セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…8
アタシは、息苦しくなって目が覚めた。途端に異臭が鼻腔を満たし、それがかえってアタシの意識を覚醒させた。
果たして、どのくらい時が経ったのか……。
ザー、ザー、ザー……。自動では戻らなくなっているプレーヤーのアームが、演奏し終えたA面の内周の溝をいつまでもなぞり続けていた……。
アタシは、どうしてもデブの下から抜け出せなかった。なんとか足首を動かして、足下付近に放置されたデニムを少しずつ引っ掛かけては引き寄せを繰り返し、ようやく手を伸ばせば触れるところまで手繰り寄せたアタシは、しばし息を整えると、ぐいっと右手を、そして指先をピンっと張ってそれを掴んだ。と、激しく乱れた呼吸が続いて、その間中息を止めていたことに気が付いた。
で、アタシは、デニムの尻ポケットを手探りして、やがてスマホを取り出すと、その番号を開いて、プッシュした。
トゥルルルルルル……。
繋がって!
ふと思い立ち、時間を確かめると、デブと折り重なって一時間半程経っていた。アタシは、この状況をゲロと精子にまみれた今の自分を誰にも知られたくはなかった。リョウ兄さん、ルミ姉さん、それに勿論マッポにも、だ。
「もしもし、吉川だ。今頃、どうした?」
「あのさ、ボーナス決めた。それも、急ぎでッ……ねぇ、吉川、聞いてる!?」
「なんだよ、サキ? おい、大丈夫なんだろうな!?」
異臭のなか、20分程待った。その間、デブが目覚めないか、気が気ではなかった。
吉川が手配してやって来た背広姿のふたりは、思いの外、年を食っている様に見えた。 一人は50絡み、歳上のリーダー然した方は60ぐらいの印象だったが、店内に入って来るや否や、スプレー缶で消臭をし始めたのを手初めに、テキパキと仕事に取り掛かり、先ずはデブをアタシの上から駆除することに難なく成功してみせた。見た目以上に力がある、というよりプロの匂いをプンプン振り撒いていた。
ところで、アタシは穢れた裸体を二人に曝すことになったのだが、勢い情けなさに怯んだ視線でもって二人を見上げたアタシへ、リーダー然の方がニッコリ頷き掛けると、こう言った。
「サキさん、大丈夫よ。ボクたちホモだから。それとね、こういう仕事はメシの種、ようするに慣れっこだから、何にも心配しないで全て委ねてちょうだい」
アタシは、黙ったまま頷き返す一方で、吉川のスマホでの言葉を思い出していた。
「分かった、うってつけの連中送る。ウチの契約社員で高い給料分の仕事はする。全てそいつらに委ねればいい。それと、万が一そのデブが目覚めてしまったら、目の中に指突っ込んじゃえ……」
と、50絡みが持ち込んできたヴィトンのボストンバッグから取り出したスプレーをアタシの裸体へ噴霧し、同じく取り出した肌触りの素晴らしいタオルでもって手早く拭ってくれた。傍らではリーダー然が、デブを荒縄でみるみる縛り上げながら、アタシに話し掛けてきた。
「サキさん、取り敢えずゆっくりシャワー浴びておいでなさい。その間に店の清掃も終わっているはずよ。で、最終的にこのデブどーしたい? 社長にサキさんの意向訊くように言われてるの」
アタシは、上体を起こしてカウンターへその背を預けると、デブの脂肪に荒縄が埋まっていくのを眺めながら、こう応えた。
「……それを言ったら、あなた方にとっては厄介なことになりそうだし」
