、なかばアタシの方から高田馬場駅近くのホテルへと連れ込んだ見知らぬオヤジにシャワーを浴びながら互いの唇を貪り合う最中にそう言われた瞬間、不意に自分本来の輪郭を取り戻した気がして、ゾクゾクっと震えが来た。  相手のオヤジはロハで若いアタシの肉体を、アタシはアタシで数日前から感じていたまるで幽体

セックス、トラック&ロックンロール・酔いのピンチヒッター…7

    住宅街にある店へ到着したアタシが観たモノは、三分の一ほどに開いたシャッターだった。アタシは、その理由を考えながらウォークマンで〝無情の世界〟を聴いていた。昨日出がけにキチンと、シャッターは降ろしたはずだ。多分、酔っ払ったリョウ兄さんが、降ろしきったつもりで吉川ビルへと帰宅したのだろう。仮に強盗が入ったんだとしても、たいした被害になりようもないのだし、アタシを襲うつもりならこんな中途半端なマネはしないだろう……。     そう、結論付けたアタシは、シャッターを潜ると、そ

セックス、トラック&ロックンロール・酔いのピンチヒッター…6

      「あの運転手、どこ行ってんだろ……」     アタシは、男の尻をぼんやり眺めながら、ふとそう口にしていた。カー・ステレオのヴォリュームを絞った吉川が、バックシートへ上半身を戻して座り直すと、こう応えた。       「慣れてんだから、心配御無用」       「へー、年中やってんだ、社長さんは」       「あー、だって、社長だぜッ……」     アタシ達は笑い合った。     車内には〝ユー・メイク・ラヴィング・ファン〟が流れている。アタシは、クリスティン・マ

セックス、トラック&ロックンロール・酔いのピンチヒッター…5

    行き先はホテルではなかった。どうやら、吉川の会社の持ち物のマンションらしく、その部屋は7階にあった。相手の男は多分50代後半ぐらいで、髪は白髪、胸も腋もアソコもケツも毛むくじゃらで、それらも白髪混じり、アソコそのものは東京タワーみたいな元気さで、アタシが到着した時には既に全裸で待っていた。 男は到着したアタシに婦警の制服を渡し、それを着る様に指示すると、アタシが着替えるまでの間、ウィスキーをラッパ飲みしながら鑑賞していた。 こんな、シチュエーションには慣れ

セックス、トラック&ロックンロール・酔いのピンチヒッター…4

     ……吉川は、アタシが野良猫時分、何度かアタシを抱いていた。ドロップアウトしていたけれど、JK時分のティーンのアタシを。 その頃、一匹狼やってたアタシは、吉川の企業グループの末端がやっていたデリの連中にとっては、目の上のたんこぶ以外の何者でもなく、なにせ現役JKにしてセックス大好きなアタシを買った男たちが、それ以降にデリ嬢たちへ求めるプレイにおいて、グレーの域を優に飛び越え兼ねず、「まったくもって迷惑千万、あの身勝手で、派手に縄張りを荒らすJK 崩れをなんとか