世界は驚く 愛国者学園物語 第209話
世界のメディアは、
「日本の総理大臣、絶叫」
「私は神の国の戦士」
「日本の野党、発言を止められず」
などと伝え、どのメディアも、日本の総理が冷静さを失って絶叫したことを繰り返し報道した。ニュース番組のキャスターたちは、彼の絶叫とは対照的に、石のような表情でニュースを述べ伝えた。インドネシアの著名な評論家は、日本が核兵器を持っていなくて良かった。もし持っていたら、この総理大臣は叫びながら打ちまくっていたことだろう、と皮肉を込めて批判した。
他の西側諸国のメディアも、概ね(おおむね)似たような主張を繰り返したが、日本人や韓国人、それに中国人への警戒感を隠さない保守派たちは、「
黄禍論
(おうかろん・こうかろん)」を口にするようになった。これは、黄色人種による脅威を唱える人種差別的な論であり、日中韓の3カ国が国際社会で大きな地位を占めていることを思えば、こういう脅威論が広まっても不思議ではなかっただろう。
米国では、
白人至上主義者
であるホプキンス大統領が、「アメリカも日本も同じ政治家が守っている」と発言した。彼はその意味に関する質問を受けると、「共に神の国を守るという神聖な任務を遂行(すいこう)しているからだ」と答え、自らの白人至上主義とキリスト教信仰を正当化し、かつ、日本人至上主義にも理解を示した。
これは、多様な人種や文化を誇り、民主主義を守ってきたこれまでの米国大統領たちとは異なる主張であった。一部のメディアはその言動を厳しく批判したものの、ホプキンスは民主主義的なプロセスで選ばれた大統領であり、白人至上主義を公の場で唱える(となえる)ことですら、民主主義の一例として容認された。
そして、米国の白人至上主義者たちは、白人至上主義と同類である日本人至上主義を批判しなかった。彼らは日本人を馬鹿にしていたが、同じ自民族至上主義者であるから、それを口にしなかった。
野上総理の絶叫事件は、世界各地に影響を及ぼしつつあった。日本の周辺諸国のメディアは、
日本が神の名の下(もと)に戦争を始めるのではないか、
と大々的に伝えた。そして、特に、北朝鮮はそのような動きがあった場合は核兵器で応戦すると発言し、それが売り言葉に買い言葉で、日本人至上主義者たちの怒りに油を注ぐことになり、彼らは日本の核武装論を無数に繰り返した。その言葉はネットの海からあふれて世界に流れ、野上を賛美し日本が核兵器を持つべきだというデモ行進が日本各地で行われた。
韓国では、野上総理の真意を問いたいと発言した大統領が厳しく追求された。野上のような人間とまともに話が出来るわけがない、と世論は考えていたからだ。急遽(きゅうきょ)行われたアンケートでは、韓国の核武装に賛成する国民が過去最高を占めた。また、ロシアの大統領は、我々には核兵器がある、ロシアをみくびる敵は後悔するだろうと言った。
@@のハン外務大臣は詳しくこの問題について答え、野上発言により、日本は神の名の下に戦争をする国になったと思う、警戒が必要だと発言した。それに対し、インタビュアーが、日本在住の@@人たちが脅迫されたり、乱暴なデモに巻き込まれて被害にあっていますが、@@政府はどう対応しますか、と質問した。それは暗に、@@軍が彼らを保護するために何らかの行動を起こすか、という意味であり、外務大臣はあらかじめその質問を知っていた。だから、自国民の保護は国家の務めであり、@@は自国民を守るための努力を惜しまない、と凛々しく(りりしく)答えて、記者たちから多数の拍手を受けると、彼の野望が膨れ上がった。そう、@@のトップになるという野望が。だから、この件を上手く片付けて、自分の実績にしようと心に誓った。
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(日本人至上主義者の)暴徒たちは警備に当たった警察の機動隊に向かって、
「我らは神の国の兵士だ、お前らはそれでも日本人か、どちらの味方だ」
などと罵声を浴びせた。
日本の警察官僚と、そのOBである内閣危機管理監は
極秘の治安維持計画
を思い出した。それは、もし台湾海峡危機が勃発(ぼっぱつ)したら、日本国内で、日本人と@@@@@の間でどのような衝突が起きるかを想定し、対応する計画だった。そして今、彼らはそれを金庫から引っ張り出して、あわてて読み返した。台湾海峡危機はまだ起きていないが、衝突は現実のものとなった。彼らは全国の警察を動員して、この事態に立ち向かうことにしたが、その心中は穏やかではなかった。果たして、人々の怒りはいつ鎮まる(しずまる)のだろうか。