ADHDの人がお酒を飲むと「我を忘れる」わけ
ADHDを抱える人がアルコールを摂取した際に、特有の影響を受けやすいことは、科学的にも心理的にも興味深いテーマです。
「お酒を飲むと、つい自分を忘れてしまう」「本来なら控えるべき言動をしてしまう」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ADHDの人がアルコールに対してどのような反応を示すのか、そして「我を忘れる」理由について考えてみます。
1. ADHDの脳とアルコールの関係
ADHDの人は、脳の神経伝達物質である「ドーパミン」と「ノルアドレナリン」のバランスが通常と異なり、これが特性に影響を与えていると言われています。
アルコールには、この神経伝達物質に作用する効果があり、特にADHDを持つ人に対しては次のような影響が現れることがあります:
① 自己抑制機能の低下
アルコールは、脳の前頭前野(自己抑制や判断を司る部分)を抑制します。
ADHDの人はもともとこの部分の活動が低下しやすいため、アルコールの影響でさらに自己抑制が効かなくなります。
その結果、普段であれば考え直す行動や言動が、抑制されずにそのまま表に出てしまいます。
② ドーパミンの過剰分泌
アルコールは、一時的にドーパミンを増加させる作用があります。ADHDの人は、日常的にドーパミン不足を感じやすいため、アルコールによってドーパミンが増えると「心地よさ」や「多幸感」が強く感じられます。この感覚に引き込まれ、つい我を忘れるような行動を取ってしまうことがあります。
③ 感覚の過敏さが緩和される
ADHDの人は感覚過敏を持つことが多く、日常的に刺激が多すぎる環境に疲れる傾向があります。
アルコールはこの感覚を鈍らせるため、リラックス感や「刺激から解放された感覚」を味わいやすいのです。
この状態に安心して、心のガードが緩みやすくなります。
2. ADHDの特性が影響する「我を忘れる」行動
① 感情のコントロールが難しくなる
ADHDの人はもともと感情の起伏が大きいことがあります。
アルコールが感情をさらに解放するため、嬉しいことがあれば大げさに喜び、怒りや悲しみがあれば制御不能に溢れ出してしまうことがあります。
普段なら抑えられるような小さなトリガーが、アルコールの影響で大きな反応を引き起こします。
② 衝動性が増す
ADHD特有の衝動性は、アルコールを摂取することでさらに顕著になります。
例えば、「一杯だけ飲むつもりだったのに飲みすぎてしまう」「本音を思わず口に出してしまう」「大胆な行動に出る」といったことが起きやすくなります。
この衝動性の増加は、後から振り返って後悔する原因にもなりがちです。
③ 時間感覚が曖昧になる
ADHDの人はもともと時間感覚が薄い傾向がありますが、アルコールによってこの特性が強まります。
「飲み始めたら気づいたら朝だった」「一緒にいる人が疲れているのに気づかずに話し続けてしまう」など、時間や周囲の状況を忘れてしまいがちです。
3. お酒を楽しむための工夫
ADHDの人がお酒を飲むときに気をつけるべきポイントは、「環境」と「自分のペース」を意識することです。
以下のような工夫を取り入れることで、アルコールとの付き合い方をより良いものにできます。
① 自分の限界を知る
お酒を飲む量やペースをあらかじめ決めておくことが重要です。
「今日は2杯まで」「1時間に1杯だけ」というように具体的な目安を設定することで、飲み過ぎを防ぎやすくなります。
② 安心できる環境で飲む
騒がしい居酒屋や人が多い場所ではなく、信頼できる友人やパートナーと一緒に飲むことが安心です。
自分をコントロールしやすい環境を選びましょう。
③ アルコール以外の楽しみ方を増やす
飲み会での会話や食事、ゲームなど、アルコール以外の楽しみ方にも目を向けることで、「お酒を飲むこと」そのものへの依存を防ぎやすくなります。
4. まとめ:自分を見失わない飲み方を
ADHDの人がアルコールを摂取すると、「我を忘れる」感覚が特に強くなるのは、脳の特性とアルコールの影響が複雑に絡み合っているからです。
ただし、その特性を理解し、自分に合った飲み方を見つけることで、アルコールとの健全な付き合い方ができます。
お酒は、リラックスや社交のきっかけになる一方で、過剰に頼ると自分を見失う原因にもなりかねません。
「楽しい時間を過ごすために、どう飲むのが自分にとってベストなのか」を意識してみてください。
そうすれば、アルコールを「コントロールする」感覚を少しずつ身につけていけるはずです。