「バラスとか? サキさん、そういうことはしないからね、アタシ達。どこまでいってもグレイゾーンよ。でも、安心しなさい。今後、絶対にこいつがサキさんの前にも後ろにも現れない、それだけは約束できるから。グレイって幅あんのよ、フフ……だから、このデブになんかしたいことあったら、していいからね。なんなら、オケツの穴になんかぶちこんでやってもいいのよ、ヴィトンに色々用意してあるから、まー、先ずはキレイにしてきなさい」
アタシはこっくり頷くと、立ち上がろうとしたものの、腰が抜けてしまった。
「吉宗、サキさんに肩貸してやって!」
「分かったわ。家康、怒鳴んないで。耳遠くなったんじゃないの」
50絡みの吉宗が、立ち上がろうというあたしに寄り添い、肩を貸してくれ、腰に手を廻すと、一緒になって住居側へと歩いてくれた。
「大分、参ってるみたいね。家康、ヴィトンからアタシのサーモス取って?」
「吉宗、趣味悪いわよ。まー、けど試してみようか」
リーダー然した家康が、サーモス水筒を持ってくると、アタシの口へその飲み口を添えてくれた。
「さー、ぐっとやって! 効くんだからー」
吉宗が耳元でそう口にした。
アタシは、喉も渇いていたし、言われるままに顎を付き出してグビグビと喉を鳴らした。
それはドリンク剤みたいな味だったが、形容しがたい香ばしさに加えて、弾けるような喉ごしがあって、ちっとも美味くなかったが、なんだか身体の奥深くに泉が湧くような心持ちになった。
「どー?」
吉宗が訊ねた。
「……おいしぃ」
しばし見詰めあっていた二人だったが、じき不意に笑いを迸らせ合うと、家康が笑いながらこう言った。
「嘘おっしゃい!」
「家康、サキは優しいのよー、この娘好きだわー」
「うん、そういうことよー、それに引き換えあのデブときたら……。ダイッ嫌いよ、あーいうの」
シャワーの間、アタシの胸では‛あーいうの‚というフレーズがリフレインし続けていた。
全てが終わった今、仮初めにもアタシの心境は変化していた様で、その証拠にプレーヤーでは 『ジャクソン・ブラウン/レイト・フォー・ザ・スカイ』が回っていて、さっきからA面1曲目のタイトル曲ばかりを繰り返していた。
ところで、あのデブは、吉宗が社用車だというワンボックスに改めて出向いて、持ち帰った大型のカート付きスーツケースへ、全裸のまま押し込めるられると、アタシの圏内から永久に去っていった……。
閑話休題。時間を少々巻き戻す。
「サキちゃん、で、どーする?」
シャワーからさっぱりして戻ったアタシへ、改めて家康が訊いてきた。アタシは、シャワーを出た足で台所へ向かうと、ミルク・キャンデーを頬張りながら、ケジメだけは着けてやろうと決心していたので、それを告げることにした。
「説明はメンドイから、何も訊かないでほしいんだけど……、アタシ決めた。こいつに、アタシのハナクソ喰わせてやるッ!」
家康と吉宗は、しばし顔を見合わせてから、デブへ視線を移すと、怯えた様子のそいつをじっと見入っていた。
全裸のまま、荒縄で縛り上げられたデブは、カウンターの前で座り込んでいた、というか、置物の様に処置されていた。じき、家康と吉宗は二人してアタシへ向き直ると、家康がアタシへこうレスった。
「デブ、喜ぶんじゃない? あれ、そーいう野郎よ」
アタシも、そうかもしれないなと思ってはいたのだが、電話でデブへああ啖呵きった手前もあって、ケジメはケジメだし、そこにボーナス・トラックを付け加えることでウマイ塩梅に修まるんじゃないかと考えていたのだ。
「で、お二人にお願いがあるんだ。もっとも、ヴィトンには用意ないはずだけどねぇ」
二人は、またしても顔を見合わせた。が、今度はすぐに、これまた二人してアタシへ視線を戻すと、吉宗がアタシへ微笑んでこう言った。
「面白いんでしょ? きっと、面白いのよ、それ……。家康、アタシ、この娘好きだわ」
