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【ホールドオーバーズ】を三幕構成で読み解く
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
ポール・ハナム(ポール・ジアマッティ):頑固な古典の先生
メアリー・ラム(ダイバン・ジョイ・ランドルフ):料理長
アンガス・タリー(ドミニク・セッサ):成績優秀だが反抗的な生徒
一幕
1)1970年暮れ。真面目すぎて生徒からも先生からも好かれていないハナム先生がクリスマス休暇の居残り組の宿直担当に任命される。
メアリーの息子がベトナム戦争で殉職した知らせが届き、葬式が行われる。
アンガスの母が再婚して夫と2人でハネムーンに行くことにしたので、アンガスは土壇場で居残りになる。
2)5人の生徒とハナム先生とメアリーで暮らす冬休みが始まるが、途中で1人の裕福な家の生徒の親が迎えにきて、そのまま生徒全員でスキー旅行に行く。
1人だけ親と連絡が取れなかったアンガスは居残りを続行する。
二幕
3)アンガスが肩脱臼の大怪我をする。トラブルを避けたいハナムはアンガスの提案に乗って怪我を隠蔽する。
4)3人は事務員リディアの自宅のクリスマスイヴパーティーに行く。
ハナムは淡い恋心を抱いていたが、あっさり失恋する。
メアリーは周囲の幸せな人達に囲まれて、悲しみの感情を爆発させる。
5)翌朝、クリスマスに何か良いことをしようとハナムは考える。アンガスの希望で3人はボストンへ出掛ける。アンガスとハナムは社会科見学の体裁で。メアリーは悲しみを整理できたので、ボストンへの道中に住んでる妹と休暇を過ごすため。
ボストンの美術館でアンガスはハナムの才能を理解する。2人はハナムの学友に声を掛けられる。ハナムは現状について咄嗟に嘘をついたので、アンガスは口裏を合わせる。
6)アンガスは脱走して精神病院に収容中の実父に会おうとする。すんでのところで阻止したハナムはアンガスの希望を聞き入れて、2人で病院に行く。実父に再会してアンガスは心の整理がつく。
ハナムとアンガスとメアリーは宿舎に無事に帰って、もう一人の事務員と4人で大晦日を穏やかに過ごす。
三幕
7)新学期が始まる。アンガスの行動を知った両親が学校に抗議に来る。両親はアンガスを即座に転校させる意向だったが、ハナムは初めて保護者と学校に強く反論して、ボストン行きの責任を全て自分で被り、解雇される。
8)ハナムは荷造りして大学卒業以降ずっと25年以上暮らしてきた母校をついに去る。在学を許可されたアンガスはハナムを見送る。
FIN
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原題:The Holdovers
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年6月21日
▼解説・感想:
ハリウッド式三幕構造に綺麗に当てはまりました。
一幕
一場:状況説明
二場:目的の設定
二幕
三場:一番低い障害
四場:二番目に低い障害
五場:状況の再整備
六場:一番高い障害
三幕
七場:真のクライマックス
八場:すべての結末
特に4場からの3人の過去と感情が順番にぐいぐい展開する脚本と演出が見事です。前半2場でアンガスが居残り組からさらに居残り組のどん底へ叩き落とす展開も秀逸ですね。
1)状況説明
2)3人だけに追い込まれる
3)アンガスの怪我→ハナムとの協力関係へ
4)メアリーの感情が爆発(慟哭)
5)ハナムの過去→アンガスと秘密の共有
6)アンガスの感情が爆発(再会)
7)ハナムの感情が爆発(反抗)
8)ハナムの魂の解放(2回目の卒業)
メアリー、アンガス、ハナムの順番で感情が爆発して、魂が救済されていくのが、観ていてとても快感でした。
それにしても余韻が強く残っている作品です。近いうちにまた観たいし、何ヶ月後か何年後かにサブスクに来たら絶対にもう一回観ちゃうと思います。
アンガス少年の、親の都合でクリスマス休暇に家に帰れないとか、親に連絡取れないから合宿に行く許可が降りないとか、まるでハリーポッターみたいで面白かったです。時代設定が1970年で、なんとなく英国っぽい雰囲気だなと思ったのですが、米国東海岸最北のニューイングランド州でした。
(了)
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