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80歳になったさくらが表現する老後のリアリティ(+長編映画『PLAN75』の感想)

話題の映画『PLAN75』を観てきたので感想を書きます。

▼ざっくり感想:

丁寧で、よく出来ていると思います。観ていて身につまされる思いをされた方も居られたのではないでしょうか。私はまだ高齢者ではないのですが、明日は我が身の話です。

倍賞千恵子が演じる主人公が静かに追い込まれていく様子を、早川千絵監督はじっくり時間を掛けて丁寧に描いていました。家族も居らず、友達も死んでしまい、職も失い、家で静かに過ごす日々。どんどん尻すぼみになっていく生活が観ていてしんどかったです。

主要な登場人物は4人。倍賞千恵子が演じる後期高齢者の女性がPLAN75の使用を決断します。あとの3人は若者です。磯村勇斗が演じるのは市役所の職員でPLAN75の窓口担当。河合優実が演じるのは大学生くらいのおそらくバイトでPLAN75のコールセンターに勤めています。そしておそらくフィリピン人のステファニー・アリアンが演じる外国人労働者は、故郷に残した息子の手術費用捻出のために日本に出稼ぎに来てPLAN75関連施設の遺体処理の仕事で高給を得ています。

フライヤーに顔が出ている4人。

映画のプロットとしては倍賞千恵子がPLAN75の使用を決断するまでと、決断してから実行されるまでをドキュメンタリー風に追うのがメインで、それと並行してPLAN75に関わる中で仕事の中で気づきを覚える磯村勇斗と河合優実、そして汚れ仕事をこなしながら逞しく生きるステファニー・アリアンを描きます。

▼ほぼ唯一の不満だった点:

倍賞千恵子とステファニー・アリアンの描写は非常に丁寧でしたが、一方で磯村勇斗と河合優実の描写やキャラクターの掘り下げはやや薄味すぎだったかなと感じました。二人とも最初は平気で勤めていたけど、だんだんこの仕事の辛さに気づいて心を病んでいく(変化していく)のですが、映画で語られる部分だけではどちらも唐突な感じがあり、説明不足だと思いました。

特に河合優実はこの映画で語られるまでにどのくらいコールセンターの仕事の経験があったのか、なぜ倍賞千恵子が心に響くきっかけになったのか、というキャラクターの中核になる部分やディティールがほとんど語られません。この点は私には消化不良で残りました。

全体的に雰囲気とニュアンスだけで語って、結論は観客に委ねるタイプの映画です。本作の美しいラストカットなんて、その極みだと思います。このこと自体には不満はないのですが、それだとしても、もう少し準主人公キャラについても判断材料になるものは提供してほしいと思いました。

(こんな些細な関わりでも、何かのきっかけで人は変わるかもしれない。というメッセージだったのかな、好意的に受け止めるならば)

▼80歳になったさくらが表現する老後のリアリティ:

本作は死の恐怖を感じさせる映画なので一種のホラー映画だと思うのですが、私が一番恐怖を感じたのは実は映画本編ではなくて、映画館に入った瞬間の光景でした。

映画館の興行不振が問題になっている昨今では珍しいくらいの大盛況で、しかもほとんどが高齢者なのです。見渡す限りジジとババの海。250人程度のキャパに対して150人弱は居たでしょうか。薄暗いのでよく判断はできませんが後期高齢者らしき方も散見されました。

それもそのはず、主人公を演じる倍賞千恵子は2022年6月29日で81歳なのです。そのファンの年齢層たるや、推して知るべし。

倍賞千恵子といえば、言わずもがな、寅さんの妹「さくら」です。

可愛い妹だったさくらちゃんもすっかりお婆様になられて。見守ってきたファンも後期高齢者になりつつあって。

映画館を埋めていた多くは倍賞千恵子ファンでしょう。この空間は何だ?この箱で映画上映中に無痛ガスが注入されて我々全員がPLAN75として処理されるのか?と最低なブラックジョークが頭をよぎりました。

おそらく倍賞千恵子さん本人はお元気でもっとキビキビ動ける方なのだろうと思いますが、本作では役作りのために敢えて鈍臭く歩いたり、笑顔を封印して演技していました。これはクリント・イーストウッドの『運び屋』に通ずるものがあります。当時87歳だったイーストウッドもわざとヨボヨボ歩いて好評を得ました。続く出演作の『クライ・マッチョ』では元気に跳ね回って演技したらこちらは不評だったので難しいものですが。(苦笑)

PLAN75の観客の多くが自分の最期について考える機会が多いのはおそらく事実でしょうし、この映画でのさくらちゃんの選択や行動を自分に仮託している人は多いでしょう。自身に突きつけられた現実を、エンタメの限界までリアルに描き切った映像でシミュレーションして、自分なりの答えを見つけることをお手伝いする。そういう意味で究極のマインドケアになっている作品だと思います。

了。

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まいるず
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