「サキちゃん、アタシ達、こう見えてギャラは高いのよ。だから、サキちゃんの仕事、次があるか分からないしさ……。だから、なんでもしてあげるからね。ウチラ、あんた好きよ」
家康が、そう言い終えると、二人して同時に頷き掛けてくれた。 アタシは、自然に涌き出た笑顔でもって頷き返すと、デブへ視線を移し、人差し指で鼻をほじくり始めた。デブのアソコが、だらしなくヒクヒクし始めるのを見て、アタシは鼻ほじくりながら家康と吉宗へ件のお願いをこれみよがしに依頼した。
デブのアソコは、アタシの依頼内容を聞いていくうちに、明らかに志し半ばで挫折し掛かるのをアタシ達は見逃さなかった……。家康と吉宗は、そんなデブの変容に、大喜びで拍手をし合うと、例のサーモスをヴィトンから取り出して、二人してグビグビ喉を鳴らした。
アタシのハナクソは、あんまり収穫出来なかったのだけど、それでもそれを精一杯、デブの喉奥深くへと突っ込んでやった。どうやって? 吉宗が、ヴィトンから取り出した極太バイブの先っぽへそれを付着させ、喉へ押し込むのを提案して、全会一致でそれを採用したって次第。そう、ヴィトンに用意はあったとも言える。で、デブは苦悶の唸りを上げながらも、ヒックヒックとアソコを痙攣させていた……、馬鹿かよ! ま、これがデブの頂点で、遂に真っ逆さまに墜ちて逝く、メインイベントの開始と相成った!
アタシが、家康と吉宗に依頼したのは、彼らにハナクソをホジクってもらい、それをデブに食わせることだった。
「ドリンクが効いて、こんなデブ虐めるのにガチンポよー」
「吉宗、もうシャブってあげないから! こんなデブでガチンポなんてー」
とかなんとか言い合い、笑い合い、ずーっと鼻をホジホジし合っていた。
で、結局二人のホモは、それぞれ丸薬ぐらいのハナクソをその人差し指に載せていた。アタシなら絶対願い下げのそれだった。だから、あとは二人に任せた。
二人は、例のバイブの先にそれを擦り付け、吉宗が自分の掌へ吐いた唾をそこへ付着させ、家康も笑いながらそれに倣うと、いよいよデブの口へ向けてバイブを近付けて行った。デブは頑なに口を閉じ、顔を左右へ背け、なんとか逃れようとしていた。
それを見た家康は、バイブを吉宗へ渡すと、突然デブのアソコを思いっきり踏みつけた。一瞬、悲鳴を迸らせたデブだったが、それはすぐにくぐもったものへと変わった。吉宗がその機を逃さず、すかさずバイブをその口へ突っ込んだからだ……。
デブは、涙目でウーウー唸っていたが、じきそれも消えて、遠くを見る目付きで、ただ、されるがままに、口内にバイブを出し入れされていた。溢れるデブの唾液がバイブに絡む卑猥で気色悪い音だけが、店内へ響いていた。
その後には、かなりエグい光景が展開されもしたが、二人に任せた手前、家康達の好きにさせてやり、お陰でアタシは、グレイゾーンの幅の広さを嫌という程に理解したとだけ言っておこうと思う……。
という次第で、アタシは、アタシの身に起きた不名誉な事態を、吉川以外の誰にも知られることなく、今日、こうして社会復帰の日を迎えるに至った。そう、店のトラックを転がして、千葉の奥地へパッケージ業務へと向かっているのだ。
カーステレオでは、『ファウンテインズ・オブ・ウェイン/トラフィック・アンド・ウェザー』が掛かっていて、今は‛ディス・ベター・ビー・グッド‚がアタシの澱を濾過していく。
海岸線を走る通りを、うってつけの薄陽を浴びながら走り抜けるトラックを操りながら、アタシは、確かに社会復帰を実感している。
「イェーイ!」
気付けば、そう口にしていた。
終わり
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